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2018年4月25日 (水)

母子草 (五)

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 前回記事《母子草 (四) 》の末尾を再掲する.
しかるに残念ながら,この二百九十三篇に「母子草の物語」は含まれていないのである.
 考えられる理由は,昭和中頃には,「母子草の物語」の語り手が絶えていたということである.
 
[一つ目の「母子草の物語」]

 滋賀県老人クラブ連合会による大掛かりな近江民話保存の試みにもかかわらず,「母子草の物語」は,語り手からの応募がなかったとみえて,それがために正続『近江むかし話』二巻に収録されなかった.
 私は民俗学に関して門外漢であるが,Wikipedia【民話】に《伝承する人が居なくなれば絶える》と書かれているのは全くその通りであるなあと思う.
 では,近江の「母子草の物語」は絶えたのか.
 語り手は絶えたとしても,実はしかしこれを既に採話していた人がいたのである.
 その人こそ誰あろう,『続 近江むかし話』の「あとがき」に,滋賀県老人クラブ連合会を指導援助した人物として謝辞が述べられている中島千恵子氏である.
 
 滋賀県老人クラブ連合会による謝辞を読んで,私は中島千恵子氏について Wikipedia【中島千恵子】を読んでみた.
 するとそこに中島氏の著書としてそのものズバリの《『母子草』田辺満里子絵 京都新聞社 滋賀の伝説シリーズ 1992》が記載されていたのである.
 だがこの『母子草』は絶版になっていて,京都新聞社は販売していなかった.
 そこで複数の古書検索サイトで調べたが,古書店にも在庫はなかった.そのような場合,検索サイトから各地の古書店に「リクエスト」を出しておけば,入荷した時点で連絡してくれるが,それは半年先か一年先か,あるいは十年先か,いつのことになるやらわからない.
 そうとなればもはや図書館で調べるしかない.
 まずは「国会図書館サーチ」で公共図書館一斉検索をかけたところ,国会図書館 (日本の商業出版物は特別な事情がない限りここにあることになっている),首都圏では東京都立多摩図書館と川崎市立中原図書館にあることが判明した.
 
 東京都立多摩図書館は私が数年前に住んでいた国分寺市に近いところにあって土地勘はあるのだが,現在の住処からは行くのに片道二時間を要する.
 では川崎市立図書館にしようと,その中核図書館である川崎市立中原図書館に行ってみた.すると窓口の司書さんが蔵書検索してくれたのだが,ここには『母子草』はないと言う.
「国会図書館サーチでは,ここにあると出たんですけど」
と私が言うと,詳しく調べてくれて,その結果,実は中原図書館ではなく同市立高津図書館に所蔵されているとのことだった.
 私が怪訝な顔をしたら,司書氏は「全国各自治体図書館は蔵書を中核図書館の名義で登録するので,こういうことが発生する」旨を解説してくれた.「国会図書館サーチ」利用の基礎知識らしい.(汗)
「それじゃ高津図書館に行ってみます」と私が言うと,その司書氏は,横浜の図書館にはないんですか,と言った.提携図書館ではなく自分の住んでいる自治体の図書館なら図書館サービスがフルに利用できるから,そのほうが便利ですよ,と.
 
 そこで私は,「国会図書館サーチ」ではヒットしなかった横浜市立図書館だが,念のためにそのサイトで蔵書検索をかけてみた.すると,市立中央図書館にあったのである.中島千恵子著・田辺満里子絵の『母子草』が.
 どうやら横浜市立図書館は,すべての蔵書を「国会図書館サーチ」に登録しているわけではないらしい.つまりそのようなことがあると,「国会図書館サーチ」は不完全なアウトプットを出してしまうのだ.これは横浜市立図書館に限らない.「国会図書館サーチ」の意外な弱点だぞと私は驚いた.
 それはともかく,あちこち回り道したが,ようやく私は中島千恵子著・田辺満里子絵の『母子草』を読むことができた.
(続く)
 
[追記]
 川崎市立中原図書館の司書氏に教えてもらったことをもう一つ.各地の図書館が「国会図書館サーチ」に登録している書籍でも,実際には所蔵されていない場合があるという.それは「紛失」である.私が想像するに,図書館が大切に保管している書籍が「紛失」するというのは,つまるところ盗まれたということではないだろうか.

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