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2018年11月14日 (水)

記念艦三笠でカレーを (海軍カレー編 8)

 前回の記事《記念艦三笠でカレーを (海軍カレー編 7) 》の末尾を再掲する.
 
この海上自衛隊地方総監の発言《カレーライスが庶民の食卓に普及したのは海軍のカレーにルーツがある 》は本当だろうか.
 実は《カレーライスが庶民の食卓に普及したのは海軍のカレーにルーツがある 》という話は,横須賀市がカレーで街起こしを始めてから突然現れた説であり,日本風のカレーのルーツにはそれと異なる定説が従前からあったのである.

 
 我が国にカレーライスが広まって行った経緯については,吉田よし子『カレーなる物語』(筑摩書房,1992年),井上宏生『カレーライス物語―面白雑学』(双葉文庫,1996年),同『日本人はカレーライスがなぜ好きなのか』(平凡社新書,2000年) など多くの出版物にまとめられている.しかし,これらの書籍には明らかな引用の誤りや独自研究 w があるので,多数の書籍を突き合わせて矛盾のない事項,きちんと出典が示されている事項,自分の体験に照らし合わせて納得できるような事項などを残すようにする.そして単に伝説に過ぎないものは除く.これはカレーに限らず,調査というものの基本である.
 そのように書籍を調べた上で Wikipedia【カレーライス】を見てみよう.
 明治の初めに料理本にカレーの作り方が掲載されたなど (仮名垣魯文『西洋料理通』他) は実際にカレーが料理されて食べられたわけではないから,ルーツとは呼べない.
 またかつて,明治九年 (1876年) に来日して八ヶ月間の短期間であったが札幌農学校教頭に就任したウィリアム・スミス・クラークが札幌農学校学生寮の食事にカレーライスを導入したとする説が大手を振ってまかり通っていた.そしていまだにこの珍説を述べているブロガーがいるのだが,上記吉田よし子の調査によるとこれは根拠がないという.Wikipedia【ウィリアム・スミス・クラーク】も否定しているし,何より北大当局自体が否定している.
 ところで現北海道大学構内にある施設「エンレイソウ」に入っている「レストランエルム」のメニューには「クラークカレー」(「食べログ」に記載の価格は \1,260) があるのだが,しかし学内で営業している食堂 (外部の業者による経営)が,献立にクラーク博士の名を遺す程度のことはご愛敬だろう.見た目,なかなかおいしそうなので結構なことである.ただしクラーク博士に因んで名づけるのなら,カレーではなくアメリカ風の料理だったらもっと感心するのだが.
 ここで余談だが,キリンホールディングス (キリン株式会社を傘下に有する持ち株会社) の公式サイトに《キリン食生活文化研究所 》というコンテンツがある.規模は知らないが,社内にそういう組織があるらしい.そのコンテンツ中の記事《日本の学生を指導したクラーク博士とカレーライス 》に恥ずかしい誤りがある.間違いが訂正されてしまうと話が通じなくなるので,ブラウザ画面のハードコピー画像 (作成日 11/14) を掲載する.(←意地が悪い w)

20181114a
 
 恥ずかしい間違いとは,
 
当時の文献を見ると、例えば1863(文久3)年、遣欧使節であった三宅秀(1848~1938)が、船中でインド人がカレーを食す場面を目撃し日記に残している。そこには「飯の上に唐辛子細味に致し、芋のドロドロのような物をかけ、これを手にて掻き回して手づかみで食す。至って汚き人物の物なり」と書いていることから、当時の日本人の食文化からすると、非常に奇異な物に映ったようだ。
 
の部分.三宅秀は実在の人物であるが,遣欧航海の船中日記にそんなことは書いていないのである.別の人物の日記の記事を,上記の吉田よし子が『カレーなる物語』の中で取り違えて「三宅秀」と書いてしまったのだ.これは食文化に関心ある者にはよく知られた事実である.
 ということは,この記事を書いたキリン食文化生活研究所の所員は,自分が読んだ本に間違いがあるなんて思ってもいなかったのだ.まるで,滅多に本を読まない中学生並みの頭の程度だ.だから書いてあることが正しいかどうか調べもせず,手抜きして,『カレーなる物語』中の間違いをそのまま孫引きしたわけだ.しかも,「吉田よし子著『カレーなる物語』によると…」と書くべきところ,まるで自分が三宅秀の日記を読んだかのような嘘をついて《当時の文献を見ると 》と書いている.
 手抜きはまだしも,嘘をつくのは恥ずかしいことである.キリンホールディングスは,人間としてまともな者を食文化生活研究所に配属するべきだろうと私は思う.嘘を社会に拡散してはならない.それは企業の社会的責任だからである.
 
 閑話休題.次回も食品大企業の公式サイトのあきれた状況について書く.

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