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2018年7月 9日 (月)

ほろ酔い初恋の味

 昔々,私が二十四歳の時,後に妻となる女性と地方都市のパブで酒を飲んだ.
 その時に彼女が飲んだのは,カクテル名は忘れたが,ジンを炭酸水で希釈したカルピスで割り,そこにサントリーのカクテル用ライムジュースを少量加えてステアしたものだった.
 彼女が,このカクテルはおいしいと言うので,私も飲んでみた.アルコール入りの初恋の味がした.w
 
 昭和二十年代生まれの老人たちにとって,カルピスは特別な飲み物だろうと思う.
 我が国は,「昭和31年 年次経済報告」の結語に
 
いまや経済の回復による浮揚力はほぼ使い尽くされた。なるほど、貧乏な日本のこと故、世界の他の国々に比べれば、消費や投資の潜在需要はまだ高いかもしれないが、戦後の一時期に比べれば、その欲望の熾烈さは明らかに減少した。もはや「戦後」ではない。我々はいまや異なった事態に当面しようとしている。回復を通じての成長は終わった今後の成長は近代化によって支えられる。そして近代化の進歩も速やかにしてかつ安定的な経済の成長によって初めて可能となるのである。》 (下線は当ブログ筆者が付した)
 
と書かれた時期,戦前の経済水準への回復を達成し,怒涛の経済復興は終わりを告げた.そして,戦前の水準を凌駕すべく《速やかにしてかつ安定的な経済の成長》を目指す新時代を迎えた.
 この頃,比較的に裕福な庶民の家では,玄関の引き戸脇の壁にヤクルトと森永ホモ牛乳の木箱が釘打ちされて設置され,この二つの飲料の宅配が広まった.
 ヤクルトが現在とほぼ同様の小瓶入り商品となったのは昭和三十年代の前半である.(「ヤクルト」発売80年ヒストリー)
 乳製品業界最初の乳脂肪均質化 (ホモジナイズド) 牛乳「森永ホモ牛乳」が発売されたのは昭和二十七年 (1952年) のことだった.(森永乳業商品ヒストリー)
 この二つは《もはや「戦後」ではない》を象徴する食品であった.
 すなわちヤクルトと森永ホモ牛乳は生活に不可欠の食品ではなく,子どもの栄養のために購入するものであったから,家計に余裕のある家庭が月極契約で購入した.そしてヤクルトと森永ホモ牛乳の,どちらがステータスが上かというとヤクルトであり,家庭の裕福度は以下のようであった.
ヤクルトと森永ホモ牛乳を両方   裕福
ヤクルトのみ           そこそこ裕福
森永ホモ牛乳           やや裕福
いずれもとっていない       普通の家庭経済状態
森永ホモ牛乳の配達アルバイトをしている    (ToT)
 
 私の生家は貧しかったので,幼時の頃は子どもの飲み物といっても特別のものはなく,焙じ茶や麦茶を飲んでいたのだが,そのうちに「渡辺粉末ジュース」が登場し,これが夏の飲料の定番となった.(粉末ジュースには発泡性と非発泡性のものがあり,非発泡性のオレンジ味は冬にも飲まれたがうまくはなかった)
 当時の粉末ジュースは合成甘味料,合成香料,合成着色料などの食品添加物で構成されていた飲料で,安全性を問わなければ,今や多くの飲料メーカーから発売されている「ゼロカロリー飲料」の先駆けであった.ヾ(--;) 問えよ
 しかし当時,いかにもジャンクな粉末ジュースとは別格の飲料があって,何を隠しましょう,それはカルピスであった.
 
 企業としてのカルピスの創業は,大正五年 (1916年) 設立の醍醐味合資会社に遡る.
 翌年にラクトー株式会社が設立され,大正八年 (1919年) にカルピスが発売された.大正十二年 (1923年) にカルピス製造株式会社に商号変更したのが創業である.
 商品としてのカルピスは昭和中頃まで贈答品として確固とした地位を保持していたのだが,その後は凋落の一途を辿り,平成十九年 (2007年),遂に立ち行かなくなり,味の素に吸収されて完全子会社となった.
 しかし味の素は,平成二十四年 (2012年),カルピスの全株式をアサヒグループホールディングスに売り,カルピスはアサヒグループの一員となった.
 ところがアサヒグループホールディングスは,平成二十八年 (2016年) に飲料事業を再編成し,カルピスの事業をグループ各社に継承・移管して解散したため,大正時代創業のカルピスはここに消滅した.
 企業としてのカルピスは創業百年で命脈尽きたが,しかし飲み物としてのカルピス,ブランドとしてのカルピスは一世紀を生き延びた.カルピスの乳酸菌発酵事業を継承したアサヒ飲料は昨年,体脂肪減少を謳う機能性表示食品「カラダカルピス」を発売したのだ.
 現在,乳酸菌飲料の主戦場は機能性を訴求する商品であるが,遅ればせながらようやくカルピスも機能性表示食品市場に参入したわけである.
 
 前置きが長かったが,本題である.
「体脂肪減少」は鰯の頭も信心から程度に考えておけばいい (発表されたデータによれば三ヶ月間飲み続けても効果は僅かで,短期間の厳しい糖質制限ダイエットに遠く及ばない w ) が,私がこのカラダカルピスで感心したことがある.体脂肪減少というコンセプトから必然的に,砂糖を使用せずに他の甘味料へ原材料を変更したわけだが,にもかかわらず,味が依然として,私たちが慣れ親しんだ昭和のカルピスなのである.
 そこで私は老人諸兄に,糖質制限中でも飲んでよいカクテルを提案したい.
 黒糖焼酎,泡盛あるいはジンのいずれでも結構であるが,タンブラーに好みの量を入れ,カラダカルピスで割り,氷を入れる.あれば無果汁のライム風味炭酸水 (ペリエやクリスタルガイザーから出ている.カラダカルピスは甘いので,甘いライムジュースよりも無果汁炭酸水のほうがよいかと思う) を加えてステアする.
 カラダカルピスに由来する糖質が含まれるが,その糖質は砂糖や果糖,ブドウ糖ではなく「体脂肪減少」に有効だとするニゲロオリゴ糖なので,摂っても大丈夫ではないかと思う.
 材料それぞれの比率は各自のお好みで,初恋の味のするカクテル,名付けて「初恋」をどうぞ.w

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