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2017年8月 4日 (金)

糖質制限食本・補遺(二)

(前回記事の末尾)
そこで病院の管理栄養士に予約を取り,具体的な食事指導を受ける.
 以下は,かつて横浜市にあった国立総合病院での私の体験だが,指導室に現れた管理栄養士は肥満体の女性であった.白衣からはみ出そうなゴージャスな体型を見て,なんかこー説得力ねーなー,と私は思ったが,仕方なく栄養指導を受けたのであった.

 さて肥満体の管理栄養士が私に提示したのは,古典的な栄養学が教えるところの糖尿病治療食であった.
 これは今でも,糖尿病患者の教育入院で患者に教えられているはずである.
 詳細は略するが,大雑把に言うと,まず指導対象者の生活スタイルや職業等を勘案して,対象者が一日に摂取するエネルギー (kcal/day) を決める.
 この時,本来は,対象者の基礎エネルギー消費量 (基礎エネルギー代謝量;BEE=basal energy expenditure) に身体活動レベルに対応した係数を乗じて,一日に摂取するエネルギーを決めるのだが,基礎代謝量の測定は簡単でないので,代わりにハリス-ベネディクトの式を用いる.この計算式は,測定値から得た回帰式 (出典;Harris, Benedict "A biometric study of basal metabolism in man (1919) ") であるが,具体的には,

男性
 BEE  = 66.4730 + 13.7516 w  + 5.0033 h  − 6.7550 a
女性
 BEE  = 655.0955 + 9.5634 w  + 1.8496 h  − 4.6756 a
(w:体重(kg),h:身長(cm),a:年齢(歳))

である.しかし元のデータが欧米人から得たものであることと,計算が少し面倒くさいので,日本人については,普通は以下の簡易式が使用される.

男性
 BEE  = 14.1 w  + 620
女性
 BEE  = 10.8 w  + 620

 ここで BEE は回帰直線から求めた推定値であることを指摘しておかねばならないが,一日に摂取するエネルギーを求めるために,BEE に乗じる身体活動レベル係数もまた実は推定値なのである.
 推定値に推定値を乗じて得られる値が何を意味しているか,ほとんどわけがわからないが,ともかく厚労省 (と我が国の栄養学者) は「エネルギーの食事摂取基準:推定エネルギー必要量 (kcal/日)」として公表している.最新の基準は2015年版で,その一部を抜粋すれば以下の通りである.

性別          男性            女性
身体活動レベル I    II   III    I    II   III
18~29(歳)  2,300  2,650  3,050  1,650  1,950  2,200
30~49(歳)  2,300  2,650  3,050  1,750  2,000  2,300
50~69(歳)  2,100  2,450  2,800  1,650  1,900  2,200
70以上(歳)  1,850  2,200  2,500  1,500  1,750  2,000

 詳細は厚労省の資料「日本人の食事摂取基準 (2015年版)」に説明があるが,私の場合は上表の「50~69(歳)」「身体活動レベル I 」であるので,2,100kcal/day ということになる.
 
 さて次に,この値から実際に食べる食品量を計算するのであるが,それには元々は糖尿病治療食のために考案された「食品交換表」が用いられる.
 これは,一日に摂取する食物を六食品群に分類し,各食品の80kcalを「1単位」として表にまとめたものを用いて簡易計算する方法である.(参考資料;『糖尿病の為の食事について』)

 しかし食品交換表を用いて食事を設計する方法には大きな問題がある.
 実際の食品には栄養成分含有量の大きなバラツキがあるのだが,食品交換表はそれを反映していないのだ.
 その極端な例は,野菜と食肉加工食品である.
 テレビの食レポ番組を観ていると,レポーターが農家に出かけてトマトを食べ,目をつぶって天を仰ぎ,「うわっ甘ーいっ,おいしいですねーっ」と言ったりしている.
 一般的なトマトの糖度は5~6であるが,高糖度の品種は10を超えるものがあるから「うわっ甘ーいっ」は了解するが,「おいしいですねーっ」は味覚が幼児レベルであることを露呈している.
 それでもトマトは元々糖質含有量が高いから仕方ないとして,キュウリをかじっても「うわっ甘ーいっ,おいしいですねーっ」と言うのを聞くと,私はテレビの前のイケア製安楽椅子からヘナヘナと床に崩れ落ちるしかないのである.
 このように愚かな消費者とマスコミに迎合し,何でも甘けりゃ売れると考える愚かな野菜生産者のおかげで,食品交換表は信頼性を失ってしまっている.
 またロースハムなどの食肉加工食品は,水を注射するなどの方法でいくらでも重量を増やすことが可能で,栄養成分表示がなされていればその数値を基にカロリー計算できることはできるが,そんな手間を家庭でかけてはいられない.
 というわけで,食品交換表を用いたカロリー計算にはあまり実用性がないのである.

 さらに,一日の推定エネルギー必要量は厚労省が意味不明な値を示してくれているが,同省が示しているたんぱく質や脂肪の必要摂取量は,栄養学者以外の一般国民が知ったら腰を抜かして立ち直れない程に酷いものなのである.
(続く)

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