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2019年4月25日 (木)

ザゼンソウ (五)

 ザゼンソウは,サトイモ科ザゼンソウ属の多年草である.同じサトイモ科のミズバショウが尾瀬沼から尾瀬ヶ原に到る一帯に大群落を成し,その白く可憐な印象もあって尾瀬を代表する植物とされているのに対し,ザゼンソウの暗赤色の苞は湿原の中では地味で目立たないため,見つけにくいという.
 ここでこのブログ読者には不必要かも知れない註を以下に.苞 (ほう) とは蕾を包むように葉が変形した部分をいう.この苞の中に包まれているのが花の部分で,難読だが,肉穂花序 (にくすいかじょ) という.で,肉穂花序とは,
 
花序の一種。中軸が肥厚して多肉質となり、その周囲に柄のない多数の花が密生しているもの。穂状花序の特殊化したもの。テンナンショウ、ミズバショウ、パイナップル、トウモロコシなどがその例 》(引用元;精選版日本国語大辞典)
 
 さらに穂状花序 (すいじょうかじょ) とは何か.
 
無限花序の一つ。長い花軸に柄のない花が穂状につくもの。オオバコ・ヒトリシズカなどにみられる。》(引用元;精選版日本国語大辞典)
 
 では無限花序とは何か.
 
花序を形態上の相違などにより各種の型に分類する場合、開花の順序によって二大別するうちの一つ。有限花序に対していう。花がまず花軸の下から咲きはじめて順次上の方へと咲いていくか、外側から順次内側のものへと咲いていくかするもの。花の付き方などによって総状花序、穂状花序、頭状花序、尾状花序などにさらに分けられる。》(引用元;精選版日本国語大辞典)
 
 そもそもこの記述では,花序とは何かがわからぬと何もわからない.
 いかに日国 (日本国語大辞典) といえども,つまりは国語の辞書であるから,隔靴掻痒で埒が明かない.百科事典で調べなければ,というわけで Wikipedia【花序】の項目を開くと,こうある.
 
花序(かじょ)とは枝上における花の配列状態のことである。チューリップのように茎の先端(茎頂)に単独で花をつけるもの(こうしたものを単頂花序という)もあるが、ヒマワリやアジサイのように花が集団で咲くものもある。このような花の集団を花序という。花の配置、軸の長短、花柄の有無、比率等により、いくつかの基本形態がある。
大きく分けて、有限花序と無限花序に分類することができる。
無限花序 (英語: indefinite inflorescence) は、花茎の主軸の先端が成長しながら、側面に花芽を作って行くような形のものである。多数の花が並んでいる場合、基本的には先端から遠いものから順に花が咲く。
有限花序(英語: definite inflorescence) は、花茎の主軸の先端にまず花が作られ、次の花はその下方の側面の芽が伸びて作られるものである。当然、先端の花が最初に咲く。
 
 明快である.しかも Wikipedia【花序】は図解までしてあってわかりやすい.これなら最初から Wikipedia を読めばよかった.ヾ(--;)
 というか,こういうことは高校の科目「生物」で覚えた知識であった.しかし高校の「生物」はひたすらこの種の用語を暗記しなければならず,他の理系科目とは異なり,論理を理解していれば済むというものではなかった (今でもそうだろうと思う) から,暗記が不得意な私は,大学入試は物理と化学で受験した.そのため今でも,植物学,とりわけ草本の分野は大の苦手だ.
 しかし今は Wikipedia がある.私はウェブ上の情報を調べるとき,常に Wikipedia を開いたままにしてあり,「?」と思ったことはすぐ調べるようにしている.ありがたい世の中になったものだ.
 しかしこの百科事典の日本版が発足した当時,項目のほとんどが芸能界のことだったことを覚えている人は多いであろう.先進国の Wikipedia の中で,日本版は著しく特殊であると批評された.しかも芸能情報以外の項目はといえば,専門家ではない人がテキトーに書いたものが多く,書かれていることのほとんどがゴミだとまで酷評された.それが今ではどうだろう.昔はもう最初っからこれはダメだと相手にもされなかった百科辞典なのに,今では,書いてあることが事実かどうかを,さらに調べなければいけないという程度にホントらしくなった.裏を取る手間を惜しまなければ,かなり使える辞典だ.そこら辺の学生は,他の資料で確認することをせずに Wikipedia をコピペするだけでレポートを書くから不可をもらってしまうわけだが.w
 
Yun_2595
[ザゼンソウ;ゆんフリー写真素材集から借用した.file name "yun_2595.jpg" in ゆんフリー写真素材集,Photo by (c)Tomo.Yun ]
 
 さてそんなことは横に置いて,既に述べたように私は,中学から高校にかけて何度も尾瀬に足を運んだが,遂にこのザゼンソウを見ることが叶わなかった.
 そしてそのままザゼンソウのことは忘れてしまっていたのだが,先日,waiwai さんのブログ《ネコな日々》で《ザゼンソウと…》を読んで,少年時代の忘れ物を思い出した.なんで私はザゼンソウを目にすることができなかったんだろう…と.
 それで,ザゼンソウのことを調べてみた.まずその「特徴」小項目から見てみよう.
 
