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2018年5月 4日 (金)

体幹ウォーク

 厚労省の国民生活基礎調査 (平成28年調査結果の p.18) によると,日本人の十人に一人程が腰痛の自覚症状を訴えている.高齢者のみに関する資料は知らないが,もっとこの割合が高いと想像される.
 五木寛之『健康という病』(幻冬舎新書,2017年12月25日第一刷) を買ってきて読んだら,その中の一節「腰痛が教えてくれたこと」に,五木寛之も長年にわたって腰痛に悩まされてきたとあった.
 腰痛持ちは誰でも (かつての私も) 歩き方や寝る時の姿勢とかを色々と変えてみて,苦痛が少しでも軽減するように工夫する.五木寛之は,腰痛は老化の一種だから治らないとした上で,痛みを和らげる工夫を次のように書いている.
 
そうして発見した腰が楽な歩き方が、能役者のような足の運びである。
 
しかし、しばらく歩いているうちに、脚や足の裏よりも大事なのは、やはり腰だということに気がついた。どんなふうに歩こうと、やはり腰が定まっていなければ痛みはとれない。
 腰をすえて、能役者ふうに歩く。腰をすえるというのが、最後の決め手であると納得する。
 ではしっかり腰をすえるにはどうすればよいか。
 腰をすえるというのは、腰を「落とす」ということではない。むしろ、腰を「入れる」という感じで、体全体の重心をそこに集中するのである。そのためには、軽く吸い込んだ息を下腹部に押し込むような感覚で、下腹部に力をためこみ、ヘソ下三寸 (指の幅3本分のところ) にグッと気合を入れる。
 下腹部に体の重心を置くというのは、インドや古代中国で紀元前からすでにいわれていることである。養生法としてはもちろん、座禅や武術、茶道から芸能の世界まで、腰をすえる技術が追及されてきた。
 その技法は、やがて一つの思想、哲学にまで発展していく。
 
下腹部のヘソ下三寸は、「臍下丹田」と呼ばれている。……ここから下腹部に意識を集中して行う呼吸が、腹式呼吸、丹田呼吸である。
 
 上の引用箇所に《体全体の重心をそこに集中する》とか《下腹部に体の重心を置く》とあるのは文学的表現であって,物理学的な重心のことを言っているのではない.丹田に意識を集中することを言っているのだ.
 丹田に意識を集中するとはどういうことか.それについて以下に述べる.
 
 この記事の冒頭に「かつての私」と書いたのは,現在の私には腰痛がないからである.昨年の夏以前は,時折,一歩も歩けなくなるくらいの激しい腰痛があったのに,まるで嘘のように治ってしまったのである.
 五十歳を過ぎた頃だったか,私は腰痛に悩まされるようになった.やがて間欠性跛行の症状が現れて仕事に支障をきたすようになり,これは何とかしなければと,藤沢で名医の評判が高い春○整形外科医院で診てもらった.
 すると○日整形外科の院長は,低周波だか高周波だかよくわからない電気治療と,腰を引っ張る牽引の物理療法をやりましょうと言った.
 その日から春○整形外科医院に一日おきに通って半年間の治療をしたが,全く効果はなく,むしろ悪化していくように思われたので,ある日,○日院長に効果がない旨を言うと,春○院長は平然と「では別の病院へ紹介状を書きましょう」と言った.治療を放棄するというのだ.
 春○院長は名医どころかヘッポコ医者だったのだ.口コミを信じた私が阿呆だったのである.
 それ以来,腰をかばうようにして生きてきたのだが,ある日,唐突に治ってしまったのである.
 さて何をどのようにしたら治ったか.
 何を隠しましょう,ウォーキングである.
 ただし,ここで言うウォーキングは例のスローガン「健康のために一日に一万歩を歩きましょう」とかいう普通の歩き方ではない.真冬の明け方でも汗をかくほどの有酸素運動,トレーニングとしての長距離ウォーキングである.
 ウォーキングを始めたきっかけは昨夏,糖尿病の症状が自覚されたことだが,それは別の機会に書くとして,何事についても先ず勉強してから始める私は,書店でウォーキング関係の書籍を立ち読みし,金哲彦『「体幹」ウォーキング』がよさそうだと結論した.
 しかしレジには行かずに,帰宅して Amazon で古本を買った.書店の棚に新品があるのにわざわざ古書にしたのは,半額以下だっ 地球環境の保全に資するためである.うそ.
 『「体幹」ウォーキング』に決めたのは,金哲彦氏は昔からの箱根駅伝ファンならその名を知らぬ者なしの強いランナーだったから,内容はたぶん実践的で信用できると思ったのである.
 で,読んでみると,全体的には大変わかりやすい内容なのだが,p.38 に書かれている《STEP 3 重心を低くして軸を安定させる秘訣/丹田に重心を置く》が理解しにくかった.
 上に引用した五木寛之の文章と同じで,金哲彦氏も《丹田を意識する》と書いていて,実践的というより文学的なのであった.ww
 だが書かれていることを読んでいても仕方ないので,とにかくやってみようとウォーキングを始めて見た.
 丹田を意識するとはどういうことなのか,ああでもないこうでもないと歩いているうちに,気が付いたら何キロも休みなく歩いていた.そしてこの日を境に私の腰痛は治ったのである.
 
 以前,NHKスペシャルだったかで放送していたが,日本人の腰痛の大部分は原因不明なのだそうである.原因不明,つまり椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄,その他の障害もないのに強い痛みを感じる腰痛は,実は幻であるという.これはどうやら脳科学分野のテーマであるらしい.
 私の腰痛が治ったのは,金哲彦流体幹ウォークで腸腰筋などの体幹筋肉群における左右の歪が矯正されたか,あるいは体幹筋肉の不要な緊張が解けたのか,はたまた糖尿病完治のために体幹ウォークに取り組むという強い決意が幻の痛覚を追い払ったのか,私にはわからない.
 しかし治ったのは確かであり,もし諸兄が原因不明の腰痛にお悩みなら,丹田を意識するウォーキングが有力な運動療法であると私は考える.お試しあれ.

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