« 何はなくとも餅なのだ (二) | トップページ | 料理は上手にできなくてもよろしいんです »

2019年1月11日 (金)

何はなくとも餅なのだ (三)

『昼めし旅』で奈良の雑煮の作り方を披露した地元のかたは「黄な粉の雑煮は御馳走だった」と語ったが,そういえば私が小学生の頃,私の生家でも雑煮は御馳走扱いだった.その雑煮は,大根と人参と角餅を煮ただけ (東京風は鶏肉を入れる) の質素なものだったが.
 どうしてそれが御馳走だったかというと,当時は麦飯が主食だったからである.私の記憶の最初の頃は,米が六で麦が四の割合だった.いわゆる銀シャリは,ハレの食事であり,特別な日に炊くものであった.
 それが昭和三十年代の経済成長の中で,次第に米の割合が増えていき,東京オリンピックの前にはどこの庶民の家でも白米 (低品質の「配給米」ではあったが;Wikipedia【米穀配給通帳】参照のこと) を炊いて食べるようになったのだが,その間,当たり前だけれど,餅はずっと餅米百パーセントだった.だから正月の雑煮は,年に一度の大御馳走だったのである.
 私たちの「食」の好みは保守的だといわれる.《おせちもいいけどカレーもね!》は昭和五十一年 (1976年) のCМだったが,しかし団塊世代をしんがりとする高齢者たちは,元日にカレーを食べたりはしなかった.育ち盛りの子供時代,紅白なますと田作りと煮しめだけの質素な御節をおかずで,餅を五つも六つも食べた.高齢者たちは,あの時代の,餅が大御馳走だった記憶を死ぬまで忘れないだろう.
 
 前回の記事に《従って餅窒息事故を減らすには「なぜ爺婆たちは正月になると餅を食うのだろうか」という問題が考察される必要がある 》と書いたが,爺婆たちはこれから益々,子供時代の記憶を頼りに,正月に餅を食う習慣を後生大事にして生きていくだろう.岩村暢子さんの調査研究によれば,最近の子供たちは元旦に菓子パンを食べたりしている.そういう世代が大人になれば御節のみならず雑煮も日本の正月から姿を消すかも知れない.そうなるまで餅による窒息事故は減らないに違いない.
 さてここでようやく本題に入る.相済まぬことであるが,今までの事はすべて話のマクラであった.w
 嚥下機能が衰えた要介護者に関しては,雑煮や汁粉に入れる餅の代替品が求められている.私のような世代の者は餅に特別な思いを持っているからである.
 そこで一つのアイデアとして,粥を固めて餅のように見せかけることが考えられる.例えばつい先日 (1/3) ネットにアップされた記事《おどろきのお汁粉 》には次の記述がある.
 
お正月といえばお餅……。けれど、窒息や誤嚥のリスクの面から、かむ、のみ込む機能が低下した高齢の方へのお餅の提供は、なかなかおすすめできません。しかし、せっかくのお正月なのに大好きなお餅を食べさせてあげられない、というのも介護する側としては複雑な気持ちです。
 そんな場面において、市販の介護食材を使用することも選択肢の一つです。
 今回は、介護食材の一つでフリーズドライの「お粥ゼリーのもと」を使用したお餅のレシピです。
 ゼリーといえば、冷たくて甘いものを想像するのではないでしょうか。しかし、近年は介護食材の技術も進化し、温かくても溶けないゼリーや、ゼリーを作る素材が、多く販売されるようになっています。
》 (引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 そこで調べてみると,粥のゲル化剤がいくつか市販されており,アマゾンでも入手できることがわかった.しかし,例えば《粥ゼリーの素 宮源のお粥 》ではゲル化剤の成分が明らかにされておらず,安全性に不安がある.
 実際に同商品についてアマゾンのユーザーレビューを閲覧すると,昨年末に,次の投稿が掲載されていた.
 
非常にリスキーです。
2018年12月14日
配合成分を変更してから、非常に危険です。こんにゃくゼリー状態です。医療介護施設にしている療法士です。今年の8月以降、増粘剤が変更。中身が新商品になってから、粘りが半端なく、現場で介護職員が必死にかき混ぜるなどして、対応していましたが、重大な事故が起きました。私が直接食事介助に携わっている職種ではない事もあり、リスクを把握しきれてなかった面はあります。しかしながら、介護食を提供しているメーカーとしてリスク管理に非常に疑問があります。コスト削減が優先になってしまったのではないか?これを高齢者にしっかり飲み込めなんて無理な話です。中傷ではありませんよ、宮源さん。謙虚に受け止める部分はあるのではないでしょうか?

 
 この投稿が事実を書いているかどうかはわからない (ネット上に,同商品による嚥下事故の口コミが見当たらない) が,《中傷ではありませんよ、宮源さん。謙虚に受け止める部分はあるのではないでしょうか? 》という書きぶりからすると,粘度に関してメーカーにクレームをつけたが,はかばかしい応答が得られなかったとの印象を受ける.
 ゲル化剤で餅の代替品を作るという記事は,管理栄養士による文章がネット上に散見される.専門家が使用するのであれば危険性はないだろうが,介護専門職ではない一般消費者が,自宅で介護している高齢者に与えることは危険ではないかと思われる.

|

« 何はなくとも餅なのだ (二) | トップページ | 料理は上手にできなくてもよろしいんです »

新・雑事雑感」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/505081/67578160

この記事へのトラックバック一覧です: 何はなくとも餅なのだ (三):

« 何はなくとも餅なのだ (二) | トップページ | 料理は上手にできなくてもよろしいんです »