お箸の国の人なのに (三)
この連載の第一回で,味の素社は食品のCМに関する見識がないと書いた.ただ,同社とは私が現役会社員だったときに仕事で関係があったこともあり,少し弁護する.
三田佳子さんを採用した「ほんだし」のCМには欠点があるが,しかしそれは同社の見識を云々される程度のことであって,日本の食文化を破壊しようなどという悪意はなかったと思う.他の食品企業についても味の素社と同様である.しかし,日本の食品業界にただ一社だけ,意図的に日本の食文化を愚弄した上場企業がある.永谷園だ.
三田佳子さんの「ほんだし」CМからおよそ十年後,悪名高い永谷園のCМが全国に流れた.「お茶づけ海苔」のCМである.(今でも永谷園のサイトに掲載されているバージョンはここ,YouTube にもある)
このCМ一発で,「大きな音を立てて口に食べ物を掻き込んではいけない」という私たちの慎み深い食事作法は破壊されてしまった.
当然ながら,この浅ましいCМを不快だとする批判が永谷園に殺到したが,同社はこれを無視する作戦に出た.消費者からの電話に対して,ありがとうございますの一言もなく慇懃無礼に「ご意見は承っておきます」の一点張りで突っぱねたのだった.今でも永谷園の消費者対応部署の電話対応には,はらわたが煮えくり立つ.
このCМについて,永谷園の公式サイトに次のような説明がなされている.
《このCMには、当時、有力広告代理店数社が参加した「お茶づけ海苔」新CMの制作コンペのビデオコンテの中で、若手人気タレントのダミーとして出演していた彼の食べっぷりの良さが当社、社長の目にとまり、社長の直感で起用を決断しました。》
当時の永谷園の社長は,卑しい食い方を「食べっぷりの良さ」だとした.つまりその社長も卑しい食い方をする人間だったと想像される.
それはさておき,下の画像は,当該CМの再生画面をハードコピーしたものである.
上の画像中に↓で示したが,親指が人差し指の上に乗っており,中指は掌側に握り込まれて箸に触れていない.このデタラメな箸の持ち方では,箸先を開いたり閉じたりできない.そのため,二本の箸はくっついて,一本箸になってしまっている.従ってこの男は,普通の炊いた御飯の場合でも,飯茶碗に口を付けて掻き込むやり方でしか食べることができない.この体たらくを見て「良いたべっぷり」であるとした永谷園の社長も,必ずやこの男と同じくデタラメな箸の持ち方をしていたと考えられる.
上の画像は,この男の飯茶碗の持ち方である.見た目にきれいな茶碗の持ち方は,親指以外の指を揃えて,その上に茶碗の高台を載せるという形である.しかるにこの下品な男は,横から茶碗を掴んでいる.親の顔を見たい,とはこのことだ.
ともあれ,このCМ以後,永谷園は「箸や茶碗の持ち方なんかどうでもいいんだ,ガツガツと卑しく飯を食うのがいいのだ」というメッセージを流し続け,今ではテレビの食い物番組に出てくる連中は,永谷園流の食い方になってしまった.お箸の国の人なのに.
ついでだから,チャーハンの素のCМも槍玉に上げる.
この下衆男は,散蓮華に載せたチャーハンを口に入れる時に,チャーハンと一緒に空気を吸い込んでいるのだが,その音がスポッスポッとうるさい.大衆食堂で,横の席の男にずーっとこれをやられたら,大抵の人は気が狂いそうになるだろう.カレースタンドでも時折,この手の野郎がいる.
で,最後にこの永谷園野郎は,あろうことか皿に口を付け,音を立ててチャーハンを掻き込み,食い終わると皿の上に散蓮華を放り投げた.このCМの放送を決定した当時の永谷園の社長も,フランス料理の皿に口を付けて掻き込み食いし,食い終わるとナイフとフォークを皿の上に放り投げたのであろう.
口にする食べ物をありがたく大切にするという気持ちは,食器を大切に扱うという食文化を育てる.永谷園は,食べ物と,食べることを大切にしない会社である.それは,飯粒が食い散らかされた皿の上に散蓮華を放り投げるCМのシーンに表現されている.
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