一粒の理想を握りしめて
桜庭一樹という作家の作品は,週刊誌の連載小説を読んだことがあるが,つまらないので途中で止めた.以来,新作が書店に並べられていても読もうと思ったことはない.
だが,週刊文春の今週号 (8/17,24 特大号) の連載映画レビュー『桜庭一樹のシネマ桜吹雪』を読んで,少し感心した.
この号のレビューで取り上げたのは『ワンダーウーマン』,レビューのタイトルは《悪人さえ倒せば解決するのか?》である.
暫く前から,辻堂の109シネマズ湘南で洋画を観ると,いつもアメコミの実写作品『ワンダーウーマン』の予告編が上映されていたのだが,それがもうすぐ (8/25~) 公開である.
ワンダーウーマンがアメコミのスーパーヒロインであることは知っているが,どんな物語なのかは私は全く知らない.Wikipedia【ワンダーウーマン (映画)】によると,スーパーマンおよびバットマンと世界観を共有していると解説されている.
さて桜庭一樹は,映画評を
《みんな自分の王国に棲んでいる。あなたもわたしもその国の王だ。》
と書き始める.『ワンダーウーマン』のヒロインであるダイアナが女戦士の一族アマゾネスの王女だからである.そして
《王女が成長して女王になる物語に必要なシーンとは、なんだ?
それは純粋だった主人公に「手を汚させる」ことなのだ。嫌悪していた悪に自ら染まり、血濡れてしまった手に、それでも残った一粒の理想を握りしめ、あなたも、わたしも、かつて王国を継いだ。》
と締めくくる.
王というものは,正義の理想を歌い上げるから王なのではない.その理想を掲げたために生じた責任を引き受けるからこそ王なのだと,桜庭一樹は言う.それを描く物語には苦い普遍性があるとも.
誰が言ったか忘れたが,映画批評というものは「読んだ人を映画館に出かけさせてナンボのもの」なんだそうだ.
その意味で桜庭一樹はなかなかよい映画批評家であるかも知れない.これまでアメコミ映画をバカにしてきた私を,『ワンダーウーマン』を観に行く気にさせたからである.
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