糖質制限食本・補遺(七)
前回の記事《2017年8月12日 糖質制限食本・補遺(六) 》の末尾を再掲する.
《要するに「エビデンス」とは,誤解している人が多いと思われるが,《効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果》ではなく,効果に関する《確率的な情報》すなわち状況証拠なのである.
医療以外の分野において,ある命題の正しさは,数学でも物理でも化学でも論理を用いて証明される.基礎医学を含む生命科学全般も同じである.
だからこれらの分野の研究者は「エビデンス」がどうのとは言わない.
証拠と言わずに「エビデンス」という語を多用するのは臨床の医師と栄養学者だ.
医療と栄養学という分野は,状況証拠に基づく推測が大手を振ってまかり通る世界なのである.そしてこれが糖尿病の治療に混乱をもたらした原因である.》
この連載の前回記事から少し間が開いた.
実はこの間に《2017年8月27日 筋トレを詐称するウォーキング 》と《2017年8月29日 健康商売人 》を挟んだのは理由がある.健康長寿業界の学者たちが私たちに示す「エビデンス」なるもののいい加減さを例示したかったのである.
信州大学大学院の能勢博教授は,私のような一般人が持っている程度の基礎知識がない上に,単に運動強度が高いに過ぎない有酸素運動を「筋トレ」と詐称し,同工異曲の著書を書きまくる商売人だし,東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利・運動科学研究室長は,能勢教授を上回る商売上手だが,そもそも人間観が歪んでいる.人間を機械のように見做す者に,私たちの健康を論じることができるのか甚だ疑わしい.
さてここで,上に挙げた二人の他に,もう一人インチキ学者に登場願う.上の二人のうち,青栁幸利氏が東京都健康長寿医療センター研究所の所属であることに注目して頂きたい.
先月 (7/12),NHKのろくでなし番組『あさイチ』で《常識が変わる!シニア世代の食生活 あなたの親は大丈夫?》と題した放送が行われた.
実際には番組ホストである有働アナらとゲストたちとの会話で番組は進行したのだが,進行をまとめた概要記事が『あさイチ』サイトの《これまでの放送 》に掲載されているのでご覧頂きたい.
さて私がテレビをオンにしたのは,東京都健康長寿医療センター研究所 (!) の新開省二氏が,六十五歳を超えたらコレステロール値が高めのほうが長生きすることがわかってきた,という独自研究を開陳したところであった.
まーたこんなことを言ってるよと呆れつつ録画を開始した時点で,有働アナが次のように質問した.(以下の番組の様子は,私が録画した映像の音声から文字に起こした.発言者名の「柴田」は女優の柴田理恵さん,「柳澤」は柳澤秀夫NHK解説委員;また以下の発言が理解しやすいように()で註記を入れた)
有働「新開さん,本当にコレステロール値は高いほうがいいんですか?」
新開「コレステロール基準値の上のほうの数値は中年期までの基準なんです.六十五歳以上になりますと基準値を変える必要があるんですね.健康長寿を指標にするとコレステロールは高いほうがいいんです.高齢期は高めがいいんです」
柴田「でも今まで,(私たちが) 若い頃は,コレステロールが高いと健康長寿じゃないって言われたわけでしょ? なんでそう急に変わるんですか?」
新開「あ,そういう長い期間の追跡調査ってないんですよ実は」
この新開氏の発言を聞いて柴田理恵さんは,しばし茫然とした.
従来,学者や身の回りの医師たちが私たちに「コレステロール値が高いと健康長寿になれない」と説明してきたことが,実は全く何の根拠のないことだったと,新開氏が悪びれもせず平然と言い切ったからである.
医師という職業に信頼感を持っている一般人であれば,誰だって新開氏の鉄面皮に茫然とするだろう.しかし医師にも色々ある.言うまでもなくほとんどの医師は誠実であるが,健康に係る研究分野には,ほとんどペテン師に近い者たちがいるのである.
(続く)
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