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2019年1月15日 (火)

たんぽぽ娘 (補遺一)

 ヤングの短編小説「たんぽぽ娘」を読み終えてから,ネット上にある「たんぽぽ娘」関連記事を検索して読んでみた.
 すると,伊藤典夫の旧訳をコピペした違法サイト,ブログが見つかったが,これは論外として,「たんぽぽ娘」が収められた単行本や文庫版が入手難 (古書は流通していたが高価だった) だったために,自分で原著を読んで翻訳を試みた人のいたことがわかった.たぶん十年近く前の記事であるが,その人が自分の翻訳に自信がないと書いている箇所があるので,そこを引用する.(ただしその訳文自体は,その個人サイト筆者の手で現在は既に削除されていて読めない)
 
この後、主人公はビンゴ大会に参加していて家を空けている奥さん(これ何て訳そうかすごく迷った。ビンゴ大会…なんだよね?)がちゃんと家に帰ってくるか心配になって家を飛び出し、奥さんがバスを降りるであろう最寄のバス停まで走ります。》(引用文中の文字の着色は,当ブログの筆者による)
  
 伊藤典夫の改訳中で「ビンゴ」が出てくるのは,下に挙げる二ヶ所である.
 
[原文A]
“Then, on a rainy night in mid-November, he found the suitcase. It was Anne's, and he found it quite by accident. She had gone into town to play bingo, and he had the house to himself; and after spending two hours watching four jaded TV programs, he remembered the jigsaw puzzles he had stored away the previous winter.”(引用文中の文字の着色は,当ブログの筆者による)
[伊藤訳]
そして十一月もなかばにはいったある雨の夜、彼はスーツケースを見つけたのである。それはアンのもので、見つけたのはまったくの偶然だった。彼女は街にビンゴ・ゲームをしに出かけ、家にいるのは彼ひとりだった。くだらないテレビ番組を四つ見て、二時間つぶれたところで、去年の冬しまいこんだジグソーパズルをやろうと思いたった。
 
[原文B]
“He had reached the street and was walking down it toward the corner. He was almost there when the bingo bus pulled up and stopped, and the girl in the white trench coat got out. ”(引用文中の文字の着色は,当ブログの筆者による)
[伊藤訳]
彼は通りに出て、四つ角をめざした。すぐ近くまで来たとき、ビンゴ・バスがするすると角に停車した。白いトレンチコートを着た女がバスから降り立った。
 
 上に引用した原文は,十数年前に閉鎖された“SCIFI.COM”に掲載されていた“The Dandelion Girl”から引用した.“SCIFI.COM”の後継サイトは存在するが,サイトの性格が全く変わってしまっている.
 ロバート・F・ヤングの没年は1986年なので,“The Dandelion Girl”の米国の著作権はまだ保護されているが,上に示したウェブコンテンツの末尾に“Reprinted by permission of the author's estate.”とあることからすると,このコンテンツは違法転載ではない.従って,このコンテンツからの正当な範囲での引用は合法であると考える.
 さて上記の個人サイトに《ビンゴ大会…なんだよね? 》とあるが,実は「ビンゴ大会」ではなく「ビンゴ・ホール」(ビンゴ・クラブとも) と呼ばれる常設の遊技場が正しい.
 ビンゴ・ホールとは,大雑把に分類すると二種類あって,一つは教会などの慈善団体が運営資金を確保するために営業する施設であり,非営利である.もう一つは全くのギャンブル産業であり,賭博に類する.
 実は,元日に放送された関西テレビ系列局『なるほど!ザ・ワールド 新春ナゾだらけの国SP』で,グリーンランドのビンゴ・ホールの様子が泉ピン子のレポートで放送された. 私は,ビンゴ・ホールの客層は余り若くない女性たちだという知識はあったが,実際のビンゴ・ホールの中の様子は,この放送で初めて見た.そして中にいた客は余り若くない女性たちばかりだったので,なるほどーと感心した.
 次のビンゴ・バスとは何か.普通の意味は,ビンゴ・ホールへ往復するバスで,これは車体デザインが日本のバスより派手.映画『ローラーガールズ・ダイアリー』(2010年) にちょっと出てくる.この映画でビンゴ・ホールとかビンゴ・バスを知った人は多いだろう.
 もう一つは観光バスで,移動中に中でビンゴをするバスらしい.日本の団体旅行みたいであるが,私はこれについて知識がない.
 
 以上,伊藤典夫訳の『たんぽぽ娘』の中で,ちょっとわかりにくい単語について説明をした.“to play bingo”は非営利のビンゴ・ホールへ Anne がビンゴをしに出かけたということ,“the bingo bus”は,そのビンゴ・ホールからの帰りのバスのことであった.
(たんぽぽ娘 (補遺二) へ続く)
 
[この連載は以下の四記事です]
たんぽぽ娘
たんぽぽ娘 (補遺一)
たんぽぽ娘 (補遺二)
たんぽぽ娘 (補遺三)

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