糖質制限食本・補遺(十二)
前回の記事《2017年9月11日 糖質制限食本・補遺(十一) 》の末尾を再掲する.
《「悪玉コレステロール→動脈硬化」説を世間に広めた張本人はインチキ医者の他にもいて,それは食品業界である.とりわけ健康志向の商品やサプリメントを製造販売している会社が酷い.
現在では一般向け百科事典にも《以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている》と書かれているにもかかわらず,未だにこんな嘘八百を書きまくっている食品会社がある.元食品企業にいた者として,平然と消費者をたぶらかすこの会社には恥を知れと言いたい.》
昭和の終わり頃,低密度リポタンパク質すなわち LDL を「悪玉コレステロール」,高密度リポタンパク質すなわち HDL を「善玉コレステロール」と呼んで,私たちの体の血漿 (血液を遠心分離した上澄の液体;この上澄にリポタンパク質が含まれている) 中の各種リポタンパク質を二種類に単純化して分類し,このうちの「悪玉コレステロール」が動脈硬化の原因であるという虚説を似非医者や無責任な食品企業が広めた.
そもそもリポタンパク質は,コレステロールを構成成分として含んでいるだけであり,コレステロールとは別物なのである.
しかるに似非医者や悪質無責任な食品企業は無知無学であるから,リポタンパク質とコレステロールを混同してしまった.
さらにその上に彼らは,LDL が動脈硬化の原因だなどとしたものだから,リポタンパク質と健康に関する私たちの理解は大きく混乱したのであった.
この混乱は現在でも尾を引いていて,勉強不足の開業医や,知ったかぶりな一般人のブログに「コレステロールは生体を構成する大切な成分ですから,善玉も悪玉もありません」などと一見するともっともらしいことが書かれているのを目にすることが多いが,しかしこの文章自体が,彼らが細胞 (の膜構造) に含まれているコレステロールと,血漿リポタンパク質を混同していることを示しているのだ.この混同はかなり根深く浸透しており,もはや取り返しがつかないかも知れないと思われる.
さてコレステロールとリポタンパク質とを混同する誤りの主たる原因は,測定法に対する無理解にあったと思われる.
血漿リポタンパク質の測定法 (分析法) は,臨床検査技師にとっては基礎知識中の基礎知識であるが,その一方で,医師でも理解していない人がいる.間違った健康知識を書きまくっている一般人のブログなんかは言うまでもない.
リポタンパク質の測定法の原理は大雑把に言うと,表面に親水性タンパク質が存在する球状構造をしているリポタンパク質 (表面には親水性タンパク質の他にコレステロールの持つ水酸基も露出しているが,内部には,脂肪酸とエステル結合した"コレステロールエステル"と,トリアシルグリセロール <つまり脂肪> がある) に,ある種の界面活性剤を作用させると,リポタンパク質の構造が破壊されて,中に含まれているコレステロールおよびコレステロールエステルが酵素反応を受ける状態になる (この状態を一般にミセル化コレステロールと呼んでいる) ことを応用する分析方法である.
ミセル化コレステロール状態のコレステロールエステルは,これを分解する酵素であるコレステロールエステラーゼと反応させて脂肪酸を分解除去し,コレステロールにする.
このコレステロールと,リポタンパク質中に元から存在したコレステロールに対して,コレステロールを酸化する酵素であるコレステロールオキシダーゼを作用させる.
この酵素反応により過酸化水素が生じるので,この過酸化水素に発色試薬を加えて呈色反応を起こし,吸光度を測定して定量する.(過酸化水素の定量法は種々あるので詳しい説明は省略する)
これが血漿中リポタンパク質の測定原理であるが,つまり,血漿中のリポタンパク質の量 (実際には濃度;例えば HDL の濃度) をコレステロールの量 (実際には濃度;例えば HDL-コレステロールの濃度) で表現しているわけだ.
では,実際の血漿中のリポタンパク質は HDL 他の混合物であるから,これをどうやって区別して測定するかが次に問題となる.
これまたブログのレベルでは詳しい説明を省略せざるを得ないが,種々の分離手段 (超遠心法,電気泳動法,ゲルろ過HPLC法など) で各リポタンパク質を分離し,それぞれに含まれるコレステロールを分析すればよい.しかし簡便性と費用の点から,実際には上に述べたコレステロール分析の際に,複数の界面活性剤を巧妙に用いて HDL と LDL を区別して測定する方法が開発されて測定キットが販売されている.
以上が血漿リポタンパク質の測定方法であるが,これにより測定される HDL-コレステロール と LDL-コレステロールの意味はよしとして,では総コレステロールとは何か.
次にそれを説明する.
(続く)
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