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2019年1月17日 (木)

エゾナキウサギ裁判

 ココログには,閲覧された記事名をリアルタイムに表示する機能があり,先程それを見たら,五年余前に書いた《滅ぶ 》が閲覧されていた.この記事は,私が書いた文章の中でも忘れがたいものの一つなので,嬉しかった.
 古い記事なので,今後,検索にひっかかるチャンスを増やすために,この記事を再掲する.
 
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 毎日新聞(10月14日)によれば,北海道新得町の佐幌岳の国有林でスキー場の新コース造成が進められている.
 林野庁は2012年5月,開発業者に国有林の使用を認め,道も同6月に道自然環境等保全条例に基づき開発を許可し,昨年10月に着工した.
 問題は,このスキー場開発により準絶滅危惧種のエゾナキウサギの生息地が破壊されるおそれがあることである.
 エゾナキウサギは氷河期前に地続きだったユーラシア大陸から渡り,氷河期後に道内の山岳地帯に生き残ったとされ「生きた化石」といわれる.昨年,環境省のレッドリストで準絶滅危惧種とされた.
 十勝自然保護協会,自然保護団体「ナキウサギふぁんくらぶ」などが開発許可の無効を求めて提訴するという.
 小川洋子さんの『いつも彼らはどこかに』に,ハーモニカを吹くような仕草をするハモニカ兎という名の,乱獲されて絶滅した架空の小動物がでてくる.乱獲された理由は,この兎の胃の中に二つ小石が入っていて,それが人間の薬になると言われていたからだった.(本当はその小石に薬効はなかったのだが)
《最後の一羽が死んだ時、どんなふうだったのだろう。カレンダーをめくりながら時折男は考えた。賢い動物だからきっと、この世界で自分がたった一人取り残されたことを悟っていたに違いない。それでもわずかな望みを持ち、野山を駆けるのだ。茂みの奥に気配を感じれば振り向き、雪に残る足跡を見つければ匂いをかぐ。けれど望みは叶えられない。そこにいるのはいつでも種類の違う兎で、ハモニカ兎に気づくと皆逃げてゆく。彼の周りは再び静けさに覆われる。
・・・
 ある日、その時がやって来る。ハンターは目の前にいるのが最後の一羽だと気づきもしないまま、たった二つの小石のために彼を撃ち殺す。銃声に消し去られたハーモニカの音はもう二度と戻ってこない。》
 この世に生きるものすべて,いずれは種の絶滅を免れない.ではあるけれど,エゾナキウサギのような生き物が,氷河期をも生き延びてきた種が,ヒトがこの星の上で生存するためには無意味としか思えぬスキー場やゴルフ場のために滅ぶこと,それを生存競争と呼べるのか.
 いかなる動物にも,種として存続するのに必要な最低限度の個体数がある.いったんそれ以下になったら,それからどうしようと,どう懸命に保護しようと滅ぶしかない.
 林野庁も開発業者も道庁も,いずれそのゲレンデで遊ぶであろうスキーヤーも,ハモニカ兎の最後の一羽を撃ち殺すハンターが自分であることを,なぜ想像しないのか.
 小川洋子さんは読売新聞紙上のインタビューでこう語っている.
《最後の1匹の究極の孤独を、考えてしまうんです。純真さ、警戒心のなさといった、自らの美点によって死に追いやられた存在を、書き留めておきたかった》

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十勝自然保護協会,自然保護団体「ナキウサギふぁんくらぶ」などが開発許可の無効を求めて提訴するという.
 
と書いたその提訴の経過はどうであったか,二つの新聞記事を示す.
 
2017.5.22 14:55 保護団体の原告適格認めず 希少ウサギ巡る訴え却下 》 (産經新聞だが,いずれはリンク切れになると思われる)
 
自然保護団体、二審も敗訴 北海道・希少ウサギめぐる訴訟》 (京都新聞;記事本文は1/16にリンク切れになったので現在は読めない)
 
 つまり一審も二審も原告に門前払いを食わせたのであった.そしてメディアは,全国紙は二審に興味を示さなかった.
 我が国の司法は,サステナブルな国土の維持に鈍感すぎる.もしも将来,エゾナキウサギが絶滅危惧種に指定されても,この訴訟を門前払いにした裁判官たちは,そんなこと屁とも思わないのであろう.

* 愛らしいエゾナキウサギの姿

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