« 二百メートル | トップページ | ミセス・パンプキンと称する匿名トンデモライター »

2018年5月25日 (金)

『母子草』ノート (5)

【この連載のバックナンバーは,左サイドバーにある[ カテゴリー ]中の『続・晴耕雨読』にあります】
 
 国会図書館サーチを使用してキーワード「母子草」で検索した結果を一覧に整理して,一週間ほど前の記事《『母子草』ノート (2) 》に掲載した.
 その中で「古書注文中」とした以下の二冊が到着した.
 
--------------------------------------------------
【ジャンル:内容未確認につき未分類】
--------------------------------------------------
作品名      母子草
書籍名     『滋賀昔ばなし』
著者       勝部恵子 編 (駒原みのり 挿絵)
出版社      表現社
発行年      1976年
所在等特記事項  現在,古書注文中
--------------------------------------------------
 
--------------------------------------------------
【ジャンル:伝承系童話】
--------------------------------------------------
作品名      母子草
書籍名     『日本神話・日本民話・東洋民話』(世界の名作図書館 ; 3)
著者       村上知行,坪田譲治,浜田広介
出版社      講談社
発行年      1967年
所在等特記事項  現在,古書注文中.
--------------------------------------------------
 
 勝部恵子『滋賀昔ばなし』は,書籍というよりは,かつてドライブインなどの土産店で販売されていたらしい郷土土産品の小冊子であった.出版元の表現社自体が出版社ではなく,葉書,カード,シール,ぽち袋などの紙製品を販売する会社である.w
 しかも『滋賀昔ばなし』はとっくに販売終了したらしく,同社の商品一覧に見当たらない.しかし『滋賀昔ばなし』がいい加減な本かというと,そうでもなく,著者勝部恵子は,あちこちの童話集から寄せ集めた童話をまじめに書き直して文体を変えており,その点ではこれを剽窃や盗作というのはかわいそうだと思われる.
 私はこの小冊子を,あるネット古本屋から四百円で買ったが,中に「\300」と書いたメモが挟んであった.これがどういうことかというと,たぶんその古本屋は別の古本屋から三百円で買い,これを私に四百円で売ったのである.地道な商売だなあ.古書市場ではブックオフが経営危機らしいが,小さな古書店には頑張っていただきたい.
 さて『滋賀昔ばなし』に収められている「母子草」だが,これは中島千恵子『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』の「母子草」を,近江弁を共通語に書き換えるなどしたもので,民話あるいは童話の資料としての価値は全くない.
 
 次の『日本神話・日本民話・東洋民話』に入っている「母子草」は,執筆者の一人である浜田広介が,自作「母子草」を転載したものであった.
 
 未調査資料として残るは,川崎図書館所蔵の『笛のたび』,都立多摩図書館所蔵の『おかあさん物語』と紙芝居『おかあさんの花 : 母子草』である.
 資料収集完了まであと一歩のところで推測すれば,近江の湖北と湖南に伝わる「母子草の物語」は二つのグループに分類できる.
 一つは中島千恵子氏が採集して再話した民話「母子草」であり,もう一つは藤澤衞彦作の童話「母子草」およびこれを翻案した浜田広介作の童話「母子草」と二反長半作の童話「母子草ばなし」である.
 この民話と童話で何が異なるかというと,民話では少女を故郷に導くのが観音であるのに対し,童話では弁財天であることだ.
 琵琶湖の竹生島には弁財天と観音が祀られている.近江民話において,竹生島の観音が少女を故郷へ送り届けたと伝承されてきたことは,中島千恵子氏が原話者二人の氏名を明記していることからして間違いない.それでは,藤澤教授が「母子草」を執筆する際に観音を弁財天に変更したのだろうか.あるいは,元から近江の民話に観音版と弁財天版の二つがあり,藤澤教授の「母子草」は弁財天版を下敷きにして書かれたという可能性もある.
 これについては上笙一郎が『戦後 児童文学の50年』の中に貴重な情報を書いてくれている.(p.114)
 
民俗学者としては、民俗採集に頼った柳田国男と違って文献主義に據っていて、そのため、民俗学よりもむしろ風俗学のおもむきを呈していたと言わなくてはならないでしょう。
 
藤沢さんの集められた多くの資料は、いま、都下小金井市にある旧武蔵野郷土館――現名江戸東京博物館分館の「藤沢衛彦文庫」として保存されています。また、駒場の日本近代文学館にも、近代の子どもの文化についてのものが寄贈されているのですが、知っている人はわずかです。
 
 先日,ユウタパパさんに,お探しの物語は浜田広介作の童話「母子草」ではないかと思われる旨の連絡をし,地元の図書館の所蔵図書でそれを確認していただいた.
 
 もう一件の,waiwai さんの記憶している「母子草の物語」は,おそらく直接的には藤澤衞彦作の童話「母子草」であろうと私は考えている.
 ここからさらに,藤澤衞彦「母子草」と民話とで相違点が生じた事情を明らかにすれば,waiwai さんへの回答が完結するだろう.
 江戸東京博物館分館の「藤沢衛彦文庫」と,駒場の日本近代文学館に寄贈された藤澤教授の資料.そのいずれかに,藤澤教授が「母子草」を書くために集めた資料があるに違いない.
 ようやくこの調査研究「母子草」のゴールが見えてきたという気がする.
 
[追記]
 江戸東京博物館分館 (現在の名称は江戸東京たてもの園) の公式サイトを閲覧したが,「藤沢衛彦文庫」のことは何も書かれていない.ただし,園内に小さな建築物関連図書が置かれている図書コーナーはあるようだ.しかしそんなところに藤澤教授の残した資料が所蔵されているとは思えず,訪問しても無駄足になる可能性が高いと思うが,どうしよう… 文庫がどこへ行ったか,行方だけでも調べに行こうか.
 日本近代文学館にも「藤沢衛彦文庫」があることは公式サイトで確認できた.しかし四千点近い資料から成る「藤沢衛彦文庫」の目録は作成されていないようだ.この膨大な資料群をしらみ潰しに調べていく作業を想像したら眩暈がした.<「母子草」のゴールが見えてきた>というより,箱根駅伝第52回大会 (1976年) で,大手町のゴールの150メートル手前でアンカーが倒れて無念の途中棄権となった青山学院大学のようである.w

|

« 二百メートル | トップページ | ミセス・パンプキンと称する匿名トンデモライター »

続・晴耕雨読」カテゴリの記事

新・雑事雑感」カテゴリの記事

コメント

こんにちわ。
地方の図書館の書庫に眠っており、確認が取れました。まだ我が家にあり、他に収載されているお話とともに何度も読んでいます。私の探していた母子草は間違いなく浜田さんの母子草です。本当にありがとうございます。
なるほど。湖北と湖南に別れて存在していたのがミックスされ、内容も表現も変えられたんですね。ここまで調べまとめ上げられ、「母子草」に関する本当に貴重な情報となりましたね。完結させるためにも藤澤教授のコレクション、是非確認したいところですね。せめて関東圏に住んでいれば調査に赴きたいところなんですが、、
waiwaiさんの記憶の母子草がどれなのか、結果が楽しみです。

投稿: ユウタパパ | 2018年5月26日 (土) 20時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/505081/66753185

この記事へのトラックバック一覧です: 『母子草』ノート (5):

« 二百メートル | トップページ | ミセス・パンプキンと称する匿名トンデモライター »