クラシック・レイディオ (六)
昭和三十年代に,通信系機器のパーツや通信機を製造していた富士製作所 (ブランドは“STAR”) というメーカーがあった.他にも幾社か通信機器パーツを作っていたメーカーはあったが,私の少年時代は既にトリオ商事 (春日無線電機商会,後のケンウッドの前身;ブランドは“TRIO”) と富士製作所の二社がシェアを分け合っていた.富士製作所は後に通信機部門だけが八重洲無線に買収されて,会社としては消滅した.ケンウッドも業界再編成の波に呑まれ,ブランドだけを残して,今はない.
二十年近く前,秋葉原の内田ラジオにボッタくられて買ったIFT (\8500) は,STARの[A2s・B2s]である.中古ではなく箱入りの未使用品だが,その付加価値を考慮しても高すぎると思う.しかし当時は骨董パーツ屋と,ネットオークションとの競争原理が働いていたわけではないから,私たち素人は売り手の言い値で掴まされることが多かった.
下の写真の右側の箱はボロボロで,今にも崩壊しそうである.IFTは二本が一組 (ただし中間周波増幅が一段の場合;二段増幅の場合は三本が一組になる) であるが,黄色のリード線が上から出ている左端のものが,中間周波増幅段の入力部に置かれる.昔のラジオで中間周波増幅に使用されたST管「6C6」のグリッドが管球の上から出ているので,それに接続するために黄色のリード線が,シールドの意味も兼ねてIFTのアルミケースの上の穴から出されている.
中間周波増幅管のグリッドに接続される入力用のIFTと,その真空管のプレートに接続される出力用のIFTとでは,中に入っているコイルの一時側と二次側との距離が少し異なっている.そういう設計で作られているので,二つのIFTは区別して使用しなければいけない.骨董品のmT (ミニチュア) 管ラジオに使われていたIFTは,黄色いリード線が切断されているものがあり,知識のない者が無造作にラジオから部品取りしたIFTは,外観では区別できなくなっているので,注意が必要である.
さて私が入手したこの製品は,たぶん昭和三十年代半ばに製造されたものではないかと思われる.一応,取説も著作物ではあるが,保護期間は過ぎているし,発行者自体が既に消滅しているからコピーしても大丈夫だろう.セピア色に色焼けした取説のコピーを下に掲げる.
左側のIFT (A2・B2) は特性図の谷底が広くなっている.これは音質を重視する一般のラジオ向け製品だった.
右側のIFT (A2s・B2s) は谷がシャープである.これは近接した周波数の信号を分離するのに優れた特性で,通信機用の製品だった.
ラジオの製作は,当時は割とアマチュア愛好者の多い趣味だったので,上の取説の一番下に,作ったラジオの調整方法が親切に解説されている.
上の説明書には色々なタイプのIFTについて説明がされている.これらが現在もオークションで入手できるかどうか私は知らない.
さて次回は,この骨董品IFTがちゃんと動作するものかどうか,確かめてみる.
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