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2018年12月19日 (水)

林先生がまたまた大嘘を

 先日 (12/16) の『林先生が驚く初耳学』で,「東郷平八郎と肉ジャガ」という使い古された大嘘が,またまた放送された.
 ざっと以下に番組の当該部分を紹介する.
 林先生への出題は「ビーフシチューの偽物が,日本の家庭料理の定番になりましたが,それは何でしょうか」というもの.
 これに対する林先生の答えは,「東郷平八郎がビーフシチューを作ろうとした」というヨタ話から始まった.(画像↓)
 
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 林先生いわく「ところがレシピはないし材料も不十分だった」(画像↓)
 
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 林先生「そこで日本の調味料でビーフシチューの色を出そうとしたら,現在の肉ジャガができて,これはこれでおいしいじゃないかということになった」(画像↓)
 
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 ナレーション「ビーフシチューから偶然誕生したのが肉ジャガなのです」
 
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 とまあ,林先生が中学生並みの浅薄な雑学知識を披露したあと,番組制作サイドの暴走 (捏造) が始まった.
 下のテレビ画面は,没後に神格化される程の人物であった東郷平八郎が,こともあろうに公私混同して「ビーフシチューを海軍 (舞鶴鎮守府) の担当者に命じて作らせた」というバカ話が,明治三十四年のことだったとナレーションされた場面である.
 
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「明治34年頃」の背景に『海軍厨業管理教科書』 (当ブログ筆者による註;海上自衛隊舞鶴総監部に保管されている) の表紙と,「甘煮 材料 生業肉…」の記述が読み取れるが,実はこの『海軍厨業管理教科書』なるものは,昭和十三年に発行されたものである.地方鎮守府が独自に発行したものを含めて海軍のレシピ集において,最初に「肉ジャガと思しきもの」が記載されたのはこの『海軍厨業管理教科書』が最初であり,これを明治に遡ることはできない.例えば舞鶴鎮守府が明治四十一年に発行した『海軍割烹術参考書』には,「肉ジャガと思しき料理」の記載はない.
 テレビ画面に「明治三十四年頃」と書いておきながら,その背景に昭和十三年の本を,あたかも明治の書物であるかのように掲げるところなんぞは,『初耳学』スタッフが視聴者を騙す気満々であることの証左である.
 明治時代の海軍で肉ジャガが作られたという事実はないのであるが,大正時代に民間で出版された多数の料理本に,現在の肉ジャガに相当する料理のレシピが掲載されている.すなわち昭和十三年刊行『海軍厨業管理教科書』に記載された「甘煮」は,民間の料理本を参考にして書かれたものなのである.
 
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 それではなぜ肉ジャガの発祥話が「明治四十三年頃,東郷平八郎がビーフシチューを作ろうとしたが……」で始まるかというと,これは平成七年に,舞鶴市在住の清水孝夫という男が,舞鶴の町起こしのためにデッチ上げた嘘なのである.(嘘がとっくにバレているのに,それでもまだしらばくれている厚顔無恥サイト舞鶴肉じゃがまつり実行委員会;清水孝夫は故人だが,この実行委員会の代表であった)
 バレない嘘をつくには博覧強記の知識と知力が必要であるが,残念ながら清水孝夫にはその知識知力がなかった.そのため清水は,東郷平八郎がビーフシチューを作れと命じた舞鶴鎮守府になかった材料として,よく調べもせずに,ワインとデミグラスソース等を挙げた (画像↑) のである.
 ところが,明治期にイギリスから日本に伝えられたビーフシチューは,牛肉をトマトソースで煮込んだものであり,ワインやデミグラスソースは使われていなかった.この当時のレシピは上記の『海軍割烹術参考書』に記載されている.清水孝夫が舞鶴の町起こしのために広めた「東郷平八郎がビーフシチューを作れと命じたが材料が調達できなかったので作れなかった」は稚拙な嘘なのであった.
 実は,清水孝夫は,東郷平八郎云々は自分が拵えた作り話であると,のちに公表している.そして,その作り話は,それ以前からある「肉ジャガは海軍発祥の料理」説に基づくものなのであった. 
 
 昔,日本テレビ制作の紀行番組・ドキュメンタリー番組『TVムック・謎学の旅』が日本テレビ系列局等で放送されていた.
 昭和六十三年,この『TVムック・謎学の旅』で,肉ジャガの発祥は海軍であるというデッチ上げが放送された.デッチ上げたのは構成・演出の担当者であった大滝裕史という男であった.
 この番組が拵えた大嘘を全国に広めたのが,元自衛官のライターで,舞鶴や呉の町起こしの協力者として知られる高森直史である.
 その高森直史が書き殴った本の一つ『帝国海軍料理物語―「肉じゃが」は海軍の料理だった』(光人社,2010年) に,『TVムック・謎学の旅』が「肉ジャガの発祥は海軍」説を捏造する過程が記されている.「肉ジャガの発祥は海軍」説は日テレと高森直史の合作であるが,肉ジャガの発祥に関する『TVムック・謎学の旅』が一回だけの放送であったのに対して,現在もなお「肉ジャガの発祥は海軍」説の嘘を発信し続けて (印税を稼いで) いる高森直史の罪は大きい.高森が恥を知る人間であるならば,自分が書いた嘘八百本を絶版にして,筆を折ってしかるべきである.
 
「肉ジャガの東郷平八郎由来説」や「肉ジャガは海軍発祥説」を都市伝説だとする人たち (Wikipedia【肉じゃが】など) がいるが,商業目的のために嘘の話を拵えて拡散した者の実名が明らかになっているのだから,これを都市伝説と呼ぶのは正しくない.
 また,これらの説が嘘であることが世間によく知られているにもかかわらず,知ったかぶりして得々と解説し,無知を披露した林先生は嘘を再生産したことになる.まことに恥ずかしい.
 
[参考文献]
「肉じゃが海軍起源説はこうして捏造された」
 著者;光デパート, 『と学会誌34』(と学会,2014年) に収録.
 ただし,光デパート氏は,デマゴーグ清水孝夫が舞鶴町起こしのために食文化史の捏造をしたことを容認している.しかし私は,清水孝夫が実行委員長として得たものが,マイナスであることが証明されない限り,そこに私欲が存在すると考える.ならば清水にも「嘘吐きは泥棒の始まり」という原則が適用されるべきである.

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