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2018年8月31日 (金)

江戸,東京の味 (一)

 私が中学生の頃に耳にした実話である.東京から東北の農家に嫁いだ女性が,実家で習い覚えた通りの味噌汁を拵えたところ,義母にきつく叱られたそうだ.濃い味噌汁は飯をたくさん食いこんでしまうから薄くしろと言われたという.
 さもありなんという話である.
 東京都と首都圏である神奈川県,千葉県を除く東日本,すなわち東北や甲信越,私が生まれ育った北関東地方 (上越新幹線ができて首都圏の仲間入りをした) は,戦後の経済成長期以前は,やはり貧しい地方であると言わざるを得なかった.だから,味噌汁やおかずの味付けは,あまり濃くはなかった.調味料をたくさん使う濃い味付けは,コスト高の上に食べる飯の量も増えてしまって不経済だったからである.
 そこで,おかずを濃い味付けにする代わりに,関東・甲信越・東北では,塩蔵物とくに漬物を多食した.
 農水省は「一汁三菜が日本の基本的食事スタイルである」という大嘘をついて,括弧付きの「和食」をユネスコ無形文化遺産に登録させてしまった (*脚註) が,昭和の前半における庶民の食事は「一汁一菜」(=御飯と汁とおかずが一品,それと漬物) が普通であった.貧しい地方では,「一汁一菜」ならばよいほうで,「一汁」 (御飯と汁と漬物;漬物は「菜」ではない) ということもあったらしい.(私自身,うっすらと,漬物が何種類も並んだ我が家の卓袱台を覚えている)
 ちなみに,政府統計としては,厚労省「平成22年 国民健康・栄養調査結果」に関連データが記載されているので順位をつけてみた.

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[食塩摂取量が多い県]
  男性    女性
1位  山梨県   山梨県
2位  青森県   福島県
3位  福島県   茨城県
4位  福井県   鳥取県
5位  山形県   青森県
6位  長野県   山形県
7位  宮城県   群馬県
8位  栃木県   長野県
9位  島根県   宮城県
10位  茨城県   福井県
(鳥取,島根,福井県の塩分摂取量が多い理由は不明だが,塩鯖を多食する地方であることと関係があるかも知れない)
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[野菜摂取量が多い県]
  男性    女性
1位  長野県   長野県
2位  新潟県   山梨県
3位  山形県   福井県
4位  福島県   山形県
5位  福井県   新潟県
6位  山梨県   島根県
7位  群馬県   福島県
8位  宮城県   群馬県
9位  栃木県   宮城県
10位  島根県   茨城県
(漬物の多食は野菜摂取量を押し上げる)
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 いかがであろう.関東・甲信越・東北の漬物多食は,かなり歴然としている.そしてこれらの地方は高血圧地域でもある.

 昭和三十年代前半,私の郷里である群馬県では,冬を迎える頃になると,各家庭で大量の沢庵漬と白菜の塩漬,キムチなどを家族総出で漬けた.夏はキュウリとナスの浅漬けを拵えた.
 煮物などのおかずの味付けは特に濃くはなく普通であったが,とにかく漬物がないと飯にならぬのであった.農水省 (とその御用学者) がどう言おうと,東日本の食事の中心は,しよっぱい漬物であった.しかもその漬物に味の素を振りかけ,さらに醤油をかけるのであった.(漬物+味の素+醤油 は,現在の東日本出身の高齢者諸兄があまねく記憶するところである)

 だから私は,大学に入って上京した際,東京の蕎麦・うどんの汁が真っ黒けで甘辛いことに,本当に驚いた.東京の食べ物は,味付けに大量の醤油と味醂または砂糖を用いる.これは東京という土地の,経済的豊かさを反映していたのだろう.醤油や砂糖が安価になって,全国的に庶民の口に入るようになったのは,それほど昔のことではないのである.
(続く)
 
*脚註:日本の夏は温暖ですと嘘を吐いてオリンピック招致に成功したのと同じ構図だ.w

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