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2019年1月 1日 (火)

師走詣

 新年最初の記事が,年末のことである.
 暮れも押し詰まった三十日,師走詣なるものを初めてしてみた.お詣りするのは,これまで長年にわたって初詣をしてきた長谷寺である.
 私の住処の最寄り駅は東海道線藤沢駅であるが,鎌倉に行くには駅の南口から出ているバスに乗るか,江ノ電で行くことになる.この二つの経路がとても便利なので,隣の大船駅から鎌倉へ行く人は横須賀線で北鎌倉を訪ねようとする人に限られる.
 大船駅から鎌倉へのバスはあるのだが,一時間に一本か二本という状態である.しかし昨日は,あえて大船から鎌倉に行くことにした.
 それは,大船で昼飯を食いたかったからである.
 藤沢駅の周辺には,北口にも南口にも商店街がない.「商店街」と名のついた通りはあるが店の数は少なく,日常の買い物は,薬局以外は「さいか屋」「小田急デパート」か,スーパーマーケットが頼りである.
 昭和四十年代の終わりまでは藤沢駅の北口に雑多な商店や飲食店が密集していたのだが,「再開発」の名のもとに音を立てて駆逐され,現在はバスセンターになってしまった.今では駅周辺には,ろくな飯屋がない.「再開発」後も残った何軒かのビストロも今は姿を消した.
 それに対して大船は,商店街が健在だ.飯屋もある.飲み屋もある.
 ある日,大船に住んでいる私の娘が,大船にはカレー屋さんが多いんだよと教えてくれた.それで食べログなどを調べてみたら,カレー屋もインド料理屋もあることがわかった.
 その中でも人気の店は,ビストロの“カレー・クラブ キュイエール”だという.店の公式サイトを見たところではフレンチっぽい料理屋さんだが,アラ・カルトでカレーがある.そのカレーがウリになっていて,店名にもカレーをつけているのだ.
 
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 ビストロなのになぜカレー?との疑問には,店のサイトに店主が答えを書いているので,それを御覧頂きたい.
 ともあれ,藤沢から電車で大船に来た私が店の入り口に到着したのは,開店前の十時五十分だったが,この時既に十人の先客が列に並んでいた.私が十一人目の客で,そして私の後ろに,たちまち五人の列ができた.知らなかったのだが,このキュイエールは行列のできる店だったのだ.
 やがて開店の五分前に従業員の若い娘さんがドアを開けて外に出てきて,メモ帳を片手に,並んでいる客たちに予約の有無を訊ねた.私を含めて十六人の客の中で,予約なしはたったの三人であった.そして「お一人様」は私だけで,あとは全部若いカップルだった.彼らはこの昼御飯が今年最後のデートで,次に会うのは翌々日元旦の初詣ですということか.うらやましいと思ったが,顔には出さず,爺さんは静かに列に並んだ.
 開店時間になって,従業員さんが予約客を二人ずつ店の中に招き入れたのだが,次は予約なしの二人連れという順番になったところで,カウンターに椅子を一つ残して満席になった.もちろん二人連れの一人だけを席に案内するわけにはいかないから,その二人を飛び越して私が入れることになった.ラッキー.
 私は予約なしの二人連れに「お先に失礼します」と一言申し述べて,店のドアを開けた.
 中はかなり狭いが,若い恋人たちの食事にふさわしいおしゃれな造りであった.爺さんの一人客では場違い感があるかも知れない.
 
 すぐに例の女性従業員さんが満席の客の注文を順に訊いてまわったのだが,カレーを注文したのは,私のほかにもう一人がいただけで,あとの皆さんはワインをグラスやボトルで注文し,前菜はこれ,メインはあれ,と本格的に食事する構えなのであった.
 そういう内容で料理を注文すると,たぶん客単価はワイン込みで一人五千円くらいになるかも.私が二十代の頃は安月給の会社員だったから,とてもとてもそんな立派な昼御飯を摂ることはできなかった.若い人たちにも貧富は色々あるだろうが,その時にキュイエールにいた身なりの良いカップルたちは幸せそうで,私は実にしみじみとうらやましく思った.
 
