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2018年7月 7日 (土)

ジェネリック医薬品不信

 各メディアが報道したところによれば,あすか製薬は,2017年まで製造販売していた高血圧症治療剤のバルサルタン錠「AA」に発がん性物質が混入しているとして自主回収を開始した.
 バルサルタン (註1) は,国際的製薬企業のノバルティス社が開発し,臨床研究不正事件で有名な「ディオバン (Diovan)」(註2) の一般名である.バルサルタン錠「AA」はあすか製薬の製品名であり,ディオバンのジェネリック医薬品である.あすか製薬以外のメーカーのバルサルタン錠の名称は記号部分が異なり,バルサルタン錠「XX」などとなる.
 
 さてジェネリック医薬品の安全性に不信感を抱いている人は多いだろう.私もその一人だ.
 今回の事件で判明したのは,あすか製薬は原薬の品質管理をしていない (バルサルタン錠「AA」の原薬は中国製で,あすか製薬は輸入した原薬をそのまま使用した) ということである.
 先発医薬品はすべての安全性試験を行って初めて承認されるわけだが,ジェネリック医薬品は有効成分のみに関する試験が行われるに過ぎない.また,ある先発医薬品に関して,その開発を行ったメーカーは原薬開発過程で,ジェネリック医薬品メーカーよりも高い品質管理技術を獲得していると思われる.
 すなわちジェネリック医薬品メーカーの品質管理技術が劣るということは,彼らは原薬開発に携わっていないから,有効成分を合成する化学反応でどのような副生成物が生成し,原薬に残存・混入する可能性があるかという知識がないことを意味しているのであるが,それならそれで,ジェネリック医薬品を製造する前に,先発品の特許明細書に従って実際にその合成反応を実施してみれば,管理すべき不純物に関する情報は獲得できる.
 何が混入しているか不明な場合の化学的分析による品質管理は困難であるが,不純物が何かわかっている場合は高感度の不純物分析が可能であるため,品質管理が容易になるのである.
 今回の事件で混入した発がん性物質はN―ニトロソジメチルアミンであるが,ある範囲の pH 条件下において硝酸塩や亜硝酸塩やアミンを利用する産業プロセスにおいて,副生成物として生成されることが既知であり,またこれは低分子化合物であるので,高感度分析が容易である.
 従って,あすか製薬は,やろうと思えば簡単にN―ニトロソジメチルアミンの混入を防げたはずだが,どういう心得違いか,原材料の品質管理を全くしていなかったために事件を起こしたと考えていい.
 
 ジェネリック医薬品に関して Wikipedia【後発医薬品】に,その問題点として次の記述がある.
 
この動きに合わせて、新薬開発に乏しい、もしくは後発医薬品に特化した中小の医薬品メーカーは、後発医薬品の積極生産へとシフトしつつある。しかしながら、OECD諸国並みの普及率には至ってはいない。
その理由としては、安定供給が難しいという後発医薬品メーカーの問題のほか、材料や製造法が先発品と完全には一致しないことから、効果・安全性の面で必ずしも信頼できないとする医師・薬剤師らの意見があることが挙げられる。
》 (下線は当ブログ筆者が付した)
 
先発医薬品の承認申請には、発見の経緯や外国での使用状況、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を超える資料を提出する必要がある。
これに対して後発医薬品では、有効性・安全性については既に先発医薬品で確認されていることから、安定性試験・生物学的同等性試験等を実施して基準をクリアすれば製造承認がおりる。生物学的同等性試験とは、先発品と後発品の生物学的利用能を比較評価するもので、投与された被験者の生物学的利用能に統計的に差がなければ効果も同じで、すなわち生物学的に同等と判断される。血中濃度の推移が同等であれば生物学的効果に差がないとする考え方は、米国FDAをはじめ諸外国でも同様に認められた解釈である

一方、承認申請時に必要な書類は、規格および試験方法、加速試験、生物学的同等性試験のみであり(ただし、医薬品によっては長期保存試験も必要となる)、7つの毒性試験が全て免除されていることは問題であるとする意見がある。 (下線は当ブログ筆者が付した)
 
