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2018年11月13日 (火)

記念艦三笠でカレーを (海軍カレー編 7)

 前回の記事《記念艦三笠でカレーを (海軍カレー編 6) 》の末尾を再掲する.

さあ,横須賀市当局と横須賀のカレー屋たちが隠しておきたい真実を述べよう.海軍兵食としてのカレーライス,すなわち海軍カレーの発祥の地は,横須賀ではなく,舞鶴なのである.

「特定非営利活動法人赤煉瓦倶楽部舞鶴」が,舞鶴にある海上自衛隊第四術科学校に保存されている『海軍割烹術参考書』(原本;日本遺産) を底本として,これを現代語訳した本を頒布している.
 その表紙裏に記載されていることを次に引用する.

舞鶴海兵団長  西山保吉
 命令      五等主厨は本書に依り割烹術を習得すること
 発行年月日   明治41年9月1日
 沿革      本団開庁以来実施してきた教材材料を収集し海軍大主計花井申監督の下に海軍一等厨宰今井歳郎堀口篤によって増補改訂したものである。更に佐世保海兵団編纂による参考書を参照して本書を編集したものである。

 

 鎮守府海兵団について少し説明する.
 高木兼寛が兵食改良によって海軍における脚気の蔓延を克服した二年後の明治十九年 (1886年) に「海軍条例」が制定され,日本沿岸の海面を五海軍区に分け,それぞれに鎮守府を設置することとした.海兵団とは鎮守府に置かれた陸上部隊である.
 これに基づき,既に二年前に開庁されていた横須賀鎮守府に加え,明治二十二年 (1889年) に呉鎮守府と佐世保鎮守府,明治二十四年 (1901年) に舞鶴鎮守府が開庁された.
『海軍割烹術参考書』の記述によれば,この参考書が作られた時点で既に佐世保鎮守府は同様の割烹術参考書を作成していたことがわかる.また横須賀鎮守府と呉鎮守府には言及がないことからすると,両鎮守府には割烹術参考書はなかったものと思われる.
 残念ながら舞鶴に先行する佐世保鎮守府の割烹術参考書は現存していないようである.平成二十八年 (2016年) 四月に「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴 ~日本近代化の躍動を体感できるまち~」が日本遺産に認定された際に,舞鶴海兵団が作成した『海軍割烹術参考書』は文化財に指定されたが,佐世保のそれは現物が発見されなかったためであろうが,申請されなかった.今後,佐世保の割烹術参考書が発見される可能性は少ないと思われる.従って,海軍兵食におけるカレーライスの初出史料は舞鶴海兵団が作成した『海軍割烹術参考書』だとしていいだろう.
 しかるに横須賀市当局と横須賀市内のカレー屋たちは,『海軍割烹術参考書』が舞鶴鎮守府のレシピ集であることを隠して,あたかも『海軍割烹術参考書』に記載されたカレーが横須賀に関係がある料理であるかのようにレシピを簒奪し,宣伝した.道義に悖るとはこのことだ.
 その結果,現在ではネット上に「海軍カレー」のルーツは横須賀であるという記事が溢れている.どうしてこんなことになってしまったのか,経緯を見てみよう.
 まずは横須賀市役所の公式サイトを覗いてみよう.《よくある質問 》に《よこすか海軍カレーの由来について教えてほしい 》があるが,回答は次のように簡単に書かれており,外部サイトへ誘導される.

日本のカレーライスのルーツは明治時代の海軍にあり、この海軍のカレーが横須賀から全国に広まりました。詳細は下記の関連情報をご参照ください。

 外部サイトとは,前にも紹介した飲食業者サイト《カレーの街 よこすか 》である.それを再度閲覧してみよう.
 まずこのコンテンツ中の《「よこすか海軍カレー誕生」エピソード 》に,次のようにある.

平成10年12月、海上自衛隊地方総監の退官を前にお別れパーティーが海上自衛隊 田戸台分庁舎で開かれました。 その席上で総監が、「呉市と舞鶴市では、両市が本家争いをするなど、肉じゃがを“まちおこし”に繋げているが、カレーライスが庶民の食卓に普及したのは海軍のカレーにルーツがあるので、海軍の街である横須賀でカレー発信の地として、“カレー”を地域の活性化に利用してみては」という趣旨の話をされました。

 この海上自衛隊地方総監の発言《カレーライスが庶民の食卓に普及したのは海軍のカレーにルーツがある 》は本当だろうか.
 実は《カレーライスが庶民の食卓に普及したのは海軍のカレーにルーツがある 》という話は,横須賀市がカレーで街起こしを始めてから突然現れた説であり,日本風のカレーのルーツにはそれと異なる定説が従前からあったのである.

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