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2017年8月 3日 (木)

糖質制限食本・補遺(一)

 昨日の記事《2017年8月2日 糖質制限食本》で,私は「糖質制限食」について何も説明しなかったが,これには補足が必要だろう.

 大学の農学部 (今は農学部を改称して生命科学学部とか,そんな学部名になっているところが大半である) には必ず栄養学の講座や研究室がある.その農学部出身にはよく知られているが,一般の人は聞いて「えーっ」と驚くだろうことが一つある.それは,我が国では伝統的に医学教育において栄養学が不在であったということである.
 例えば,ある精神科医が書いているブログ《精神科医こてつ名誉院長のブログ 》から冒頭部分を引用する.

医学教育で「分子栄養学」を教えないのが諸悪の根源
医学部では栄養学を全く習いませんでした
栄養学を知らないのに、高血圧患者に減塩指導を、糖尿病患者にカロリー制限を指導している
その指導を患者はまじめに聞いて実行しようとしている
これって、マヌケな構造ですよね
自分も勤務医時代、入院患者に高血圧食(減塩食)、糖尿病食(カロリー制限食)の食事箋の指示を出していた、恥ずかしい
一方、管理栄養士は大学で、経験に基づくが理論に基づかないカロリーベースの「古典栄養学」を学んでいる
彼らは、自分が習ったことは100%正しいいと確信しており、それが間違っているとはこれっぽっちも考えていない
だからそれを否定すると激怒する
この「古典栄養学」の基づいて栄養指導をしている
これも、マヌケな構造ですよね

 このマヌケな構造の文章には,読点はあるが句点が打たれていない.中途半端である.書いた人間の頭が中途半端だからである.
 このように,日本語の文章をきちんと書けない人間が医者をやっていることに私は深い悲しみを新たにし,二度とこのような医者が患者の治療に携わることのないよう切に祈るものであるが,それはそれとして,ここに書かれている内容,すなわち医師も管理栄養士も栄養学を知らないということは事実である.

 また,J-STAGEに掲載された
大学における臨床栄養教育の現状と課題~医師のための栄養教育はどうあるべきか?
の冒頭にも次のように書かれている.

日本の医学教育において、臨床栄養に関する教育は重視されてこなかった。近年、医学部教育の中に栄養管理に関する講義が組み込まれている医科大学・大学医学部は増加しているが、欧米と比べると、栄養教育の講義時間数はまだまだ十分とは言えない。
(筆者は滋賀医科大学附属病院栄養治療部の佐々木雅也ら)

 このことを,一般社団法人日本病態栄養学会も設立趣旨として述べている.少し長いが引用する.

我が国の栄養学は農学、家政学を背景に発展したために、臨床栄養学、特に病態栄養学の分野はきわめて立ち遅れています。医学教育においても栄養学は軽視され、医師の栄養学に関する知識はきわめて低いものとなっています。また、管理栄養士は臨床の場で重要な役割を担うものの、病態についての知識や臨床現場での実習が少ないため刻々と変動する患者に対応できる能力が十分とは言えません。一方、医学、医療は新しい技術の導入により日々進歩を遂げつつありますが、治療の基本としての栄養管理や食事療法の重要性が再認識されるに至り、医師、管理栄養士にとって病態栄養学を学ぶことは必須になりつつあります。
 このような実情を踏まえ患者を対象とした代謝栄養学の情報交換のため、臨床医、栄養学研究者、管理栄養士が一堂に参加して疾患の病態研究を行い、効率の良い栄養療法の実践と新たな治療法の開発を目指した「任意団体日本病態栄養学会」を1998年に設立しました。
 本学会の設立当初は200余名の会員でしたが、爾後、学会活動に対する管理栄養士・医師などの関心は極めて高く、2013年には7,500名を超える会員数となりました。
 なお、新公益法人制度の発足により本学会は2009年7月、一般社団法人日本病態栄養学会として現在に至っています。

 病態栄養学会は《学会活動に対する管理栄養士・医師などの関心は極めて高く、2013年には7,500名を超える会員数となりました》と言うが,現役で働いている医師と管理栄養士の総数は数十万人と推測されることからすると,学会会員数七千五百人はあまりにも少ない.医師と管理栄養士の栄養学に対する関心はほとんどないと断じてよい.関心もないし知識もないのである.もちろん優秀で志の高い医師たちは,医学部を卒業後,自ら研鑽して栄養学に詳しくなっていくが,そのような医師は残念ながら現状では少数派である.

 この驚くべき事実は,実は一般国民の知らない我が国の医療の暗部である.
 例えば仮にあなたが,激務と日頃の不摂生で肝機能検査値に異常が発生して倒れ,総合病院に入院したとする.
 医師は「栄養をとって安静にすれば回復するでしょう」と言う.
 あなたが「どんな栄養を摂ればいいんでしょうか」と質問すると,医師は病院所属の管理栄養士に指導を受けてくれと言うだろう.栄養学を学んでいない医師には,患者の食事栄養指導は無理だからである.
 そこで病院の管理栄養士に予約を取り,具体的な食事指導を受ける.
 以下は,かつて横浜市にあった国立総合病院での私の体験だが,指導室に現れた管理栄養士は肥満体の女性であった.白衣からはみ出そうなゴージャスな体型を見て,なんかこー説得力ねーなー,と私は思ったが,仕方なく彼女に栄養指導を受けたのであった.
(続く)

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