 さて,暫くして私の前に届けられたビーフカレーは,カレーソースで煮込んだ牛肉とシメジのカレーに,あとから人参とグリルしたジャガイモを少し加えたものであった.そして皿に盛った御飯には,揚げたガーリックがトッピングされていた.その味はというと,ホテルのレストランのカレーとは異なって,スパイシーで素朴なカレーだった.お値段が千円で,これは高くもなく安くもなく,まあリーズナブルと言っていいだろう.
 食後のコーヒー四百円をさっさと飲み終えた私は勘定を済ませて店のドアを出た.店の外には三人も順番待ちをしていたからである.この店は,平日のランチはどうか知らないが,土曜日曜はランチでも,予約なしでは一時間待ち (客一組の食事時間が長いと思われる) を覚悟する必要がありそうだ.
 この店のカレーは,コストパフォーマンスはいいけれど,列に並んでまで食べてみる価値があるかというと,微妙なところだという気がする.待ち時間が長いのなら,私は他の店に行く.
 
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 さて店を出た私は,歩いてすぐの大船駅に戻り,バスで江の島に行き,そこから江ノ電 (ややこしいが現在の地名は「江の島」であり,固有名詞に使われる書き方は「江ノ島」である) で長谷駅まで行った.

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 江ノ電の車両の中では,大きなレンズを装着したニコンのカメラを首から下げた青年とそのお相手が中国語で会話していた.
 
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 境内に入ると,欧米人の姿がほとんどない.私の傍らを通り過ぎていく人々の言葉は中国語だった.
 
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 鎌倉の海を望む展望台でも周囲で聞こえる会話は中国語だった.
 
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 人込みの展望台を離れ,いつものように私は,境内で業者が委託運営している軽食を出す店「海光庵」に入った.ここで酒を飲むのが長年の習慣なのだ.
 
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 注文する品は,これまた習慣で冷酒二合と おでん.この店の おでん は,燗酒でもないのに,ぬるい人肌である.湯気の立っている おでん が出てきたことはない.たぶんポリ袋に一人前の おでん が入って,スーパーの食品売り場で販売されているものだ.それを注文を受けてから袋ごと鍋に入れ,湯に一くぐりさせてから出すのだろう.だから人肌である.値段は酒が一合七百円,おでん が六百五十円で,ぼったくりではないが,その寸止め価格である.だが長谷の観音様に免じて許す.海光庵を許すのも長年の習慣なのである.
 ほろ酔いで海光庵を出て,本堂の近くで御神籤を引いた.吉だった.心掛けがよければ結果もよいという卦である.ありがとう観音様.
 
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コメント

万作さん 新年おめでとうございます warblerことfulmar etcです

>暮れも押し詰まった三十日,師走詣なるものを初めてしてみた.
師走詣 初めて知りました

 私は近年は近くの北野天神に二年詣でをしています 今年は旧年内に北野天神に着けませんでしたが 出発はギリギリ旧年中なので一応二年詣でかと

 私は大晦日の正月料理 正確には正月風酒肴等 作りをやや詳しく書いてみましたので宜しければご笑覧ください 「酔狂亭日乗21/12/18忙しい一日」のストリング(私は太いのでスレ(ッド)とは言いません)の最後にあります

投稿: warbler | 2019年1月 2日 (水) 16時22分

(酔狂亭日乗31/12/18晦日働き から引用)
>市販の稲荷寿司の油揚には砂糖だか甘味料(液糖:葡萄糖果糖液とか)だかが過剰に添加されているから異常に甘い。だから店売りの稲荷寿司は好きじゃない。自分で作る方が余程マシだ。

 高校を卒業して群馬の田舎町から上京した頃,東京の立ち食い蕎麦屋で,かけ蕎麦と稲荷寿司を食って,そのあまりといえばあんまりな甘さに驚いたことを覚えています.
 いつの頃からか,コロッケも著しく甘くなりました.ファミマの「ファミコロ」をそのまま食べたのですが,甘すぎて半分食べて嫌になりました.
 昨年の年の瀬に,スーパーで鶏モモの照り焼きが安かったので買ってきて食べたのですが,これも異常に甘くて辟易しました.
 最近は洋菓子があまり甘くなくなっているのに,ほかの食べ物がスイーツ化しているようです.

投稿: 江分利万作 | 2019年1月 3日 (木) 06時42分

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