自然科学書はやはり最近の書籍がよろしいかと…
別稿のザゼンソウに関する記事はまだ未完だが,動物でも植物でも細胞が熱を産生するのはミトコンドリアの機能だ.私はもう来年には齢七十であり,ミトコンドリアがどうのこうのという基礎的な科学の勉強から遠ざかって久しい.ザゼンソウの記事を書きながら思ったのだが,忘れてしまったことが多いから,また少し勉強し直してみようという殊勝な考えを持つに至った.
ミトコンドリアについて書かれているネット上の資料をいくつか読んだら,参考図書として『ミトコンドリアが進化を決めた』(みすず書房) を挙げている大学の現役研究者がいた.定価4,104円 (本体価格3,800円) という少々お高い本である.それで古書を買うことにしてAmazonを検索すると,配送料込で3,296円で評価「中古品 - 非常に良い」の出品が見つかった.早速注文して,それが昨日届いた.
梱包を解き,本を手に取って「オヤ?」と私は思った.「中古品 - 非常に良い」というより,これは読んだ形跡がないのである.みすず書房宛の読者カードはもちろん,書店の注文伝票までが挟まれているではないか.
不思議に思いつつ読み始めたら,まだ本論に入る前の「序 ミトコンドリア ― 世界を操る陰の支配者」の,一ページ目の終わりから,次のような記述があった.
《… ミトコンドリア遺伝子は母系の姓ののような役目を果たし、そのおかげで、征服王ウィリアムや、ノアや、ムハンマド (マホメット) まで父系の出自をたどろうとするように、母系の祖先をたどれるわけである。最近ではこうした考えの一部に異論も出ているが、おおかたこの見解は有効となっている。もちろん、これを利用すると、われわれの祖先がわかるばかりか、どれがわれわれの祖先でないのかも明らかになる。ミトコンドリア遺伝子を分析した結果によれば、ネアンデルタール人は現代のホモ・サピエンスと交雑しておらず、ヨーロッパの縁 (ルビは「へり」) で絶滅に追い込まれてしまったのである。》
ここまで読んで私はガックリとうな垂れた.なぜなら,今からもう十年近くも前 (2010年) に,ネアンデルタール人と現生人類は交雑していたらしいとのことが,DNA分析の結果で認められたからである.(Wikipedia【ネアンデルタール人】)
『ミトコンドリアが進化を決めた』の奥付をみると,2007年に第一刷が出版されていた.そのたった三年後に,著者が書いた《ミトコンドリア遺伝子を分析した結果によれば、ネアンデルタール人は現代のホモ・サピエンスと交雑しておらず、ヨーロッパの縁で絶滅に追い込まれてしまったのである 》はひっくり返ってしまったのだ.これからこの書物で説かれるだろうミトコンドリア遺伝子の分析の信憑性に,疑問が生じたわけである.
こうなると,『ミトコンドリアが進化を決めた』は内容が古いから,「これは正しい」「これは「誤り」と,書かれていることの正誤を一つ一つ判断しながら読まなければいけないことになる.しかし,それは最新の論文誌に目を通している現役の研究者でなければ無理な相談である.つまり私のような門外漢は,最新の出版物を買って読むべきだったのである.
ところで,私が購入した『ミトコンドリアが進化を決めた』は読まれた形跡がないと上に書いたが,もしかすると,この本を古本屋に売った人も「序」のネアンデルタール人の交雑の箇所を読んでガックリし,それ以上は読まずに売り払った可能性が高い.w
さて私はどうするか.読者カードと注文伝票を挟み込んで再度売るか,あるいは書かれていることを他の資料にあたりつつ慎重に読んでみるか,いま思案中である.
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