 現状,医師は患者からの要請がない場合,ジェネリック医薬品を積極的には薦めてはいないようだ.というのは,ジェネリック医薬品は患者にとって大して安価ではないからである.(ジェネリック医薬品にすればどれくらい薬代の節約になるかは,健保組合や行政から,節約額を記載した「お知らせ」がくるのでわかるが,私の場合,五種類の薬を毎日服用しているが,節約できるのは少額だ.多量の薬を飲まなけれはいけない人とか,国民年金しか受給していない人は別として,私のような普通の厚生年金受給者であれば,ジェネリック医薬品にする必要性はあまりない)
 であれば医師は,長年の実績がある先発医薬品を,処方する薬の第一候補にするのは当然だし,患者である私も,わずかな節約のために安全性に疑問がある薬を服用したくはない.現行の医療制度では,国はジェネリック医薬品の普及に力を入れている.そのため調剤薬局は,医師の処方箋に書かれている先発品を,患者に「ジェネリックにすると安くなります」と宣伝してジェネリック医薬品への誘導し変更に成功すると儲かる仕組みになっている.調剤薬局がジェネリック医薬品の販売に熱心なのはそのためである.
 調剤薬局を併設しているドラッグストアチェーンがいくつもあるが,酷い薬局では,薬剤師がジェネリック医薬品を薦めるので,処方箋通りに先発品にしてほしいと私が言ったら,「先発品は置いてないので,それでは他の薬局へどうぞ」と言われた経験がある.(藤沢駅北口に近いドラッグストア「クリエイトS・D藤沢駅北口店」)
 
 このように患者も医師もジェネリック医薬品に積極的でない現状下で,当のジェネリック医薬品メーカーはどう考えているのか.
 業界団体である日本ジェネリック製薬協会の公式サイトに Q&A 《ジェネリック医薬品に不安・疑問のある方へ》が掲載されている.しかしこの資料を読めば明らかなように,彼らが「安全性」といっているのは,有効成分の安全性を意味している.そうではなくて,私たち国民が知りたいと言い続けているのは,今回のバルサルタン錠「AA」事件のような,実際の製品に含まれる不純物に由来する危険性をどのようにして管理し,どのように安全性を国民に保証していくのかという具体的な品質保証システムのことなのである.有効成分の安全性は,先発品が承認された時点で「ほぼ」 (註3) 保証されている.ジェネリック製薬協会に今更教えられる筋合いはないのだ.
 しかるにジェネリック医薬品メーカーは,国民の疑問に答えようとしない.これではジェネリック医薬品が普及するわけがない.
 厳しい承認審査を受ける先発医薬品はもちろんのこと,行政による監視が厳しくない食品業界でも,残留農薬やヒ素重金属などの有害物は分析を実施するのが品質管理の基礎である.しかるにジェネリック医薬品 (の一部は) 品質管理がなされていないことが明らかになってしまった.この事件の意味するところは重大である.
 
 このブログ記事の結論を書く.この記事を読んでいただいたかたが,調剤薬局で「この薬はジェネリックがありますがどうします?」と訊かれたら,メーカーはどこかを訊ねていただきたい.そしてメーカーが,あすか製薬だったら,先発品か他のジェネリックにしていただきたい.あすか製薬のような悪質な製薬企業を医薬品市場から退場させる方法はそれしかないと思うのである.
 
 余談だが,高齢者が医療費を節約しようと思うのであれば,ジェネリック医薬品よりも,筋肉量を維持するトレーニングと,糖質を制限する健康的な食生活のほうが余程効果的である.私は現在は健康を回復しているが,以前,生活習慣病を患った経験から,健康のコストを計算して本当にそう思う.
 
[註1]
N―ニトロソジメチルアミンの化学的性質と毒性データの詳細 (環境省のサイトから引用)
 
[註2]
ディオバン事件 (Wikipedia【ディオバン事件】)
 
[註3]
市販後に副作用などの理由で市場から撤退する例はある.(津谷喜一郎「市場撤退薬の諸相」)

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