そら豆考
六月はビール好きには堪らぬ月だ.枝豆とそら豆が一緒に店頭に並ぶからである.ビールでなくてもいい.発泡酒でも第三のビールでも,この時期の豆は最高の酒肴だ.
枝豆は夏の間ずっと手に入るが,そら豆はすぐに季節が終わってしまう.それが欠点だが,それ故にか,出回ると食べずにはいられない.
今日も今日とてスーパーへ食料の買い出しに出かけ,そら豆を一袋,買った.枝豆もついでに購入した.
そら豆は,ほとんどの人が塩茹でにして食っていると思うし,私もそうなのであるが,もしかしたら旨い料理の仕方があるやも知れぬと思って,ネットを検索してみた.検索対象はいくつかのレシピサイト,食品会社サイトのレシピコーナーである.すると驚いたことに,料理以前の塩茹でにする段階で既に皆さんが好き勝手なことを主張していることがわかった.
その好き勝手な主張を整理すると,(1) 下拵えで,皮のどこに包丁をいれるか,(2) 茹で時間は何分か,という二点に絞られる.
まず (1) だが,皮に包丁を入れなくてよいとする主張は一件も見当たらなかった.まあこれは当然で,豆をさやから外した状態のまま茹でた場合,茹でている最中に中の空気が膨張するのだが,茹で終わって豆を鍋から取り出して室温に戻すと,中の空気が収縮する.その結果,皮にシワがよって見栄えが悪くなってしまうのだ.だから誰でも皮に包丁を入れる下拵えをするのである.
では,豆のどのあたりに包丁を入れるといいのか.これには三つの方法がある.
一つは,豆の黒いスジのところ.この部分は「お歯黒」呼ぶらしいが,なぜ「お歯黒」と呼ぶかは知られていないようだ.お歯黒をした口に見えることは確かなのだが,それじゃあ「そのまんま」で芸がない.何かないかと調べたが,そら豆と藁と炭がお伊勢参りをするという奇想天外な日本昔話があっただけである.
話が横に逸れた.「お歯黒」に包丁を入れる (言わずもがなだが,これには包丁の「あご (顎)」を使う) のにはメリットが一つある.茹で上がっても豆の見た目がかわらないのだ.
下の画像右は,実際に「お歯黒」に包丁を入れて茹でたものである.これで立派にシワは防止されているし,塩味もほんのりと着く.諸兄御存知のようにこの季節は,小料理屋さんで突き出しにそら豆が出ることがある.そのそら豆は,見た目はさやから出したままの姿だが,実は「お歯黒」に包丁が入れてあるのだ.諸兄も機会があったら確認して頂きたい.
上の画像左は,「お歯黒」の反対側に切り込みを入れて茹でたものである.包丁を入れた部分が大きく裂けている.なんかこう,股が裂けたズボンみたいである.これをジッと見ていると,青年は色んなことを考えるかも知れぬが,私は老境に達しているので何も思わない.
それはそれとして,このやり方の一大メリットは,「お歯黒」のあたりを軽く指で押さえると,皮が裂けたところからツルンと中身が飛び出てくることだ.枝豆と一緒で,片手で食べられるのである.
これはとても快適で,自分ちで茹でて食うなら見た目なんかはどうでもいいから,このやり方に限る.ちなみに,このやり方は「お歯黒」方式よりも少し強めに塩味が付くような気がする.
三番目の仕方は,「お歯黒」とその反対側の,中間あたりに包丁を当てる.包丁を握り慣れない人には,このやり方が易しいかも知れないが,茹で上がりの見た目も特に良くないし,さりとて食べやすくもない.某食品会社のサイトで推奨されていたが,つまらぬことを考えるものだと思った.
さて本題は,そら豆を茹でて,そのまま食うのもいいが,あと一手間の料理というのがあるか,という話だ.
単なる試みだから聞き流して頂きたいが,「お歯黒」の反対側に切り込みを入れて茹で,中身を出したものを拵える.これをポリ袋に入れて,冷たい濃いめの出汁を注ぐ.これを冷蔵庫で暫く放置すると,冷たい煮びたしのようになる.煮びたしじゃないけどね.
そら豆は,単に茹でて食うのもいいけれど,冷たい出汁で味付けするのもいいと思った.めんどくさくなければお勧めである.
あ,茹で時間についての蘊蓄を書き忘れた.茹で時間について,二分きっちりでなければいけないとか書いている阿呆がいるが,茹で時間は,そら豆の熟し具合によって決まる.茹でながら様子を見て,茹で上がりを決めればいいだけである.臨機応変,これに尽きる.(了)
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