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2018年6月17日 (日)

ポテサラの食品衛生学 (一)

 日本テレビのバラエティ番組『世界一受けたい授業』(6/9 放送) を録画しておいて観たら,季節柄か,食中毒の話題が取り上げられていた.
 弁当に四種類のおかず (鶏の唐揚げ,肉ジャガ,ポテトサラダ,ハンバーグ) が入っていて,その中で食中毒になる危険性が高いおかずは,どれでしょうか,というクイズが出されたのである.
 クイズの出題者は,広島大学大学院生物圏科学研究科の島本整教授である.
 島本教授は,講義の名称でいうと「食品病原遺伝子学」が専門で,広島大学のサイトにある研究室紹介を読むと,現在はノロウイルスの研究をされている.研究室紹介には
 
島本先生の専門は食品衛生学。食品の安全性に関する研究を行う学問だ。なかでも先生は、食中毒を起こす微生物に関する研究を中心に行っている。こうした微生物には、O157、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター、ノロウイルスなどがあるが、日本で起こる食中毒の半数以上はノロウイルスを原因とするものという
 
と書かれているが,《島本先生の専門は食品衛生学》の箇所は誤りである.『世界一受けたい授業』に島本教授は度々「食品衛生の専門家」として出演しているが,島本教授は食中毒の原因微生物を研究しているのであって,食品衛生学の研究者ではない.その理由をこれから述べる.

 

20180611d_2
(上の画像は,録画データを加工したものではなく,テレビ画面をデジカメで撮り,そのデータをトリミングしたものである.以下の画像も同じ)

 

 

 正解は言うまでもなく,ポテトサラダである.ポテトサラダが腐りやすいことは,ほとんど常識だ.だから作ったらすぐに食べてしまうのがいいが,調理したのが昼過ぎで,夕食に食べる予定という時は,必ず冷蔵庫に入れておく.従って朝作る弁当にポテトサラダを入れるなんてのは,そもそも大間違いなのである.

 

 

 

 それじゃ,コンビニ弁当にポテサラが入っているのはなぜ?

 それは,工場で作る弁当に入れるポテトサラダには,食品添加物である日持ち向上剤と pH調整剤とが加えてあり,細菌が増殖するのを抑制しているからだ.しかもその場合に,ポテトサラダが何時間後も食べて安全であるかを試験して確認済みだからである.

 

 家庭ではそんな食品添加物は用意していないし,普通の人はそれらを使いこなす技術を持っていない.だからポテトサラダは必ず冷蔵するのだ.それに,日持ち向上剤と pH調整剤を入れたポテトサラダは味が悪いから,おいしいことが大切な家庭料理で,敢えて食品添加物を使う必要はないのだ.
 スーパーでパックに入れて売られているポテトサラダにも,ほとんどの場合,日持ち向上剤と pH調整剤が添加されている.だから,食べてみればわかるが,まずい.
 買ってきた惣菜のポテトサラダを電子レンジで加熱すると,すっぱい嫌なにおいがするのは,pH調整剤のせいである.

 

 余談だが,気温が二十度を超す季節の弁当というものは,加熱調理したおかずのみを詰め,おかずの色は茶色一色で充分だ.愛妻弁当にトマトだのレタスだのを入れる必要はさらさらないのである.弁当は白い飯と,鶏の唐揚げでよろしい.彩だの栄養バランスだのは,弁当に限って言えば,余計な考えというものである.

 

 

 閑話休題.
 クイズ出題者の島本先生は,ポテトサラダが腐敗しやすい理由として,次の二つの画面を用いて説明をした.

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20180615f

 

 



 以下,上の画像に沿って説明して行く.
 私は,一番目の理由「ジャガイモは水分が多く腐りやすい」という島本説を聞き,驚いてテレビの前の安楽椅子から転げ落ちて腰を強打した.泣きながら書架まで這って行き,『日本食品標準成分表』を取り出した.これは,食品衛生学だろうが食品栄養学だろうか,すべての食品研究者にとってバイブルとも言うべきものである.

