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2018年4月28日 (土)

母子草 (七)

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 前回記事《母子草 (六) 》  の末尾を再掲する.
 
この「あとがき」のあとに,原話者および協力者二十七人が挙げられており,再話者二十一人 (中島千恵子氏の研究グループ) の氏名が列記されている.
 以上の二冊からわかることは,以下の通り.
(1) 書籍名『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』の出版時点では,近江のハハコグサにまつわる民話の伝承者は湖北 (当時は東浅井郡虎姫町,後に長浜市に編入された) の田中敏郎氏であった.
(2) 書籍名『母子草』の出版までに原話者として田中敏郎氏の他に湖南 (大津市堅田町) の横山千代氏が加わったが,この書籍の出版時点では,両氏とも故人となっておられた.
(3) 湖北と湖南に伝わる民話であることが物語の筋書からもわかる.(後述)
(4) 故中島千恵子氏が遺したその他の重要なキーワードは「竹生島の妙音天女」である.
(5) 母子草の名にまつわる民話は滋賀県特有であり,他県に類話がない.(後述)
(6) 中島千恵子氏はこの民話の再話にあたって創作を加えていない.
 
 上に中島氏の著書として『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』と絵本『母子草』を挙げたわけだが,中島氏が編集したその他の近江民話集に『近江の民話 日本の民話74』(中島千恵子編;未来社,1980年) があり,これには民話71編の他にわらべうたも収録されている.現在は絶版になっていて,古書は大変に高い値段がついているが,昨年秋に『[新版]日本の民話74 近江の民話』が出ているのを見つけたので Kindle 版を読んでみた.
 すると,これには中島氏による再話『母子草』は収録されていないことがわかった.
 以上,この本稿 (七) までに紹介した書籍を時系列に並べてみると以下の通りである.
 
発行年 書籍名                『母子草』の収録
1968年 『近江むかし話』              ×
1977年 『続 近江むかし話』            ×
1979年 『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』   ○
1980年 『日本の民話74 近江の民話』        ×
1992年 『母子草 滋賀の伝説シリーズ 3』      ○
 
 滋賀県老人クラブ連合会が『近江むかし話』『続 近江むかし話』を編纂した時期,高齢の『母子草』原話伝承者はもう世を去っていたと考えられると既に述べた.
 そして後に中島氏にこの民話を伝えた田中敏郎氏は,『近江むかし話』『続 近江むかし話』編纂事業が行われていた時期には,まだ老人クラブに所属するような年齢ではなかったので,再話の募集に応募しなかったのではないだろうか.
『続 近江むかし話』が出版された時期には,中島千恵子氏は田中敏郎氏から原話『母子草』を既に採集していた可能性がある.しかし老人クラブ連合会による『続 近江むかし話』編纂事業の趣旨が「老人が社会的役割を果たす」であるということに照らせば,自分が直接再話した『母子草』を『続 近江むかし話』に収録させるのは好ましくないと判断したのだろう.
 そのような事情のもとに,翌々年,『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』に『母子草』が収録されたというのが私の推理なのだが,いかがであろうか.
 『日本の民話74 近江の民話』に『母子草』が入っていないのは,前年の『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』に入っているから重複を避けたためであり,『母子草 滋賀の伝説シリーズ 3』の出版は,『ひともっこ山 湖の国にむかしむかし』の出版から十三年も経ったこともあり,幼年向きに書き直して絵本にしたのであろう.
 
 さて次回は,中島版『母子草』のストーリーについて述べる.
(続く)

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