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2018年5月 3日 (木)

母子草 (十)

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[剽窃者たち]

 昨日ようやく,藤澤衞彦著『日本傳承童話集 第二集 母子草』(雄鳳堂揺籃社,昭和二十四年七月三十日発行) が古書店から届いた.
 この書籍は,図書館で一通りの閲覧をするだけではなく,少し時間をかけて調べたいことがあったので,古書を探して手に入れたのである.
 というのは,ハハコグサの名の謂れについての近江民話,すなわち民話研究者である故中島千恵子氏が採話し,『母子草』と名付けて再話した昔話の原話から,民俗学者である故藤澤衞彦氏が一篇の童話『母子草』を創作したのであるが,それが『日本傳承童話集 第二集 母子草』に収められているのである.
「少し時間をかけて調べたいことがあった」とはどんなことかというと,実は盗作問題である.私がハハコグサの名の謂れについて調査を進め,『日本傳承童話集 第二集 母子草』に辿り着く過程で,童話『母子草』が剽窃者たちの餌食になっていたことを発見したのだ.
 後述するが,簡単に記すと,藤澤衞彦作の童話『母子草』は,著作権法の保護期間であるにも関わらず,まず最初に児童文学作家・清水たみ子 (Wikipedia【清水たみ子】によれば,北原白秋の門下であるらしい) によって盗作された.清水は『母子草』を童話集に自分の作品として発表したのである.
 続いて清水たみ子の同業者,というかこの女との共著がある作家仲間の奈街三郎 (Wikipedia【奈街三郎】によれば小川未明の門下であるという) が,同じ手口で盗作した.類は友を,とはこのこと.
 そしてグーテンベルク21という出版社が,藤澤衞彦氏が1953年 (昭和二十八年) に出版した『日本伝承民俗童話全集』(この全集の「中部編」に童話『母子草』が収録されている) のタイトルを『日本の民話』と勝手に改変して,2010年に海賊出版したのである.
 
 藤澤衞彦氏は1967年 (昭和四十二年) 5月7日に亡くなった.氏の著作権の保護期間は1968年元日を起点として五十年間であるから,奇しくも今年の元日に著作権が切れている.奈街三郎は既に死んでいるが,清水たみ子はまだ生きているから,この児童文学作家の風上に置けぬ恥知らずな泥棒女は,まんまと逃げきったことになる.
 盗作された藤澤衞彦氏の作品は著作権が切れたが,清水たみ子の盗作品は清水が死んでから五十年間保護され,権利を相続した者に経済的利益をもたらすのである.そんなことが許されるのかと憤りを感じるが,それが著作権法の仕組みであるから致し方ない.ただし法的なことは致し方ないとしても,清水と奈街の盗作は道義上の問題として指弾されねばならぬだろう.
  藤澤衞彦氏の著作権が切れた今年になって,ユウタパパさんが十一年前の waiwai さんのブログ記事を発掘したのは,何かの奇縁であるように思われる.天網恢恢,疎にして漏らさず,である.
 グーテンベルク21による海賊出版は,現在も Kindle 版が Amazon で販売されているのであるが,中身の作品の著作権は,著者が既に亡くなっているから親告罪である著作権法の違反に問われることはない.しかし表紙絵は,もしかすると画家が存命かも知れない.その場合は表紙絵の権利に関して著作権法違反に問えるかも知れない.
 そこで私はグーテンベルク21にメールを出して探りを入れたのだが,返事は来なかった.こいつは故意犯であると私は確信した.
 
 ともあれ,私がハハコグサの名の謂れについて調べ始めたのは waiwai さんの幼い頃の記憶がきっかけであるが,それはもうすぐ出典を明らかにできるだろう.
 この連載では,清水たみ子と奈街三郎の盗作について述べることを含めて,waiwai さんの記憶の件を片づけたのちに,それから派生して未解決であるユウタパパさんの疑問 (三つ目の「母子草の物語」はどこに?) の解決に迫りたいと思う.
 次回は藤澤衞彦氏の童話『母子草』について述べる.
(続く)

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