クラシック・レイディオ (五)
底ブタを開けると,筐体の中には電池ボックス (単三×6) が内蔵されている.ボックスにはナショナル・ハイトップ乾電池が入ったままになっており,もしかすると二,三十年もの間,ほったらかしにされていたのかも知れない.すべて激しく液漏れしていて,そのため乾電池の電極に接するボックス自体の金属部分が完全に腐食していた.
ちなみにパナソニックの乾電池部門の資料によればハイトップ乾電池は昭和三十八年の発売である.ただし同部門の資料には昭和三十九年の発売だと書いた記事もあり,社内で統一がとれていないようだ.
ハイトップ乾電池は後継のネオ・ハイトップと並行生産されていたような記憶があるが,いつ生産終了したのかは,わからない.いずれにせよ,このディップメータの私より前の所有者が,電池を入れたままにして使用しなくなってから何十年か経ったと思われる.想像を逞しくすれば,その人が亡くなって遺族が遺品を整理していたら何に使うのかわからない機器が出てきたので,遺品整理の専門業者に引き取ってもらった.その業者には,動作確認したり修理したりする専門的な知識がないので,「動作保証なし」でヤフオクに出品したところ,買い手 (私w) がいた.そんなところだろうか.メンテされていて動作が確認されているなら,もうちょっと高い値段で売れたと思われる.私が落札したディップメータは業者の出品だったが,ヤフオクをウォッチングしていると,個人が出品している場合もたまにある.その場合は「○MHzで発振を確認した」などとコメントが付いている.そういう機器は何万円かで取引されているようだ.とはいうものの,台湾製の新品が一万円台で販売されているから,骨董品的付加価値が含まれていることは間違いない.
上の写真ではそうは見えないが,真ん中の部品は底ブタで,電池ボックスのホルダーが付いている.この箱状のものに電池ボックスが収容される.電池ボックスはもう使い物にならないので,単三電池が六本入るボックスをアマゾンで探したら,一商品だけ出品されていたので注文した.
また,ディップメータの前面パネルにはDC9Vを入力できるようにもなっている.普段の使用では,内蔵電池ではなく外部から供給するほうがいいだろう.暫く使わない時に電池の外し忘れをしやすいから,それを防ぐためだ.
内部の基板の状態を目を皿のようにして (実際は天眼鏡を使ったw) 点検したが,電池から漏れた液が付着してはいないようであり,また回路のパーツも特に異常はないようだった.ということなら,いよいよ通電である.コイルは中波放送帯域をカバーするGコイルをディップメータ上部のソケット (ソケットは二つあり,コイルによって挿すソケットが指定されている) に挿した.外付けの電池ボックス (単三×6=9V) のDCジャックをディップメータ本体に接続した.
電源スイッチのポジションは,OFFとCWとMODであった.CWは無変調波,MODはAM変調波を意味していると思われた.そこでMODの位置にオンした.ソニーの携帯ラジオもスイッチ・オンにしてNHK第一放送を受信する.ディップメータのコイルをラジオに近づけ,周波数ダイアルをNHK第一 (東京) の594kHzの近辺でゆっくり回すと,ピーという音 (たぶん1kHZ) がラジオから聞こえて,NHKの放送に混信した.これでディップメータは発振していることが確認できたことになる.基板の回路に手を付ける必要はなかった.
さてこのディップメータの使い道だが,詳しくは「グリッドディップ・メーターの使い方 万能測定器グリッドディップ・メーターの徹底的活用法」に書かれているように,昔は色々な用途があったのだが,ディップメータならではの使い道は,現在では一つだけである.現在では,円盤型ダイヤルで周波数を読み取るタイプの骨董品的ディップメータ (ダイヤルから読み取れる周波数の有効数字は二桁しかない) よりも,ずっと安価で,比較にならないほど精密度,正確度の高い測定器があるからだ.
さて秋葉原辺りでラジオ部品を漁っていると,たまに中古の中間周波数トランス (IFT;スーパーヘテロダイン方式受信機の部品の一つ) が売られている.こういうIFTは骨董ラジオから部品取りしたものが多く,そのまま使えるものは珍しい.大抵はケースの中に入っているLC (コイルとコンデンサ) 同調回路のコンデンサが劣化しているか,あるいは調整ネジを回し過ぎて455kHzから大きく外れた周波数になってしまっている.このような中古IFTを使ってラジオを組み立てる際,要修理か否か,事前にチェックするのにディップメータが役立つのである.組み立てたあとでテストオシレータを用いて調整することが可能ではあるが,もしも不良品だった場合には良品に交換するのに大変な手間を食う.これに対して,回路に組み込んでいない部品の状態でIFTの良品不良品の判定ができるのは,ディップメータだけの特長であり,そして今ではこれだけがディップメータ特有の用途なのである.
かなり前に,秋葉原パーツ街で有名な中古部品店だった内田ラジオ (既に閉店して久しい) で買ったIFTが,手持ちのラジオ部品の中にある.今のヤフオクの落札価格の二倍以上の値段で買ったものだ.ボラれたといっていい.高価だったから後生大事にしまっておいたが,ディップメータを入手したことだし,こいつの点検をやってみようと思う.
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