糖質制限食本・補遺(三)
(前回記事の末尾)
《さらに,一日の推定エネルギー必要量は厚労省が意味不明な値を示してくれているが,同省が示しているタンパク質や脂肪の必要摂取量は,栄養学者以外の一般国民が知ったら腰を抜かして立ち直れない程のものなのである.》
再度,日本人の食事摂取基準(2015年版) に戻る.
ここに「たんぱく質の食事摂取基準(g/日)」が掲載されている.そこからたんぱく質必要量の部分を抜粋すると以下の通りである.
性別 男性
年齢 推定平均必要量 推奨量
12~14(歳) 50 60
15~17(歳) 50 65
18~29(歳) 50 60
30~49(歳) 50 60
50~69(歳) 50 60
70以上(歳) 50 60
性別 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量
12~14(歳) 45 55
15~17(歳) 45 55
18~29(歳) 40 50
30~49(歳) 40 50
50~69(歳) 40 50
70以上(歳) 40 50
スポーツに汗を流して青春を謳歌している中学高校生なら,この表を見て爆笑するに違いない.
「なんで七十の爺さんと俺らが一緒の必要量なんだよ(爆)」
その通りなのである.
実は私たちの体,例えば筋肉は,常に分解と合成を繰り返している.
なぜかというと,私たちの体の細胞は間断なく,主に活性酸素の作用で損傷を受けているので,分解しては遺伝情報に基づいて再合成することにより,損傷を修理しているのである.
この時,筋肉を分解してできたアミノ酸の多くはまた再合成に使用されるが,30%程度は体外に排出され,不足分は食事で摂ったたんぱく質を消化して補給される.
この分解と再合成は成長期に旺盛であるから,青少年は老人よりもたくさんのたんぱく質を必要としている.
しかるに厚労省が示した「たんぱく質の食事摂取基準(g/日)」では,青年男子も爺さんも一律に「たんぱく質の平均必要量(g/日)」は50グラムだという.
こんなに明らかな誤りが堂々とまかり通っているのは,我が国の栄養学において,豊葦原千五百秋瑞穂國の民は米を食うべきであるという思想が蔓延しているからである.前回の記事で《栄養学者以外の一般国民が知ったら腰を抜かして立ち直れない程のものなのである》と書いたのはこのことで,科学ではなくイデオロギーが日本の栄養学を支配しているのだ.
ネット上を検索すると「日本人の腸は肉食より米食に適応して長くなっている」とかの嘘がまことしやかに流布宣伝されており,挙句の果ては根拠もなく「日本人なら米を食え」などと言う輩もいる始末である.
この「豊葦原千五百秋瑞穂國の理想的な食事」思想は,生きていくのに必要最低限のたんぱく質と脂質を一食の食材中に確保したら,あとは,一日の推定エネルギー必要量との差を糖質で摂ることになっている.その結果,一日のエネルギー必要量が多い人の場合は,なんと六割のエネルギーを糖質で摂取している.
病院でも刑務所でも学校給食でも,この食事思想に基づいて調理が行われている.
児童生徒に提供される学校給食は一日に一回だからまだ救いがあるが,病院や刑務所の食事は本当に粗食で,暫く入院や収監されたあと退院あるいは出所するときにはゲッソリと筋肉が落ちている.
筋肉が減ると基礎エネルギー消費量も減るから,油断して食い過ぎるとすぐに肥満することになる.
いい例が堀江貴文だ.刑期を終えて長野刑務所を出た時には一見痩せていたが,代謝は低下していたとみえてすぐにリバウンドし,今ではテレビで三段腹を披露している.
ま,ホリエモンがどうなろうと一般国民の知ったことではないが,地域ぐるみで大学の研究者たちから糖質中心の食事を指導されたがために,その地域住民に糖尿病患者が増えてしまったのではないかと指摘がなされている.これは糖尿病治療に携わる医師たちの一部から「久山町の悲劇」と呼ばれている事例である.
(続く)
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