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2018年4月 5日 (木)

無知医者

 大昔の話をすると,医師と教師は聖職と呼ばれた.今時,学校の先生を聖職者だと思ってる人間はいないだろうが,医師は現在もやはり立派な職業であるだろう.
 私がかかりつけにしている内科医も,なかなかいい人で,私の健康相談に真摯に対応してくれる.話をしていると最新の医療技術や治療薬を教えてくれて,新しい論文に目を通していることがわかる.
 しかし世の中の医者が皆,日々勉強怠りない立派な人物であるかというとそんなことはない.どの世界にも馬鹿者はいて,例えば堺正章『世界一受けたい授業』などのテレビの系情報バラエティ番組に出演 (他に適当な表現が見当たらない) して,お笑い芸人やタレントを相手に健康に関する嘘情報を講釈する医者や管理栄養士がいるのはまことに情けない.
 
 その種の似非医者の一人に奥田昌子という内科医がいる.このインチキ医者は,たぶん専門分野の論文誌なんか読んでいないのだろうと思われ,去年は朝日放送『ビーバップ!ハイヒール』に出て無知を自ら暴露した.国立研究開発法人・国立がん研究センターの予防研究グループが実施している『多目的コホート研究』の成果「米飯摂取と糖尿病との関連について」(2010年に米国の論文誌に掲載された) を知らなかったのである.(この研究結果は一般にも報道されたのでよく知られている)
 この放送のあと,高雄病院の江部理事長にブログで間違いを指摘されて世間に恥を晒したのであるが,その後もへこたれずにトンデモ本を書きまくり,テレビに出てはしゃいでいる.
 奥田昌子の無知を示す文章《糖質制限は日本人には意味がない? 「人種差」からみた健康法の真実 》を例示しておこう.(この雑文が掲載されているのは講談社のサイトである)
 文章の冒頭からして呆れる他ない.こんなこと↓が書いてある.
 
間違った健康法が拡散中
皆さん、健康を守るために日頃から心がけていることはありますか。テレビで見た健康法を続けている人も少なくないでしょう。そんな皆さんにクイズです。次の三つのなかに間違った健康法があります。わかりますか?
 ①骨を強くするために牛乳や乳製品をつとめて摂取している
 ②筋肉をつけて基礎代謝を上げるため、ジムに通い始めた
 ③糖尿病予防やダイエットのために炭水化物(糖質)をひかえている
じつは、すべて間違いです。正確に言うと欧米人には有効でも、日本人には効果が期待できません。
いつまでも健康で若々しくありたいと願う気持ちに国境はありませんが、欧米の健康法が日本人にも同じように効くとは限りません。日本人と欧米人は体質が違うからです。

 
 この無知な女は,日本人は《筋肉をつけて基礎代謝を上げ》ても健康に効果はないというのである.理由は《日本人と欧米人は体質が違うから》だという.
 これ,実は基礎知識に欠ける奥田の勘違いと思われる.
 スポーツをする人にはよく知られていることだが,女性は筋肥大を起こしにくい.これには男性ホルモンの量が少ないことが関係していると言われている.もしかすると筋生理学で著名な石井直方氏 (東京大学大学院教授) の著作に,筋肥大とホルモンに関するエビデンスが書かれているかも知れないが,私は筋生理学分野の論文を読んで知識を得ているわけではないので,ここでは女性は筋肥大を起こしにくいという事実のみ記す.
 で,奥田は筋肥大に関する男性と女性の違いを,《日本人と欧米人は体質が違う》に脳内変換してしまったのだろう.
 奥田は《糖尿病予防やダイエットのために炭水化物(糖質)をひかえている》のも間違いだと言うのだが,今では糖尿病予防に糖質制限が有効であることを疑う医師はほとんどいなくなった.現在の論争点は,強い糖質制限を長期にわたって継続したときの安全性の問題である.
 ダイエットについては,ライザップがトレーニングと糖質制限の併用による方法を確立した.ライザップの方法は日本人には通用しないと,いくら奥田が主張したところで,事実は日本人に通用しているんだから仕方がない.
 糖質制限は日本人の糖尿病に無効だと奥田が思っているのなら,『世界一受けたい授業』なんぞに出ていないで,北里大学病院や東大病院に行って論争してくればいい.完膚無きまでに負けるだろうが.
 
 さて余談だが,奥田が書く雑文を読むと「人種差」という言葉が頻出する.もしもこの女の頭の中を覗くことができたら,これに「別」という語がくっついているような気がする.

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