仏像の光背に似た形の花弁の重なりが僧侶が座禅を組む姿に見えることが、名称の由来とされる。また、花を達磨大師の座禅する姿に見立てて、ダルマソウ(達磨草)とも呼ぶ。
冷帯、および温帯山岳地の湿地に生育し、開花時期は1月下旬から3月中旬。開花する際に肉穂花序(にくすいかじょ)で発熱が起こり約25℃まで上昇する。そのため周囲の氷雪を溶かし、いち早く顔を出すことで、この時期には数の少ない昆虫を独占し、受粉の確率を上げている。開花後に大型の葉を成長させる。
ザゼンソウの発熱細胞には豊富にミトコンドリアが含まれていることが明らかになっている。しかしながら、発熱の詳細な分子メカニズムは、現在のところ分かっていない。動物における発熱には、「脱共役タンパク質」(だつきょうやくたんぱくしつ)が関わっていることが突き止められているが、このタンパク質は、発熱しない植物にも幅広く存在しており、ザゼンソウの発熱に関与しているかは不明である。
発熱時の悪臭と熱によって花粉を媒介する昆虫(訪花昆虫)であるハエ類をおびき寄せると考えられている。全草に悪臭があることから英語では Skunk Cabbage(スカンクキャベツ)の呼び名がある。》(文字の着色は当ブログ筆者が行った)
 
 初っ端から誤りがある.w
 これを書いた人は,ミトコンドリアのことを書いているところをみると,植物生化学ジャンルの人かも知れない.しかし私と同じように実際の植物には疎いようだ.というのは,既に述べたように,ザゼンソウの「仏像の光背に似」ているのは,「花弁」ではなく苞なのだ.
 それはともかく,この箇所の編集者は「ザゼンソウの肉穂花序で発熱が起こ」ることを確かめた研究者がいたということを知っているのだから,ぜひともその原著論文の書誌事項を示して欲しかった.理由不明だが「脚注」に文献名の記載がない.示されているのは岩手日報という新聞の記事だけだ.つまり Wikipedia【ザゼンソウ】を編集した バカ 人は新聞記事を記載内容の出典にしているのである.裏の取りようがない.
 Wikipedia【ザゼンソウ】は,雪中に埋もれたザゼンソウの花序が発熱するので《周囲の氷雪を溶かし、いち早く顔を出す》というが,本当か.どうやって確かめたのか.
 私は,植物生化学文献の大海の中からザゼンソウの発熱に関するその論文を探す力はないけれど,書誌事項がわかれば手に入れて読んでみたい.
 なぜなら,苞に包まれ,空気層の存在によって保温されている状態のザゼンソウの肉穂花序の温度が「約25℃まで上昇する」ことと,苞が周囲の雪を融かすこととは無関係だからである.苞が周囲の雪を融かすには,なにがしかの熱エメルギーを外部に放出しなければならない.肉穂花序の発熱細胞が,雪を融かすほどの熱エネルギーを発生するものだろうか.私には信じられない.
 思考実験をしてみよう.まず一つ.例えば私が非常に高品質の冬季用寝袋にくるまったまま雪の中に埋めてもらう.私は凍えずに,体温は平熱に保たれるとしても,寝袋の外の雪は融けない.これと同じで,ザゼンソウの発熱する花序は,苞によって氷雪と直接的に接触していない.だからこそ,花序の細胞は凍結せずに生きているのである.もう一つ考えてみよう.掌を雪の中に埋める.掌には体の筋肉や内臓で産生した熱が血流を介して掌に送り込まれる.しかし長時間後,掌は雪を融かすどころか体温を維持できなくなる.これは思考実験ではなく実際にやってみればすぐわかる.ましてや,ザゼンソウの小さな肉穂花序は,私たちの大きな体が産生する熱量よりもずっと小さな,それ自体を25℃に維持できる程度のわずかな熱しか産生しないのであるから,これが積雪を融かせるものかどうか,考えてみるまでもない.

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コメント

江分利万作さんこんにちは warblerです
私は尾瀬に行ったことはありませんし行きたいとも思いません その代わり近く(と言っても何十kmも離れています)の駒止(こまど)湿原と宮床湿原に行っています
両湿原にもザゼンソウはあるとのことですが私は見たことがありません 全然別の場所では見ていますが
駒止湿原は一昨年の水害で南会津町側の道路が破損して週末の町営観光会社のマイクロバス以外は入れません 今年は5月25日からとのことです
但し北側の昭和村からなら道路が通れれば何時でも入れます 公共交通機関はないので車で行くしかありませんが
宮床湿原は南会津町内で同じく公共交通機関はないので車で行くしかありません 宮床の方が標高が低いので季節の移り変わりが一月かそこら駒止より早いです
何方も人が殆どいないので湿原一人占めって感じです ミズバショウ コバイケイソウ タテヤマリンドウ ヒオウギアヤメ サワラン トキソウ レンゲツツジ ウラジロヨウラクなどの花が見られます 多分植生は尾瀬と可也似ていると思います トンボやチョウなどの昆虫も
駒止湿原では杜鵑類(カッコウ ホトトギス ツツドリ)(ジュウイチは未見)の姿や声を見聞き出来ます 今や珍鳥化したチゴモズも普通に見られます 良いですよ 電車で行ってレンタカーを借りる手もあります 会津田島駅近くにレンタカー屋あり

投稿: warbler | 2019年4月26日 (金) 01時12分

 駒止湿原の名を知りませんでした.Wikipedia に書かれている駒止湿原の植物をみると,尾瀬とよく似ていますね.尾瀬ではナガバノモウセンゴケがメジャーな植物の一つですけれど,駒止湿原ではモウセンゴケがあるとのこと.
 尾瀬よりもかなり標高が低いので,ザゼンソウもきっとあるのでしょう.機会があれば訪れてみたいものです.

投稿: 江分利万作 | 2019年4月27日 (土) 05時00分

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