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2018年4月30日 (月)

初めての台湾 (一)

 会社員が定年退職したあと,うまくいけば残りの人生を十五年ほど生きることができるわけだが,十五年なんてあっという間に過ぎるだろうなあ.
 私なんか今六十八歳だから,あと十年ちょっとだ.
 終末期が二年とすれば,動けるのは十年あるかどうか.
 現役会社員だったときには,悠々自適になったら,大英博物館やルーブル美術館に行ってみたいと思っていたが,いざ仕事を辞めたら,長時間の空路に耐えられるか自信がなくなっていた.
 徳島の大塚国際美術館へ行った旅行記を既にアップしてあるが,あの時,ルーブルにある名画の陶板レプリカを前にして二人連れの中年の女性たちが「本物を見ちゃうと,こんな偽物はお話にならないわね」と声高に話していた.
 陶板レプリカと贋作は違うんだけどなあ,と私は思ったが,しかし大塚化学渾身の陶板レプリカを一笑のもとに貶せる彼女たちを羨ましくも思った.
 
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。
  (萩原朔太郎『純情小曲集』から「旅上」;青空文庫にある)
 
 朔太郎は旧制前橋中学を出ていて,前橋高校出身の私の同窓の先輩にあたる.
 上に引用した「旅上」は高校生の時から好きな詩の一つだ.
 年が明けたばかりの一月のある日,ふと「ふらんすへ行きたしと思へども」と口ずさんだ私は,朔太郎のように新しき背広を着て旅に出てみたいと思った.
 どこに行こうか.
 ルーブルは無理だが,近場で行きたいところがあった.台北の故宮博物院だ.
 思い立ったが吉日.クラブツーリズムの一人旅ツアー「はじめての台湾ハイライト 4日間」に参加を申し込んだ.
 聞いた話では,故宮博物院の所蔵美術品をちゃんと鑑賞する気になったら一日では無理らしい.だからいずれ個人旅行で台北二泊くらいの旅行をするとして,しかし全く土地勘がないのはちょっとね,ということで先ずはツアーで行こうと考えたのである.
 ここら辺がいかにも年寄りの思考だ.かつて青年沢木耕太郎が『深夜特急』の旅に出た時,彼の頭の中に土地勘なんて言葉はなかっただろうに.
 沢木耕太郎は別格として,海外旅行に人一倍臆病だった私だが,出張とか成り行きでアメリカや中国,東南アジアに行ったことはある.そして懐かしい思い出の土地はあるが,もう再訪することはないだろう.あと数回,東南アジアに行ければ,それでいいやと思っている.
(初めての台湾 (二) へ続く)

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