心優しいひと
年明けに放送された日本テレビ『世界一受けたい授業』(2018年1月13日放送) に出演した絵本作家 のぶみ氏が番組中の《今、話題の絵本作家が教える! 2018年に読んで欲しい絵本》と題したコーナーで,絵本『はなになりたい』(すまいるママ作,東京書店,初版は2014年12月だが現在は新装改訂版が出ている) を紹介した.
この のぶみ氏の作風を嫌いな人は徹底的に嫌いだとみえてネット上に氏の批判がたくさんある.例えば宋美玄さんの《絵本は誰のためにある? のぶみ氏炎上を見て考えたこと》は,もっとも至極な内容だと思う.どこの世界にも思慮の浅い人と深い人がいて,のぶみ氏は浅い人に分類されるかも知れない.
さて のぶみ氏は,当然のことながら自分の感性に訴えるものがある絵本をテレビで紹介するわけだから,のぶみ氏を嫌いな人たちは,絵本『はなになりたい』をどう受け止めたのだろうかと私は少し興味を覚えた.
そこで Amazon のレビューと口コミサイトを覗いてみたら,案の定,絶賛と酷評に二極分化していた.
この『はなになりたい』の内容は,私は忘れかけた部分もあるけれど,私たち生命が,他の生命を食べて生きていくということの切なさ,哀しみを描いたものだったと記憶している.
従ってこの絵本には,いわば私たち人間の宗教観にも触れるところがあり,とてもとても幼年児童に理解できるようなものではない.形こそ絵本であるが,内容的には小学校高学年あるいは中学生がようやく読むに耐えるレベルの児童文学の本だと思う.
ところで上に挙げた口コミサイトの一番最初の投稿に「ちゅら。」さんという女性が次のように書いている.
《ありのままの自分を、否定する絶望感。
このお話しは、肉食獣のライオンがウサギを食べるという、当たり前のことから始まります。
ライオンが自分が食べてしまったウサギの子どもを育てることになり、父性が芽生える。
親を食べられた子ウサギの目線からライオンを責め続けていくお話しです。
そして、ライオンが肉食であることを自己否定するようになってしまう。
ライオンはライオンであればいい。
立派なライオンになればいいのです。
天寿を全うして、もし花になることがあるとすれば・・
その時に綺麗な花になればいい。
そしてもしまたライオンに生まれ変わるのであれば・・
生きるためにウサギを食べ、また立派なライオンになればいい。》
この人の意見に従うと,ウサギの親を食べてしまったライオンが,草むらに残されたウサギの赤ちゃんを発見したら,それも食べてしまえということになる.
草むらにかわいい赤ちゃんウサギがいました.ライオンはそれも食べました.おわり.
というわけだ.絵本にならぬなあ.w
草むらにかわいい赤ちゃんウサギがいました.ライオンはそれも食べました.おわり.
というわけだ.絵本にならぬなあ.w
当たり前のことだが,童話でも絵本でも,登場する動物は単なる動物ではない.擬人化された動物である.
極端な例だが,ディズニーアニメでは,二足歩行して言葉をしゃべる犬と,四足歩行の犬が同じ場面に出てくる.w
擬人化ということが理解できないと「ちゅら。」さんみたいに《立派なライオン》などと,作者の意図を全く読み取れていない見当はずれの意見を投稿してしまう.『はなになりたい』に描かれているライオンもウサギも,人間なのだ.スヌーピーに「立派な犬になれ」と言ってどうする.ww
私たちは生きるために,あるいは食べる喜びのために,牛でも豚でも魚でも食ってしまうが,その一方で犬や猫やウサギやハムスターを可愛いがって生きている.
でも欧米人に言わせると,日本人のクジラやイルカを食べる食習慣が許せないらしい.
で,クジラ漁を擁護する日本人が,あんたらが平気で食っている牛も,クジラと一緒じゃないかと主張すると,欧米人は「クジラは頭がいいから殺してはいけない」と反論する.
しかしいったん「頭がいい生き物は殺してはいけない (食ってはいけない)」という線引きを許すと,あとは人間に置き換えた場合に,頭がいいからとか,容姿がいいからとか,いじめのこと,障碍の有無,さらには肌の色の差別まで,際限なく線引きの泥試合が始まってしまう.
本当に,生きるということは難しい.難しいけれど,考えてみたらどうでしょうか,ということこそが,『はなになりたい』の作者のメッセージなのだと私は思う.
極端な例だが,ディズニーアニメでは,二足歩行して言葉をしゃべる犬と,四足歩行の犬が同じ場面に出てくる.w
擬人化ということが理解できないと「ちゅら。」さんみたいに《立派なライオン》などと,作者の意図を全く読み取れていない見当はずれの意見を投稿してしまう.『はなになりたい』に描かれているライオンもウサギも,人間なのだ.スヌーピーに「立派な犬になれ」と言ってどうする.ww
私たちは生きるために,あるいは食べる喜びのために,牛でも豚でも魚でも食ってしまうが,その一方で犬や猫やウサギやハムスターを可愛いがって生きている.
でも欧米人に言わせると,日本人のクジラやイルカを食べる食習慣が許せないらしい.
で,クジラ漁を擁護する日本人が,あんたらが平気で食っている牛も,クジラと一緒じゃないかと主張すると,欧米人は「クジラは頭がいいから殺してはいけない」と反論する.
しかしいったん「頭がいい生き物は殺してはいけない (食ってはいけない)」という線引きを許すと,あとは人間に置き換えた場合に,頭がいいからとか,容姿がいいからとか,いじめのこと,障碍の有無,さらには肌の色の差別まで,際限なく線引きの泥試合が始まってしまう.
本当に,生きるということは難しい.難しいけれど,考えてみたらどうでしょうか,ということこそが,『はなになりたい』の作者のメッセージなのだと私は思う.
旧聞に属するが,『天才!志村どうぶつ園』の企画「絶滅ゼロ部」第二弾ケニア編が放送 (2/17) され,レポーターとして,昨年に続いて今年も加藤遊海さんが出演した.(彼女は今年のミス・ユニバース日本代表に選ばれたファッションモデルだ)
細かい放送内容はネットで調べていただくとして,ケニアでキリンを肉食する部族にインタビューした加藤さんは,キリンは人間にとって食べる対象だという認識がなかったから,ショックを受けて泣いてしまう.
でも彼女は気丈にも「しょうがないと思う.食べていくためだし,家族のためだし…」と語って,しかし涙を堪えることができない.
加藤さんの涙に,私も目頭が熱くなった.この人は強者の立場から《立派なライオン》などと言わぬであろう.もし言わねばならぬとしたら泣きながら言うだろう.『天才!志村どうぶつ園』はエンタメ番組ではあるが,私は画面の向こうに優しい心の人を見た.
細かい放送内容はネットで調べていただくとして,ケニアでキリンを肉食する部族にインタビューした加藤さんは,キリンは人間にとって食べる対象だという認識がなかったから,ショックを受けて泣いてしまう.
でも彼女は気丈にも「しょうがないと思う.食べていくためだし,家族のためだし…」と語って,しかし涙を堪えることができない.
加藤さんの涙に,私も目頭が熱くなった.この人は強者の立場から《立派なライオン》などと言わぬであろう.もし言わねばならぬとしたら泣きながら言うだろう.『天才!志村どうぶつ園』はエンタメ番組ではあるが,私は画面の向こうに優しい心の人を見た.
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