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2017年9月11日 (月)

糖質制限食本・補遺(十一)

 前回の記事《糖質制限食本・補遺(十) 》の末尾を再掲する.

そういう強面の一般老人の目から見て,東京都健康長寿医療センター研究所で指導的立場の地位に就いている新開省二氏のコレステロールに関する知識レベルは,実にお粗末の一言に尽きる.
 そのお粗末振りを示すためには,そもそもの話から始めねばならない.
 そもそも総コレステロールとは何か.

 そもそも総コレステロールとは何か.
 自然学の専門家 (研究者,技術者,文筆家など) が学術用語を一般の人に対して用いる際に,不正確な言い換えを行うことがある.
 日常語「コレステロール」はその身近な一例である.「体脂肪を燃焼 (この「燃焼」は比喩であって,科学の言葉ではない) させる」などもそうだ.
 正しい意味の「コレステロール」は化学の学術用語であり,ステロイドと称される大きな化合物群の,その中のステロールと呼ばれるサブグループに属する有機化合物の一種である.
 ステロールには多数の種類があるが,ステロールの基本的な骨格を下の図に示す.学生時代に有機化学を学んだ人には忘れられない構造だ.

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 次にコレステロールの構造を立体化学 (ここでは特に説明の必要はないので省略) も含めて示す.これをすらすらと描けるのは大学とか企業で現在も化学に携わっている人だろう.
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(上の二つの図はいずれも Wikipedia【ステロール】,同【コレステロール】 から引用したパブリックドメインの画像である)

 コレステロールという有機化合物についての説明はここまでとする.なぜなら,医師や私たち一般人が日常語でコレステロールと呼んでいるものは,実は別の物質だからである.
 その別の物質とは,リポタンパク質という.
 Wikipedia【リポタンパク質】から,まずリポタンパク質の概略説明を引用する.

リポタンパク質(リポたんぱくしつ、英語: Lipoprotein)は、脂質が血漿中に存在する様態で、脂質とアポタンパク質が結合したものである。
脂肪酸のような分極した分子を除き(遊離脂肪酸)、脂質を血漿中に安定に存在させるには、タンパク質(アポタンパク質と呼ぶ)と結合させる必要がある。リポタンパク質は、トリアシルグリセロール(トリグリセリド、中性脂肪)および、細胞の生命維持に不可欠なコレステロールを多く含む球状粒子である。カイロミクロン(キロミクロン)、超低密度リポタンパク質(英語版) (VLDL)、中間密度リポタンパク質(英語版) (IDL)、低密度リポタンパク質(英語版) (LDL) 、高密度リポタンパク質(英語版) (HDL) の各種類があり、比重が大きいほどアポリポタンパク質の割合が高く、逆に脂質の割合が低い。

 上の引用箇所にあるように,リポタンパク質には幾つかの種類があるが,その中でも私たちの疾病と健康に関して重要な意味を持つ低密度リポタンパク質 (LDL) について,同 Wikipedia【リポタンパク質】から引用する.
 下の引用部分では,重要なところを原文の文字色を変えて強調した.

低密度リポタンパク質(LDL)
1.019 - 1.063 g/mL のリポタンパク質で、直径は 22 nm 程度。
リポタンパク質の中でコレステロール含有量が最も多く、末梢組織にコレステロールを供給する。以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている。最新のACC/AHAガイドラインでは家族性高コレステロール血症の患者以外ではLDLの目標値を設定するエビデンスはないとされている。apo B-100やapo Eを認識するLDL受容体を介して主に肝臓に取り込まれ異化される。
LDL受容体欠損症は家族性高コレステロール血症(FH:familial hypercholesterolemia)とよばれ、特にホモ欠損症では総コレステロール値が600mg以上にもなり思春期にも虚血性心疾患など重篤な動脈硬化症に至る。
LDLが酸化・変性・糖化することによってLDL受容体への親和性を失う(酸化LDL)。その場合、スカベンジャー受容体などを経てマクロファージに取り込まれ、マクロファージの機能を変化させることにより動脈硬化症を発症すると考えられている。
最近ではスモールデンス(sd-LDL)と呼ばれるLDL受容体への親和性を失い、小粒子ゆえに血管壁に浸透しやすい種類のLDLが虚血性心疾患に関与していることもわかってきた。粒子径は25.5nm以下である。比重で分画した場合1.040 - 1.063のLDLに相当する。

 昔から開業医の中には,自分で何か研究したわけでもないのに,他人が発表した学術論文を読み,あちこちからかき集めたネタで大衆向けの健康ハウツー本を出版して金儲けを企む不心得者がいた.今でもテレビのエンタメ系情報番組には,その種の単なる開業医が「名医」とか「権威」などと肩書で登場してもっともらしい蘊蓄を垂れている.
 そういう連中が流行らせたのが「悪玉コレステロール」であった.
 私はもうすぐ四十歳になろうかという頃,高度不飽和脂肪酸を含む植物由来の複合脂質が血中脂質に与える影響を調べていたことがあって,当時読んだ専門書には,既に「悪玉コレステロール」という呼び方が不適切であると書かれていた.二十年以上前の話である.
 当時の最新知見では既に,動脈硬化の主因は LDL そのものではなく,《LDLが酸化・変性・糖化することによってLDL受容体への親和性を失う(酸化LDL)。その場合、スカベンジャー受容体などを経てマクロファージに取り込まれ、マクロファージの機能を変化させることにより動脈硬化症を発症する》とされていたのである.
 だから,テレビや大衆向けの本で「悪玉コレステロール→動脈硬化」説を滔々と垂れ流すインチキ医者を,研究者たちは苦々しく思っていたのである.
 「悪玉コレステロール→動脈硬化」説を世間に広めた張本人はインチキ医者の他にもいて,それは食品業界である.とりわけ健康志向の商品やサプリメントを製造販売している会社が酷い.
 現在では一般向け百科事典にも《以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている》と書かれているにもかかわらず,未だにこんな嘘八百を書きまくっている食品会社がある.元食品企業にいた者として,平然と消費者をたぶらかすこの会社には恥を知れと言いたい.
(続く)

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