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2019年6月 2日 (日)

曲学阿世の売国奴

 まず次の日本医事新報社の記事から引用する.

《NEWS 【高血圧治療ガイドライン2019公表】成人の降圧目標を130/80mmHg未満に引下げ

 詳細はこの新聞記事に譲るとして,注目すべきは,次の記述である.

19日の会見で、JSH2019作成委員会の平和伸仁事務局長は、降圧目標を変更した理由について、「厳格治療と通常治療を比較すると、厳格な降圧により心血管イベントを抑制することができる」と述べ、エビデンスに基づいた変更であることを説明した。また、「生活習慣の修正が治療の基本」と強調。例えば、リスク層別化により低・中等リスクに分類された患者が降圧薬治療で140/90mmHg未満になった場合には、生活習慣の修正を強化して130/80mmHg未満を目指すなどとした。
一方で平和氏は、降圧目標の変更により、新たに450万人が降圧薬治療の対象になるとの試算を紹介。》(文字の着色は,このブログの筆者が行った)
 
 これはつまり,例えば収縮期血圧が137mmHgくらいであるので降圧剤を服用せずにいた四百五十万人もの国民が,唐突に医師から「あなたは高血圧ではありませんが,降圧剤を出しますので飲んでください」と言われることを意味している.
 高血圧ではないが降圧剤を飲まなければいけない,と高血圧学会は主張する.私たち国民には理由がわからない.降圧剤治療は,高血圧患者に対して行われるものではないのか.
 そしてこれがどれだけ巨額な医療費の増大をもたらすか.公的医療保険制度を揺るがす,まさに国難ともいうべきこの事態に際して,テレビ各局のニュースは一斉にこの高血圧学会の新治療ガイドラインを報道した.
 
 翻って,日本高血圧学会とは何者なのか.一体全体何の権限があって,高血圧治療の方法を決定できるのか.医療費の抑制は国策であるが,なぜ日本高血圧学会は,その国策を無視できるのか.その権力の源泉が国民の目に見えない.
 社会問題化したから私たちは記憶しているが,ディオバン事件という医学界の不祥事があった.Wikipedia【ディオバン事件】から下に引用する.
 
ディオバン事件(ディオバンじけん)とは、高血圧の治療薬であるディオバン(一般名:バルサルタン)の医師主導臨床研究にノバルティス日本法人のノバルティスファーマ社の社員が統計解析者として関与した利益相反問題(COI: Confilict of Interest)、および、臨床研究の結果を発表した論文のデータに問題があったとして一連の論文が撤回された事件を指す。
ディオバンの日本での臨床研究には、5つの大学(京都府立医科大学・東京慈恵会医科大学・滋賀医科大学・千葉大学・名古屋大学)が関わり、それぞれ、Kyoto Heart Study、Jikei Heart Study、SMART (the Shiga Microalbuminuria Reduction Trial)、VART (The Valsartan Amlodipine Randomized Trial)、Nagoya Heart Studyを実施し、論文を発表した。しかし2018年8月にNagoya Heart Study論文が撤回され、上記の5論文のすべてが撤回(retraction)される異常事態となった。
不正発覚までディオバンは日本国内で年間1000億円超を売り上げていたため、不正論文により年間200億円の損害が国民と患者に生じたとする試算もなされている。》(文字の着色は,このブログの筆者が行った)
 
 どうであろうか.自然科学系の諸学問分野で,企業利益のために論文が捏造されるのは,私の知る限り医学・薬学分野だけである.そして医師や薬剤の研究者が論文を捏造するのは,言うまでもなく彼ら自身に企業利益の分け前が配られるからである.
 上記のディオバン事件に関して日本高血圧学会はどのような態度をとったか.同じくWikipediaから引用する.
 
《2013年5月13日に、日本高血圧学会は臨床試験に関わる第三者委員会報告書を公表した。
 2013年7月18日に、学会公式ホームページ上で、「最近の報道と関連して高血圧治療について」と題して、高血圧治療に関する考え方を公表した。
 2013年8月1日に、学会公式ホームページ上で、「バルサルタン(ディオバン(R))を用いた臨床研究に関する報道と高血圧治療について」と題して、Jikei Heart Studyの論文不正問題に関する見解を公表した。学会側は「ディオバン用いた治療は担当医師と相談して適切に継続すべきだ」としたが、武蔵国分寺公園クリニックの名郷直樹院長は産経新聞にて、"この学会の見解では患者の疑問に回答しようとしておらず、ディオバンを飲ませ続けることだけに腐心しているように受取られかねない"との趣旨で批判した。》(文字の着色は,このブログの筆者が行った)
《日本高血圧学会でも検証がなされていたが、第三者委員会(同学会顧問弁護士 平井昭光, 京都大学臨床研究管理学教授 川上浩司, 日本高血圧学会理事で名古屋市立大心臓・腎高血圧内科学教授 木村玄次郎,大阪大学臨床遺伝子治療学教授 森下竜一)と日本高血圧学会理事長の堀内正嗣はVART Studyに不正は無いと擁護していた。》(文字の着色は,このブログの筆者が行った)
 
 結局この事件では,厚労省がノバルティスファーマを薬事法違反の疑いで東京地方検察庁に告発し,東京地方検察庁はノバルティス元社員の男を薬事法違反として逮捕したが,東京地裁は,論文捏造の事実関係を認めた上で,薬事法違反には当たらないとする無罪判決をした.ディオバンの臨床試験結果は捏造であるが,薬事法違反ではないとしたのである.国民の健康に関する臨床試験データが捏造されたのに,どうして法違反ではないのか,私たち国民には理由がわからない.東京地裁の「データは嘘だが法違反ではない」は,非論理性であることにおいて「高血圧ではないが降圧剤を飲みなさい」と似ている.w
 
 このように私利私欲のために医学研究が歪められるのは,特に生理検査の基準値に関してであろう.数値がほんの少し変わるだけで,巨額の企業利益がもたらされるからである.以前は週刊ポスト誌が日本高血圧学会を批判する記事をしばしば掲載したが,現在はどうなのだろうか.今回の「高血圧ではないが降圧剤を飲みなさい」という治療指針が策定されるに際して,高血圧学会幹部の所属研究室に製薬会社から資金が流れた形跡はないのかどうか.私は,収縮期血圧が130mmHgを超える高齢者の一人として,週刊誌に事実関係の調査報道を期待している.
 さて一昨日,掛かりつけの医院で定期的に受けている診察のあと,降圧目標が下げられたことについて医師と話をした.
 私の掛かりつけ医は「あれは数字をいじって言葉遊びをしているんです」「あまり惑わされないほうがいいと思いますよ」と語った.
 学会のボスたちは曲学阿世の徒であるが,市井の内科医たちは健全なのである.私は安心した.

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