テレビに出た鎌倉のパン屋
元日に放送されたNHK『パン旅』を観て「あーあ」と呆れた.
この番組はレポーター役の女性二人が,鎌倉で人気のパン屋を訪ねるという企画で,BSと地上波で過去に放送されたものの再放送である.
レポーターたちが最初に訪ねたのは,鎌倉市農協連即売所の中にある「PARADISE ALLEY」というパン屋 (画像↓).
店長は,下の画像のような服装で,今まさにパンを作っている最中である.街着でパンを作るパン屋を私は初めて見た.伸び放題のモミアゲとヒゲ.毎日洗濯しているとは思えぬ帽子とブルゾン.この男の溢れる不潔感は,パン屋としての基本ができていないことを示している.最低限の心掛けとして,マスクの着用をせよ.金を払ってパンを買ってくれる客をなめるな.食品衛生に関する知識の点数をつければ,この男は零点だ.
二軒目は雪ノ下にあるドイツパン専門店だという「Bergfeld」(画像↓).店主はきちんと洗濯可能な帽子と作業服を着用し,モミアゲを短く手入れしているのはいいが,やはりヒゲ面.ヒゲは雑菌の住処である.食品衛生の点数は八十点.
三軒目は常盤 (鎌倉にある地名) の住宅街にある「kamakura 24sekki」である.店主の身なりについては,頭部の支度はこれでまあまあだが,髪の毛を短くすればさらによい.一つ気になるのはエプロン.エプロンは自分が汚れないように着るものであって,異物混入防止の役には立たない.ただしパンを焼く作業を終えたあと,接客をするだけならこの服装でもよい.

さて,このパン屋の棚に置かれているポップに「麹酵母のパン生地の旨味」と書かれている.

なんだその「麹酵母」というのは.

その摩訶不思議な「麹酵母」は,まず福井県の老舗味噌蔵に住み着いている麹菌を玄米に撒いて麹を作るのだという.
店主は「この麹に水を加えて酵母にしています」と語った.
そもそも麹とは何か.Wikipedia【麹】 には下のように記載されている.
《米、麦、大豆などの穀物にコウジカビなどの食品発酵に有効なカビを中心にした微生物を繁殖させたものである。》
日本以外のアジア諸国における発酵食品においては,アスペルギルス属 (コウジカビ;Aspergillus oryzae) の他にもサッカロミコプシス属 (Saccharomycopsis fibuligeraなど) や乳酸菌 (Pdiococcus pentosaceus) など複数の菌類により細菌叢が形成されている麹が使われる.しかし日本の発酵食品の麹では,コウジカビ以外の微生物の繁殖を抑制して製麹する.品質の安定と衛生上の点から,雑菌は可及的に繁殖せぬようにしないと,腐敗したり安全性が保証されないからである.
では酵母とは何か.Wikipedia【酵母】には微生物学的な詳しいことが書かれているが,食品製造においては普通は Saccharomyces cerevisiae を指す.酵母はかつてはイーストとも呼ばれたが,一部の悪質なパン屋が,あたかもイーストには毒性があるかのような宣伝をした (今もしている) せいで,最近はあまりイーストという名称は使われなくなっている.(正しい知識はここ)
その手のパン屋がウリにしている「自家製天然酵母」は,単に野生の酵母に過ぎない.そこら辺りでテキトーに拾ってきた「自家製天然酵母」は品質不安定で,それよりも重大なことに安全性の保証がない.これが優れたパンの作り方であるかのように褒めそやすのは,一種の都市伝説である.
「kamakura 24sekki」 の店主は意味不明な「麹酵母」という造語を使っているが,これは彼女が無学で,麹と酵母の意味を知らないことを示している.
彼女が使っている「麹酵母」は,味噌蔵に由来する麹に混入している酵母に過ぎない.完全な野生酵母ではないから安全性の問題はないと考えていいが,そんなものを「ほかの酵母にはない衝撃を感じた」とする店主の思想的立場は,「自家製天然酵母」を標榜する非科学的な連中に近いところにあるのではないか.それ故,私ならこの店のパンは買わない.食品安全について不勉強な人間が趣味の延長で開業したパン屋を,賢い消費者は敬遠すべきである.
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