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2017年8月12日 (土)

糖質制限食本・補遺(六)

(前回の記事の末尾)
その一方,研究資金に事欠かない医学部は,栄養学に興味関心がないのであった.
 必要があれば諸外国での研究成果を紹介し,それで事足れりとしていた.その一例が,糖尿病の治療における臨床栄養だった.

 週刊文春,週刊新潮や週刊現代などのいわゆる総合週刊誌において,医療や健康に関する情報記事の掲載頻度はかなり高い.
 週刊文春を例に取ると,先々週号 (8/3号) では《「歯の寿命」は10年延ばせる!》,先週号 (8/10号) では《オバマが絶賛「夢のがん免疫治療法」》 《肉を食べて「熱中症」を防ごう!》の二本,今週号 (8/17,8/24特大号) では《ライバルが認める「がん手術の達人」58人》が載っている.
 これはつまり国民の健康に対する関心の高さを反映しているわけである.医療・健康と不倫芸能人が,日本国民の二大関心事であると言ってよい.いいのかよ.
 テレビも事情はほぼ同じで,報道系情報番組は北朝鮮と不倫が二本柱であるが,バラエティ系情報番組 (NHK『あさイチ!』,同『ためしてガッテン』,日本テレビ『世界一受けたい授業』,テレビ朝日『林修の今でしょ!講座』,テレビ東京『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』) は健康情報を取り上げる頻度が高い.
 ただし,テレビ番組ではNHK『総合診療医ドクターG』が大変に高いレベルにあるので,それと比較すると,『ためしてガッテン』の放送内容はまだ何とか我慢できるとして,『世界一受けたい授業』『林修の今でしょ!講座』『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』が取り上げる健康情報のお粗末さ加減は,視聴していて腰から脱力してしまうほどのものである.

 余談だが,週刊誌記事でもテレビ番組でもネットコンテンツでも,『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』のように「!?」が付いているのはロクなものではない.自ら「?」で信憑性に疑問符を付けてどうするのだ.
『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』には自称名医の町医者やインチキ本を書き殴った管理栄養士が登場するが,彼らの知的レベルは準レギュラー出演者のギャル曽根 (実は私,この頭のいい女性のファンであるし,他にも,家事研究家の美しい女性たちが出演するので『ソレダメ !』は欠かさず観ている ヾ(--;) ) 以下なので,お笑い番組として観ているほうがいい.
 中でも『ソレダメ!』で頻繁に登場する管理栄養士,伊達友美の言うことはほとんどトンデモの水準に達している.それに,彼女のダイエット本のタイトルにはやたらと「キレイ」が入っているのだが,テレビで本人を見ると「キレイ」のエビデンスが疑われると言わざるを得ず,果たしてこれはいかがなものかと思う.

 閑話休題.
 週刊誌記事やテレビに出てくる医師が用いる言葉に「エビデンス」がある.
 Wikipedia【エビデンス】に次のように書かれている.

医学・保健医療の用語
一般には、医学および保健医療の分野では、ある治療法がある病気・怪我・症状に対して、効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果を指す。エビデンスは、医療行為において治療法を選択する際「確率的な情報」として、少しでも多くの患者にとって安全で効果のある治療方法を選ぶ際に指針として利用される。
つまり、「この患者はAという病気である確率がoo%。このAという病気をoo%でもつ患者にB治療法はXX%の確率で効果がある」として、他の治療法と比べて最も効果のある治療法を選択する際の基準選に利用される。言いかえれば、患者の治療に際して、効果の確率(効果量effect size)を知るための手段がエビデンスであり、この効果量がどの程度の確率で正しいかを知るための手段の客観的な基準がエビデンスである。高いエビデンスを求める方法として、ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究が挙げられる。ただし、生物には個体によるゆらぎがあるため、これらの一般的な確率は個々の患者の状態によって適切に修正されなければならない。
この分野において、「エビデンスがある」と言えば、一般的には「科学的根拠」という意味であり、「エビデンス・レベル」は、個々の修正が適切であれば、確率の「信頼度」と言い換えることができる。

 回りくどくて部分的に誤っている記述だ.
 要するに「エビデンス」とは,誤解している人が多いと思われるが,《効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果》ではなく,効果に関する《確率的な情報》すなわち状況証拠なのである.
 医療以外の分野において,ある命題の正しさは,数学でも物理でも化学でも論理を用いて証明される.基礎医学を含む生命科学全般も同じである.
 だからこれらの分野の研究者は「エビデンス」がどうのとは言わない.
 証拠と言わずに「エビデンス」という語を多用するのは臨床の医師と栄養学者だ.
 医療と栄養学という分野は,状況証拠に基づく推測が大手を振ってまかり通る世界なのである.そしてこれが糖尿病の治療に混乱をもたらした原因である.
(続く)

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