藤沢駅北口 「渓源」
辻堂駅北口のテラスモール湘南 (このショッピングモールを地元の若い人たちはテラモと呼ぶが,私のような老人がテラモなんて言うのは気恥ずかしいので,敢えてテラスモールと書く) の中にある109シネマズで『くるみ割り人形と秘密の王国』を観てきた.
この作品は,ヒロインのクララは魅力的な少女なのであるが,その他のキャラクターたちが,もう全然ダメな駄作だった.
邦題『くるみ割り人形と秘密の王国』は原題“ The Nutcracker and the Four Realms ”ほぼそのまんまだから,誰だって「くるみ割り人形」が重要な役割を演じると思うだろう.ところが,ほんの端役に過ぎないのだ.「くるみ割り人形」はいなくても構わないくらいで,この映画はヒロインだけが活躍するのである.(*脚註)
しかも,作品の演出が,張られた伏線を回収しながらストーリーが進行するという普通の形になっていない.一本道を進んでいって終わってしまうし,ヒロインの名付け親として登場する最重要人物ドロッセルマイヤーが何者かは,遂に明らかにされなかった.「金を返せーっ」的な作品だったから,興行的に失敗するんじゃないか.
私は原作である『くるみ割り人形とねずみの王様』(ドイツ語“ Nußknacker und Mausekönig ”) のストーリーを知らなかったので Wikipedia 等で粗筋を読んでみたが,原作のほうがファンタジーとしてはるかに優れている.
今回の実写版「くるみ割り人形」のラストの部分に,ドロッセルマイヤーによる後味の悪い差別的な台詞があり,よくもまあこんな脚本が採用されたものだと,幼い観客に対する教育的見地から私は呆れた.
「かねを返せ~」とつぶやきながら映画館をでると,丁度昼飯の頃合いだった.テラスモールのレストラン街はそれほど混雑していなかったが,藤沢駅に戻って,中華を食うことにした.いや,食うというより,駄作を観てしまったので,悔し紛れに昼飲みしたかったのだ.
昼飲みジャンルを中華に決めたのは,この夏,駅の北口を出て数分歩いたところに「渓源」という店がオープンしたからである.ところがこの店は日中「通し営業」ではなく,私がジムに通うために藤沢駅辺りに出かける時間帯はいつもシャッターが下りていた.そのため今まで訪問してなかったのだ.
さて店の中に入ると,内装は特に中華料理店という造りではなく,ありきたりな定食屋みたいな内装だった.
フロア担当というか配膳係というか,厨房外の店員さんはおばさん系で,柔らかい雰囲気があって,これはよい.しかし彼女らは日本人ではないようで,食いたいものをオーダーする時は,アイコンタクトすると来てくれる.料理の注文に,店員さんは無言でうなづくだけで,復唱はしなかった.これでだいじょぶかなー.
で,私はメニューを開いてすぐ「あ,これは一人で昼飲みに使える店じゃないなー」と思った.一品料理は一皿千円以上のものが多く,ハーフポーションがないのだ.色んな料理を楽しみたい場合は,六,七人で連れだって来る必要がありそうだ.
しかし初回なので,お手並み拝見の意味で,献立の中では値段の安い八宝菜 (\980),手羽先の唐揚げ (\680),焼き餃子 (\350) の三つを注文した.言い忘れたが,水はセルフ,おしぼりはナシである.手羽先の唐揚げは手で掴んで食うことになるが,汚れた指先は紙ナプキンで拭かねばならない.
味の評価だが,八宝菜は酷かった.使われている材料はまあまあ普通の中華料理店の水準であるが,味が単調で,しかも全く旨味が感じられない.牡蠣油などの旨味系調味料を使っていないようだ.あるいは,八宝菜は材料を炒めたあとにトロミをつけるが,その際にスープを加えるとかの仕事もしていないと思われた.その結果,そこら辺の大衆中華食堂の八宝菜に味で負けている.
餃子は,メニューに海鮮餃子や肉餃子など色んな種類のものが載っているが,私が注文した「焼き餃子」はその中で一番安いやつだ.そのせいか,スーパーの惣菜コーナーで売っている安いやつと同グレードの味だった.お値段以下である.ファミマの「お母さん食堂」の餃子のほうが安くておいしい.
だが世の中は捨てたものではない.皿に盛られた手羽先唐揚げのボリームに,私は思わずのけぞった.食べてみると,カリっと揚がっており,これは酒のお供に大変よろしい.この一皿でハイボール (\430) を三杯は飲める.しかるに私は三品も注文してしまった結果,腹が膨れてハイボールを二杯しか飲めなかった.
全体的な印象では,おコゲ料理がメニューに載っているところを見ると北京料理系統かと思いきや,点心もあるし,四川麻婆豆腐や上海焼きそばや台湾麺もあるという具合で,この店はインター中華料理なのだろう.もちろん麺類は全部日式だから,中国料理ではないサンマーメンもある.
酒の肴ではなく食事の料理としては,まだ八宝菜しか食べておらず,他の料理はまともかも知れないから,おいしくない店の烙印を押すのはまだ早いだろう.あともう一回くらいは来るかもね.
(*脚註) 白雪姫やシンデレラのように「白馬の王子さま (強い男) が幸せにしてくれるのを待っているヒロイン」をディズニー・プリンセスと呼ぶ.そのようなヒロインが登場する映画は山のようにあるが,ディズニー作品の場合だけ「教育的見地から」徹底期にバッシングされてきた歴史がある.そのため,ディズニー作品には,ディズニー・プリンセスに関する自虐ネタが出てくることがある.(例えば最新作『シュガー・ラッシュ:オンライン』の予告編に,ディズニープリンセスが勢ぞろいしている場面がある.そこでラプンツェルに「つよーい男性に幸せにしてもらったって,みんなに思われてる?」と質問されたヴァネロペが「そう!」と肯定すると,「本物のプリンセスよ!」と仲間に入れてもらえる w)
このアンチ・ディズニー派からの批判を回避するには,ヒロインを強くする必要がある.原作は「くるみ割り人形」がヒロインを幸せにしてくれるというストーリーだから,そのまま映画化すると批判される.それでこんなおもしろくない脚本になったのだろう.
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