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2019年3月25日 (月)

藤沢 TO THE HERBS

 世の中は,人々が仕事をすることで成り立っていることは言うまでもない.太古の昔,まだ人類が誕生する前,アフリカで樹上生活をしていたサルたちは,植物が豊富な環境に生きていたから,そこら辺の,手を伸ばせば届く枝になっている果実を取って食べていたに違いない.これは私たちの「仕事」の概念から外れる.彼らは働かざる者であった.
 現在は否定されているが,人類の起源について「イースト・サイド・ストーリー」と呼ばれる仮説があった.この仮説は,約千万年 - 五百万年前にアフリカに大地溝帯が生じたあと,この地溝帯の東側は気候変化で森林が消滅し,サバンナになったと主張した.密林が消滅した環境に生きるサルたちの中から,二足歩行をするものが現れた.Wikipedia【大地溝帯】は次のように述べている.
 
乾燥化によって木と木の間隔が広がったことにより、木から木への移動を行う際に地面に降りる必要が生じ、ついに直立二足歩行を獲得した
 
ついに直立二足歩行を獲得した 》とはまた随分と誤解を招く言い方だ.進化が「獲得する」などと「合目的」的に起こると考えたエンゲルスじゃあるまいし,ここは「直立二足歩行できるサルのみが生き残った」とするべきであろう.だが,この仮説は既に述べたように現在は否定されている.否定された説をイジッても仕方ないが,「イースト・サイド・ストーリー」という命名は,なんともセンスのないことであった.仮説の内容が,あの「ウェスト・サイド・ストーリー」と全く無関係であり,似ているのは「東側」という点だけのダジャレだからである.働かなくても食えるエデンの園を追われたアダムに喩えて,この仮説を「イースト・オブ・エデン」と名付けたら後世の人は大いに感心したであろうに.
 それはともかく,サルが手を伸ばせば届くところに食べ物があるのではなく,何らかの理由により人類が樹上生活を追われ,能動的に食物を探しに行かねばならなくなった時に,私たちの仕事=労働が発生したのである.すなわち無為徒食,働かずに食っている私はサルに近い.異なっているのは,私は時々買い物に出かけるという点である.
 そういう長い前置きをしておいて,藤沢駅の辺りに買い物に出かけたときのことを書く.
 まずは薬局で点鼻薬「アレルカットM」と目薬「サンテゴールド40」および痒み止め「ウナコーワクール」を購入した.サルには必要のない品物である.それから藤沢駅に隣接している商業ビル「リエール藤沢」の三階に入っている書店「ブックエキスプレス藤沢店」で,何か面白そうな本はないかと棚の間を逍遥した.私は新刊書でも古書でも通販で買うのが主だが,たまには書店に行かないと,本との出会いがなくなってしまうから,書店で時間をつぶすことは絶対に必要だと思っている.
 さて結局,買ったのは椎名誠『殺したい蕎麦屋』,東野圭吾『ラプラスの魔女』,勢古浩爾『定年バカ』の三冊である.
それからエスカレーターで一階に降りて,カフェの Becker's でカフェ・ラテのラージを買い,エスカレーターが見える窓際の席で『殺したい蕎麦屋』を読み始めた.この写真入りエッセイ集の最初は「さらば愛しき犬たちよ」で,これがしみじみとよかった.私は老人性の多涙症を患っているので,つい鼻の奥がジンとしてしまった.カウンターパンチをもらった気分だ.
「さらば愛しき犬たちよ」を読み終えて,窓の外に眼をやると,このビルの二階にあるレストラン「TO THE HERBS」の,メニューを載せた立て看板が,エスカレーターのところに出ていた.そういえば昼飯の時刻だったので,TO THE HERBS で何か食おうと考えた.
 TO THE HERBS は古くからある店だ.私がまだ若かった頃,この店でしょっちゅうピザとかパスタを食べたものだが,それももう二十年以上前の話だ.w
 Becker's を出て,その立て看板のところに行くと,ドリンクの無料サービス券が箱に入っていて,遠慮なくお取りくださいと書かれていた.つまりは五百円のドリンク付きの料理を五百円引きするクーポン券だ.それを一枚とって二階に上がり,店に入った.
 いつ改装したのか知らぬが,内装は昔よりオシャレになっている.席に着くと,黒いスーツをノーネクタイでカジュアルに着たフロア担当の男が来たので,私は「海の幸のペスカトーレロッソ」を注文した.食べる料理は立て看板を見て決めていたので,メニューは開かなかった.
 続いて「お飲み物は何にしますか」と彼が言うので,グラスワインの赤を頼んだ.料理は税抜き価格千四百八十円である.
 厨房に私のオーダーを伝えに行った黒服さんは,ややあってから戻ってきた.そして「念のために,ですが」とメニューを開いてペスカトーレロッソを指で示して「これでよろしいでしょうか」と言った.
 普通の店ではペスカトーレロッソというとロングパスタを使うが,この店の料理に使われているパスタは,太い筒状のショートパスタで,たぶんパッケリ (例えばコレ) だろうと思う.私はパッケリを食べたことがないので,どんなパスタか,食べてみようと思ったのである.ちなみにペスカトーレは複数の魚介を意味し,ロッソは赤,つまりトマトソースの料理だ.
 想像するに,この店のちょっとかわったペスカトーレロッソは,オーダーする客が少ないのではなかろうか.それで,私がスパゲッティのペスカトーレと勘違いしていないか,確認に来たのだろう.
 さてそれから十五分以上経って十二時になり,店内が私以外すべて女性客で満席になった頃,ペスカトーレロッソの皿がやってきた.
 パッケリは,茹で上げてから平らにつぶしてある.大きさは縦が五センチほど,幅が四センチくらいだろうか.穴の側から見ると,ちょうど小さなイカ焼きを横にカットしたようになっている.パッケリの中に詰め物をして調理することもあるらしい.イカ飯みたいになるのだろう.w
 フォークで刺して噛むと,かなり噛み応えがある.ロングパスタの,プツッと噛み切れる「アルデンテ」の食感とは異なり,さりとて固い弾力というのでもなく,ちょっと名古屋の味噌煮込みうどんに似た印象だった.具はアサリ,ムール貝とイカ,それに大小二種類のエビだった.トマトソースの具合もちょうどよく,お値段通りの一皿だった.これは,また来た時にリピートしようかなと思った.ごちそうさまでした.
20190325a
 

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