昨日の朝,カンボジアの遺跡を巡る旅から帰った.色々あっておもしろい旅だったが,まだ書き始めていない旅行記がいくつもあり,今回の旅日記のアップはいつになるかわからない.それで,それとは別にエピソードを一つ,話のマクラにして先に書いてしまう.
今回の旅程は,成田からプノンペンへ全日空で行き,そこで国内線に乗り換えるスケジュールだった.私の自宅から成田空港へは,朝のフライトの場合は大船発の成田エクスプレスで行くのがアクシデントが少ないが,今回は大船駅から総武線快速で成田に行き,成田のアパホテルで前泊することにした.これだとどんな電車運行トラブルがあっても大丈夫である.前泊前提なら,電車の他に藤沢駅から成田空港行のバスも使える.
で,アパホテル・京成成田駅前に泊まった翌朝,朝食ブフェ会場で同じ四人掛けテーブルで相席 (右斜め向かい) になった男が,ちょっとおもしろかった.
その男は,大皿に何種類かのおかずを載せ,飯と味噌汁と納豆を席に持ってきた.そして箸を手にしたのだが,その持ち方が,前回の記事《
お箸の国の人なのに (三) 》で紹介した永谷園方式だった.つまり,二本の箸を密着させて一本箸として使う方法である.
この方法では,箸で食べ物を挟んで持つことができない.どうするのか視界の端で見ていると,まずかき混ぜたカップ入り納豆を,飯の上にどさっと載せた.そして飯茶碗の上で,飯と納豆をかき混ぜた.それから茶碗に口を付け,粘る納豆混ぜ御飯を「スプペーッポ」とひょうきんな音を立てて吸い込み食いした.チャーハンとかカレーの吸い込み食いは「スポッ」と短い音だが,納豆かき混ぜ丼はキレが悪いので,どうしても「スプペーッポ」となるのであろう.
彼が納豆かき混ぜ丼の次にどうしたかというと,大皿を左手で持ち上げ,野菜の旨煮みたいなおかずを飯の上に箸で流し移し,何だかよくわからない丼物を作った.そしてこれを吸い込み食いして全部食べたところで,席を立ち,飯のおかわりを持ってきた.そして今度はその上に味噌汁をぶっかけた.さらにウインナソーセージとスクランブルエッグを皿から移し載せ,ずるずると掻き込み食いをした.
完成したものを横目でチラと見ての感想だが,これは,手順は前後するけれど,飯に「ウインナソージとスクランブルエッグの味噌汁」をぶっかけたものに等しい.
そういえば,家庭料理研究家の土井善晴先生が「日常の食事は,おかずを作らんでも,具沢山の味噌汁と白い御飯でいいのです.味噌汁の具は,ウインナでもよろしですよ」とテレビの番組で言っていたような気がする.
それから,卵を溶き入れた味噌汁は私も時折作る.なかなかおいしいものだ.
従って,件の男が即席に拵えた「ウインナソージとスクランブルエッグの味噌汁ぶっかけ飯」は特に珍品ではないし,これをぶっかけた飯は,もしかするとうまいのかも知れないと思った.
さて本題.
少し前 (11/23) に,NHKで『
お取り寄せ不可!? 列島縦断 宝メシグランプリ』が放送された.
番組公式サイトのトップページ左上に,司会の井ノ原快彦が箸を持っている画像が載っている.
画像 (ブラウザ画面のハードコピー) に矢印で示したように,親指と人差し指,中指の三本で上側の箸を保持している.これは正しい箸のもちかたであり,見ていて気分がよろしい.イノッチの好感度,ますますアップである.
で,番組内容はなかなかおもしろかったのであるが,この記事では,出演者たちの箸の持ち方を少し紹介しよう.
まずは昭和二十年生まれの服部幸應先生.箸の持ち方は正しいが,番組中,肘をついていることが多く,姿勢が悪かった.お疲れなのかも知れない.
次は「つきぢ田村」の田村隆氏.昭和三十二年生まれ.
以前,テレビ東京『和風総本家』で,外国人の研修生が「つきぢ田村」で短期間の修行をするという企画が放送されたことがある.その時に田村隆氏は,研修生に徹底的に箸の持ち方,遣いかたを練習させ,箸遣いは日本料理の基礎にあると語っていた.もちろん下の画像にあるように,正しい箸の持ちかたである.
次は料理研究家の土井善晴先生.田村隆氏と同年生まれであるが,残念ながらダメな箸遣いの典型例である.
この番組を観ていて思ったことは,土井先生に限らず,料理のプロでも子供みたいな箸の持ちかたをする人が多いのだなあということである.ましてや料理好き芸能人においておや.
下は中尾彬のダメ箸.中尾は戦中派であるが,戦時中は躾けどころの話ではなかったのだろう.
続いてデヴィ夫人とアンミカさんの例.アンミカさんの方がまだマシである.
下の画像の左はビビル大木で,手前の女性は,NHK熊本放送局の畠山衣美アナウンサーである.
畠山アナは美人だから見なかったことにするが,ビビル大木の人差し指は意味不明なことになっている.
上の画像右側は,奇想天外自由奔放な発言と料理で知られる「料理愛好家」で,昭和二十二年生まれの平野レミさん.親指が反り返って,ヘンな持ちかたになっている.私も親指の関節がかなり反り返るが,箸を持つ時にレミさんのようにはならない.そこで色々と試してみたところ,箸や包丁を持つ時に親指を反り返らすには,親指の付け根の筋肉に余計な力が入ることが分かった.余計な力とは,道具を自由に使うのを妨げるものである.三谷幸喜が平野さんの料理を評して「雑です」と言っているが,平野さんはきっと,細かい作業に向いていない人だと思う.
向かって左は平野さんが「嫁」と呼んでいるモデルで食育インストラクターの和田明日香さん.服部幸應先生もそうであるが,さすがに食育関係のかたはきれいな箸の持ちかたをなさる.しかし次男の嫁の立場で義母に箸の持ちかたを説教するわけにはいかないだろうなあ.
私と同世代の人たちは,平野レミさんのように箸を正しく持てない人が多数派である.箸の持ちかたは,家庭料理と同じで親からの「伝承」のようなものである.親が教えないと,子は箸をきちんと持てなくなる.箸を正しく持てない親の子は,正しく箸を持てない.戦後における家庭料理の「伝承の断絶」については岩村暢子さんの論考があるが,料理と同様に,箸の作法も「伝承」されなかった.そうして日本の箸の文化は衰えたのである.ついでに言うと,平野レミさんの「料理」は,日本の家庭料理の「伝承の断絶」の上に成立していると私は思う.彼女が美しく箸を持てないのは当然なのである.
ちなみに箸の持ちかたは,万年筆や鉛筆などの筆記具と同じである.従って箸をちゃんと持てない人は字が下手である.(毛筆を除く)
箸の持ちかたが正しくても達筆とは限らないが,箸の持ちかたが間違っている場合は確実に金釘流である.従って現代の日本人は,字が下手な者ばかりとなったのである.
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