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2018年12月27日 (木)

中野京子『美貌のひと』 (三)

 次は同じく第四章からボルディーニの『モンテスキュー伯爵』だ.モンテスキュー伯爵,すなわちモンテスキュー=フェザンサック伯マリー・ジョゼフ・ロベール・アナトールは,フランスきっての名門貴族であった.

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(Wikipedia【ジョヴァンニ・ボルディーニ】から引用;パブリックドメイン画像)
 
『美貌のひと』が解説しているのは,ボルディーニが描いたモンテスキュー伯爵の肖像画ではなく,モンテスキュー伯爵という人物そのものと,とても十九世紀の人とは思えぬ第一級のファッション・センスである.
 確かに上の画像で伯爵が着用しているジレは,二十一世紀の現在も,オーダーメイドはもちろん,既製服でも見かけるデザインだ.また手に持っているステッキはルイ十五世ゆかりの物だというが,この型のステッキは現在もまだ,メインストリームのデザインである.
 この時代の貴族たちは,一日のあいだに頻繁に衣装を替えたという.女性はもちろん男たちも,厳密なTPOに従って衣装替えをしたと書いたあと,中野先生は次のように述べている.
 
数年前、DVDで古い白黒映画を見た。「タイタニックの最期」(ジーン・ネグレスコ監督、一九五三年公開) というアメリカ映画で、タイトルどおり一九一二年のタイタニック号沈没事件を背景にしている。ちなみにこの事件当時、モンテスキュー伯はまだ生きていた (一九二一年に六十六歳で没)。
 
 この『タイタニックの最期』の主人公はイギリス貴族であるが,中野先生は一ページ以上を割いて,映画の粗筋を紹介する.
 そして末尾に《真のダンディズム、かくあれかしと思う 》と,この映画を賞賛している.そこまで読んで,私は映画のタイトルに既視感を覚えた.
 そこでDVDを収納してある書架を探したら,古い映画を寄せ集めた『ロマンス映画 コレクション DVD10枚組』というセット物が見つかった.(今もアマゾンで販売されている)
 このセットに含まれているのは『ローマの休日』『哀愁』『終着駅』『逢びき』『恋愛手帖』『タイタニックの最期』『我等の町』『愛の調べ』『ヒズ・ガール・フライデー』『愛のアルバム』の十作品だが,私は名作『哀愁』を観るだけのために買ったので,既にディスクを持っている『ローマの休日』は別として,残りの八作品は放ったらかしにしてあった.
 だがしかし,もしかするとこの「ロマンス映画」集 w には『タイタニックの最期』以外にも,単に私が知らないだけで,実は知る人ぞ知る名作が集められているのかも知れない.正月に本腰を入れて鑑賞してみようと思う.

 そして第四章の最後,つまり『美貌のひと』の掉尾を飾る絵はイワン・クラムスコイの『見知らぬ女』である.この絵は『美貌のひと』のカバーにも印刷されている.
 
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(Wikipedia【見知らぬ女】から引用;パブリックドメイン画像)
 
 この絵に描かれた女性は誰か.作品の発表時から,モデル探しが人々の関心を呼び,やがてこの絵は『アンナ・カレーニナ』に触発されたものだということになった.つまり馬車上の女性,「北方のモナリザ」とも呼ばれる美女は,アンナ・カレーニナなのだと.
 作者が付けたこの絵のタイトルは『見知らぬ女』であるが,かつて日本で行われた展覧会で,日本人によって『忘れえぬ女』と呼ばれるようになったらしい.そしてその美貌のひとは今,東京にある.(国立トレチャコフ美術館所蔵 「ロマンティック・ロシア」展)
 これまた年が明けて落ち着いた頃に鑑賞に出かけることにする.

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