栄養格差社会
今から三十年以上も前の昔話だが,東北大学で栄養学の教鞭を執っておられた木村修一先生を座長とする文部省の調査研究プロジェクトがあった.
その報告会で木村先生が「高齢者は粗食ではいけない,長生きしたければたんぱく質を充分に摂る必要がある」と講演された.
昭和五十六年 (1981年),当時の鈴木善幸首相に請われて第二次臨時行政調査会長に就任した土光敏夫はメディアから「メザシの土光さん」と呼ばれていた.
Wikipedia【土光敏夫】に以下のようある.
《普段の生活ぶりは感服させられるほど非常に質素であり、決して蓄財家でもなく生活費以外の残りの多額の収入は全て橘学苑に寄付されていた。(2011/9/4 サンデー・フロントラインの「発掘人物秘話」の土光敏夫特集にて述べている。)
行政改革を推進する宣伝として、NHKで『NHK特集 85歳の執念 行革の顔 土光敏夫』(1982年(昭和57年)7月23日)というテレビ番組が放送された。その内容は土光の行政改革に執念を燃やす姿と、生活の一部を見せたものであった。土光の普段の生活として、次のようなものが映し出された。
戦後1回も床屋へ行ったことがなく、自宅で息子にやってもらう。
穴とつぎはぎだらけの帽子。
戦前から50年以上使用しているブラシ。
妻に「汚いから捨てたらどう?」と言われた使い古しの歯磨き用コップ。
農作業用のズボンのベルト代わりに使えなくなったネクタイ。
とりわけインパクトが大きかったのは、妻と2人きりで摂る夕食の風景であった。メニューはメザシに菜っ葉・味噌汁と軟らかく炊いた玄米。これが「メザシの土光さん」のイメージを定着させた。》
上の引用に書かれているNHK『NHK特集 85歳の執念 行革の顔 土光敏夫』は,今で言うところの「ヤラセ」だったのだが (Wikipedia【土光敏夫】の「メザシの真相」項目参照) 国民はそれを真に受けた.
人間は歳を取ると,どうしても食が細くなる.米の飯と味噌汁があればいいとするのが高齢者の一般的な嗜好だった.そこに「メザシの土光」が拍車をかけたのだが,「それは違う」と異議を唱えたのが木村先生他の栄養学者だった.高齢者はたんぱく質を充分に摂る必要があると.
私自身がたんぱく質摂取量の多い食生活をしていることもあって,現在では高齢者の食生活に関するその考えは定着したと私は思っていたのだが,大塚食品のウェブコンテンツ《突然ですが…「健康寿命」という言葉をご存じですか? 》に示された図《日本人のたんぱく質摂取量 》を見ると,そうでもない.株式会社明治のウェブコンテンツ《あなたは大丈夫?日本人はたんぱく質不足 》には,日本人のたんぱく質摂取量は,戦後の食糧危機をようやく脱しようかという時期である昭和二十五年の水準にまで落ち込んでいることが示されている.
それらの図は厚労省による調査結果をグラフにしたものだが,この二十年間に,四十歳以上の男女を十歳ずつに層別すると,全ての年齢層でたんぱく質摂取量が減っており,なかでも四十歳から六十九歳までの男性は,大きく減っている.
改めて厚労省の《平成 27 年 国民健康・栄養調査結果の概要 》を見てみよう.
小さくて見にくいが,項目《3.エネルギー及び主食・主菜・副菜に関連した栄養素摂取量の年次推移(平成7年~27年)》 (p.41~) に若い年齢層も含めた図が掲載されているので,その部分をトリミングして引用する.
このグラフを見ると,たんぱく質摂取量が減っているのは,摂取エネルギーの減少と軌を一にしていることがわかる.また脂質摂取量は横這いあるいは漸増傾向にあるが,たんぱく質と同様に炭水化物摂取量も減っている.(上図に続いて掲載されている)
つまり日本人はあまり飯を食わなくなっているのだ.
ダイエット志向のある若い女性や食欲の低下した高齢者層ならばともかく,働き盛りの男性も飯を食わなくなっている.これは,もしかすると,小泉内閣に始まる格差拡大と,格差拡大をさらに推進しているアベノミクスによって日本の貧困化が進行していることと関係があるのかも知れない.飯を食わなくなったのではなく,食いたくても食えないのかも.
上に挙げた厚労省のデータからはわからないが,他の政府資料によれば児童の貧困化も進行していることから推測すると,子どもたちの栄養格差も進行しているだろう.栄養格差社会日本の未来は暗い.
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