 

日本食品標準成分表2015年版 (七訂) から抜粋
        100g中の水分量 (g)
生のニンジン    89.7g
茹でたニンジン   90.0g
生のタマネギ    89.7g
茹でたタマネギ   91.5g
生のジャガイモ   79.8g
茹でたジャガイモ  81.0g
蒸したジャガイモ  78.1g
生のキュウリ    95.4g

 

 これはもう一目瞭然で説明の要はない.ジャガイモは水分の少ない野菜なのである.
島本教授は「ジャガイモは水分が多く腐りやすい」 (ナレーションは画面の文と少し異なり,《ジャガイモは元々水分が多いために腐りやすい食材です》であった) を一体どこからひねくりだしたのか.食品成分表を読んだことがないのか.
 自ら料理をする男はもちろん,妻の家事を少しでも手伝う夫なら皆が知っていることだが,生のジャガイモは腐りにくく,上手に扱えば数ヶ月の長期保存に耐える野菜なのである.
 つまり,「ジャガイモは水分が多く腐りやすい」は大嘘で,「ジャガイモ」ではなく「ジャガイモ料理」が腐りやすいのである.
 なぜか?
 その理由は,加熱調理するとジャガイモ (の塊茎) の細胞 (詳しくは Wikipedia【デンプン】 ,同【アミロプラスト】,日本植物生理学会のQ&Aから《でんぷん粒は液胞?》を参照のこと) が壊れ,そこからデンプンが流出し,これが微生物の良い栄養源になるからである.
 付け加えると,食品などの腐敗には,(1) 水分,(2) 微生物の栄養源,(3) 微生物の繁殖に適した温度,の三条件が必要である.従って,例えば乾燥したデンプンは腐敗しない.
 
 次に,ポテトサラダが食中毒の原因になりやすい二番目の理由として島本教授が挙げた《キュウリなどの生野菜》 (を入れるから) と《調理工程が多い》はどうか.
 島本教授は,腐敗の原因微生物や食中毒菌は加熱すれば死ぬと思っているらしい.ポテトサラダの材料で,加熱して使うのはジャガイモとニンジンだ.タマネギは,生を使う人と,加熱したものを使う人,入れない人がいる.これは好みである.キュウリは普通は生で使う.それで島本教授は《キュウリなどの生野菜》としたのであろうが,キュウリを入れなくてもポテトサラダは腐敗しやすいのである.(キュウリを入れるか入れないかも好みの問題で,キュウリを入れないレシピもある.クックパッドを御覧あれ)
 なぜかというと,芋類や根菜などの農産物には,芽胞形成菌 (spore-forming bacteria) が付着していることが多いのであるが,この芽胞は,調理程度の加熱や,消毒薬などによる処理に強く抵抗するからである.(一般的な消毒薬では次亜塩素酸ナトリウムがやや有効だが,塩化ベンザルコニウムやアルコールは事実上無効である)
 Wikipedia【芽胞】から一部を引用する.
 
有芽胞菌の中にはアンフィバシラス属、バシラス属、クロストリジウム属、スポロサルシナ属などが存在する。このうち、バシラス属とクロストリジウム属が、病原性や微生物の有効利用などの面から、ヒトに対する関わりが深く、代表的な有芽胞菌として取り上げられることが多い。
 
 バシラス属の食中毒菌にはセレウス菌があり,クロストリジウム属にはウェルシュ菌やボツリヌス菌などがある.これらは,ジャガイモの皮を剥き,包丁で切って下拵えする過程では完全には除去できない.従って極端な話,ジャガイモだけでポテトサラダを作っても,食中毒の可能性が存在するのである.
 以上に述べたように,島本教授による「ジャガイモは水分が多いから腐りやすい」とか「ポテトサラダに生野菜を入れると食中毒の可能性がある」という説明は,広島大学の公式サイトで《島本先生の専門は食品衛生学》と紹介されている島本教授が,実は食品衛生の素人であることを示している.
 また,調理の工程数と腐敗しやすさには何の関係もない.クックパッドを覗いてみれば,女性たちが「時短」のために様々な工夫をしていて,手間のかかる料理の工程数を減らしてみせている.しかし,工程数を減らしても,腐りやすいものは腐りやすい.切って皿に盛りつけただけの料理でも腐るものは腐るのである.
 
 さて,ポテトサラダが傷みやすい理由だけでかなり長文になってしまった.このあと,島本教授は驚くべき妄説を開陳したのであるが,それは続きで.
ポテサラの食品衛生学 (二) へ続く 〉

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