« アンコールを一目でも (補遺1) | トップページ | タンニンはおいしくない »

2019年3月 2日 (土)

アンコールを一目でも (補遺2)

 アンコールクッキー社が,ネット上で攻撃されていたのを読んで思うところがあった.
 例えば,「アンコールクッキーが,カンボジア人の支援だと考えているなら,日本と同じ給料を払え」という主張がある.だが,もし日本と同じ程度の労務費をかけて成立するビジネスなら,日本でやればいい.いや日本でやるべきだ.日本に貧困がないわけじゃないからである.しかし,日本の洋菓子マーケットは競合会社が多い.アンコールクッキーが競争を勝ち抜いて,小さなお菓子屋さん以上の会社に成長するのは困難だと言わざるを得ない.同社がカンボジアで成功しているのは,競合が少ないカンボジアだからであろう.
 アンコールクッキー社はネット上で売上を公開していないが,たぶん年商は億を越したくらいではなかろうか.それくらいであると,少しずつではあるがビジネスを拡大していく余裕があるだろう.事実,同社は飲食店や食材販売に手を広げてきている.発展途上国におけるビジネスとしてかなり健闘していると思われる.
 もし従業員に日本並みの賃金を払っていたら,同社が実行してきた雇用の拡大なんか不可能だったわけであるから,アンコールクッキー社の経営者の才覚はなかなかのものだと言える.
  
 そもそも,同社が公式サイトに掲げている「企業理念」は,私のように企業社会に身を置いてきた人間にとっては,当然すぎる内容である.つまり同社は,カンボジアの国家再建には,海外からの福祉的援助以外に,カンボジア人の雇用を創出しなければならないと言っているのだ.この企業理念を誹謗する人たちは,国家建設における雇用創出の重要性がわかっていない.その種の人々には,支援といえば福祉的援助しか理解できないのである.いや,あるいは企業活動そのものを悪と考えているのかも知れない.
 
 私も若い頃,ベトナムで製造した食品を日本に持ってきて販売するというプロジェクトに参画したことがある.これはある総合商社がコーディネートした.
 このプロジェクトは結論として実を結ばなかったのだが,プロジェクトの目的にベトナムの経済支援なんてことは考えていなかった.参加企業は,日本国内における事業と同様にプランニングすればよく,違う点は,従業員を現地採用することである.そこに生じる日本との賃金格差が参加企業のメリットになるのだが,現地で新たに創出される雇用がプロジェクトの果実になるわけだ.
 日本国内において自治体が企業誘致をする場合を考えればわかりやすい.企業にとって何のメリットもないなら誘致に応じるわけがないから,工場建設用地を格安で提供するとか,道路などのインフラを整備して工業団地にするなどの優遇措置を誘致する側が講じ,その代わりに住民の雇用を求める.これは,雇用の創出が如何に大切なものであるかということを示している.
 
 アンコールクッキー社が日本人に誹謗される理由は,経営者が日本人であるということだ.もし経営者がカンボジア人だったら,アンコールクッキー社を攻撃する人たちの「日本国内と同じ賃金を払え」という要求は根拠を失う.同社を誹謗する人は,たぶんまだ実社会で働いたことがないので,アンコールクッキー社の企業理念が理解できないのである.だから海外資本が行う企業活動による支援を,海外からの福祉的援助と混同してしまうのだ.
 カンボジアには海外からの産業誘致が必要だ.インフラを整備しなければいけないビジネスを誘致するのは不可能に近いが,食品製造業なら敷居は低い.かつて日本のいくつもの食品企業がタイに進出して成功した.それらの企業がカンボジアにも進出してくれないものかと思う.
 それにしても,日本の若者たちが,海外で成功した日本人の会社を「現地人を搾取している」かのように攻撃するのは,愚かと言うしかない.これからカンボジアに進出しようという会社があるとして,彼らがその会社の事業意欲を削げば,現地に雇用は生まれず,カンボジアの再建はままならないのである.
 昨日の記事に紹介した幼稚な意見を再掲しよう.
 
カンボジアの方々が潤うどころか、何かにより、それを阻めていることに力を貸してしまっているのではないか?
 
 この意見の投稿者に倣えば,カンボジアに進出した企業を誹謗することは「カンボジアの方々が潤うどころか,それを阻んでいる何者かに力を貸してしまっているのではないか?」と言えるのである.(投稿者の小学生みたいな文章を,まともな日本語に添削した w)
 想像するにこの投稿者は,どこかで「貧困 (再生産) ビジトネス」の話を聞き齧ったのではないか.政府が発展途上国に,貧困に対する「人道的支援」の名目で,多額の寄付金や税金を贈るとする.すると,それを生産財や消費財に変換する民間ビジネスが発生する.これが時として,発展途上国の経済に打撃を与えることがある.長年に亘り食糧援助をしたために,その国の農業が衰えた,たなどである.
 こういう大規模な経済援助関連ビジネスと,観光客が買い物して現地に落とす少額のお金を混同して「カンボジアの方々が潤うどころか,それを阻んでいる何者かに力を貸して」いるなどと言う無知はまことに恥ずかしい.私たちはこういう穏やかな見識の旅行者でありたいものだ.
(カンボジア旅行記完)

|

« アンコールを一目でも (補遺1) | トップページ | タンニンはおいしくない »

冥途の旅の一里塚」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アンコールを一目でも (補遺2):

« アンコールを一目でも (補遺1) | トップページ | タンニンはおいしくない »