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2018年9月 5日 (水)

江戸,東京の味 (六)

 昨日の記事に次のように書いた.

永山久夫は,塩分の多い佃煮や大根の塩漬けで大量の玄米を食べる食事スタイルを,土木工事を早く進めるために徳川家康が考案したのだと述べた.しかし実際にはその時代,玄米が主食として食べられていた事実はなかったし,現在の私たちが食べているような佃煮は,家康の時代にはまだ存在していなかったのである.

 史実を無視した上の大嘘に続いて,永山の思い付きホラ話はさらに続く.
 十九世紀初頭,江戸の人口は百万に達していたという.この人口増加により,江戸の海に流れ込む生活排水が増加し,その結果,江戸前の漁獲高が増加したと永山は言う.
 
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上の画像の一部を拡大↓(魚の骨を流すんじゃないっ 〈〉)
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 現代日本で,「生活排水の海域への流入が漁場を豊かにする」という反社会的な主張をしているのは,私の知る限り永山久夫ただ一人である.
 戦後,ある時期以前の日本には,生活排水にせよ工場廃水にせよ,浄化してから水域に放流しなければいけないという環境維持・保全の意識が希薄であった.
 私が子供の頃を思い出すと,郷里の田舎町では,生活排水は細い下水管や,側溝へ流されていた.それらの排水は「ドブ川」に通じていて,「ドブ川」は市内を流れる河川や,近くの池沼に流れ込んでいた.側溝や「ドブ川」は定常的な水の流れがあるわけではないから,淀んで腐敗臭を放っていた.
 状況は昭和四十年代の東京でも変わらず,私が大学生になって住んでいた地域を流れていた妙正寺川は,元々は湧水なのに,神田川と合流する辺りでは幅広のドブ川と化していた.神田川は言うまでもない.かつては上水路であっのに,昭和四十年代には都内で最も汚れた川の一つとなっていた.
 こうして多摩川から荒川に至るまで,魚も昆虫も,きれいな水を好む生き物たちは姿を消し,悪化した環境に住むフナなどが河川の一部に生き残っていた.
「死の川」とまで言われたこれらの河川から腐敗した水が流れ込んだ東京湾は,富栄養化して酸欠状態となり,湾内の漁業は大きなダメージを受けたのであった.
 こうなっては,国民も行政も生活排水による河川の汚染と環境破壊を直視せざるを得ず,昭和の後半あたりから改善の取り組みが始まった.今はまだ河川の環境回復の途半ばであるが,しかし私たちの生活排水による環境破壊に対する認識は大きく変わった.
 その変化に資するところ大きかったものが二つある.
 一つは,「森と川と海は一つの生態系である」とする思想とその実践者たちであった.(参考資料と書籍は多数.検索されたし)
 そしてもう一つは,循環型社会のモデルとして江戸時代を再発見する試みであった.(参考資料;書籍と文献多数あり)
 上に挙げた画像 (永山久夫の自筆か?) では,生活排水のゴミが江戸前に流れ込み,それによって《海の養分が増加》し,魚が《栄養を蓄えおいしく成長》したとしているが,それは事実か.根拠となる史料はあるのか.私はそのような文献資料を目にしたことがない.
 陸上で植物が繁茂し,枯れる.そして微生物がこれを分解する.長い長い時間をかけてこれが繰り返され,土地は豊かになる.川はその大地の有機物や微量栄養素を海に運ぶ.海に運ばれた栄養素によってプランクトンが繁殖し,これによって海の生き物が育てられる.この静かで安定した生態系において,人間の生活排水は擾乱因子である.
 仮に永山の説が正しいとすれば,水のきれいな海では魚は育たず,沿岸漁業は不可能という結論になる.かような事実に反する嘘を永山は平然と語る.その神経は,常人には理解しがたい.
 
 かつて武蔵野台地に住んだ人々の海産物採取は,寒冷化のために陸上の食糧資源が減少した縄文時代後期に遡る.この頃から,武蔵野とそこを流れる川と,その前に広がる海は,豊かな生態系と漁場を形成していた.江戸の人々は,その生態系を擾乱しないような生活をしていたというのが,「江戸=循環型社会」論である.
 東京都小平市環境部の公式サイトに《江戸の下水道》と出したコンテンツがあり,次のように書かれている.
 
江戸の下水道(どぶ)は、雨水排除を主眼に整備されていました。家庭からの雑排水は、現在と違って水を大切に使っていたので、「どぶ」に流される量はごく少量(たとえば、米のとぎ汁は拭き掃除に使い、さらに残ったものは植木に撒いた)であり、屎尿が下水に含まれることもなく、下水といってもそれほど汚れてはいなかったと思われます。
 
 永山久夫は,それらの見解に反対し,生活排水による海域汚染こそが江戸前の漁業を発展させたと主張するのなら,その根拠を示せ.またNHKは,公共放送としての責任がある.番組『チコちゃんに叱られる!』の内容に責任を持ち,主張の根拠を示さねばならぬ.
(続く)

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