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2017年8月13日 (日)

状況証拠

 昨日の記事《2017年8月12日 糖質制限食本・補遺(六) 》の末尾に次のように書いた.

医療と栄養学という分野は,状況証拠に基づく推測が大手を振ってまかり通る世界なのである.そしてこれが糖尿病の治療に混乱をもたらした原因である.

 この文章を掲載したあとで,何というか胸騒ぎがしたので,念のために「状況証拠」の語義を確認してみた.
 まず,Wikipedia【間接証拠】にこう書かれている.

間接証拠(かんせつしょうこ)とは証明の対象となる事実を間接的に証明する証拠のこと。情況証拠、状況証拠とも。
犯罪事実を間接的に推測させることになるが、直接証拠と比較して犯罪事実の証明としては弱くなる。
世間の注目を集める事件において被疑者が否認したまま直接証拠がなく間接証拠だけで立件された場合は、裁判がより注目を集める要因にもなる。

 この Wikipedia の記述は,一般的に理解されている「状況証拠」の語義だ.

 ところが検索結果のトップに出てくる《弁護士三浦義隆のブログ 》にある次の記述を読んで私は驚いた.(以下の引用箇所において,文章を読みやすくするため,文中の過剰な改行は省略する)

情況証拠とは、直接証拠に対立する概念だ。
直接証拠と情況証拠は、立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経る必要があるか否かで区別される。
すなわち、直接証拠とは、立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経ない証拠 一方、情況証拠とは、立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経る証拠という区別になる。
これだけだとわかりにくいかもしれない。
直接証拠において、事実認定のために推認の過程を経る必要がないのは、「その証拠が真実である」ということと「犯罪事実があった」ということが論理的にイコールの関係にあるからだ。
直接証拠の代表は自白。「私が甲氏を包丁で刺し殺しました。」との被告人の自白は、その自白が真実である限り、被告人が犯人であるということを直接示す。
だから裁判においては、その自白の任意性や信用性が争点になる。自白に任意性も信用性もあるなら有罪判決を出すことができる。
自白のほかには、犯行を直接目撃したという内容の目撃者証言や、被告人と一緒に犯行をしたという内容の共犯者供述も、その供述が正しいなら直ちに被告人が犯人だといえるから、直接証拠だ。
このように、直接証拠というのは基本的に全て供述証拠だ。反対に、物証は基本的に全て情況証拠だ。

 私が驚いたのは《このように、直接証拠というのは基本的に全て供述証拠だ。反対に、物証は基本的に全て情況証拠だ》という記述である.

 ここで,Wikipedia【証拠】から以下を引用する.

実質証拠
 次の直接証拠と間接証拠を併せて実質証拠という。
 直接証拠
  主要事実を直接的に証明する証拠を、直接証拠という。例えば、民事訴訟において、契約書や、契約を締結した旨の当事者本人の供述は、契約の存在についての直接証拠となる。また、刑事訴訟において、被害者・目撃者の犯行目撃証言や、被告人の自白は、犯行の事実についての直接証拠に当たる。直接証拠が信用できるものであれば、その要証事実は認定できることになる。

 この記述によれば,契約書そのものは《契約の存在についての直接証拠となる》.
当然のことである.
 だが契約書は,物的証拠以外の何物でもない.
 同じく Wikipedia【証拠】に次のようにある.

人的証拠と物的証拠
証拠方法が人(証人や鑑定人)であるものを人的証拠、物(書証物)であるものを物的証拠という。

供述証拠と非供述証拠
人の供述(ある事実について言葉で述べること)を内容とする証拠を供述証拠、そうでない証拠を非供述証拠という。

 弁護士三浦義隆氏は,《直接証拠というのは基本的に全て供述証拠》でありかつ《物証は基本的に全て情況証拠だ》と主張しているのだが,氏の主張に従えば Wikipedia【証拠】に解説されていることは誤りであり,契約書は《立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経る》必要がある「状況証拠」だということになる.

 だがしかし当該契約書が,改竄が不可能なように注意深く製本され,末尾に契約当事者の自筆による署名があり,実印が捺印され,かつその実印の印鑑登録証明書が添付されていれば,この契約書は契約の存在そのものであり,全く推認の過程を必要としない直接証拠であり,かつ物証である.
 従って弁護士三浦義隆氏の《このように、直接証拠というのは基本的に全て供述証拠だ。反対に、物証は基本的に全て情況証拠だ》との主張は完全に破綻しており,事実に反する.

 次に法律用語の範疇外の例を示す.
 胃の進行がんであった患者AさんがB医師の執刀で全摘手術を受けたとする.
 そしてこの全摘の是非を巡って,Aさんの胃がんが進行がんだったか否かがトラブルになったとする.
 このときB医師による「Aさんは確かに胃の進行がんでした」との証言は,間接証拠であり,かつ供述証拠であるから事実であるかの推認を必要とする.
 しかし摘出された胃が保存されていれば,これは事実であるかの推認を必要としない直接証拠であり,かつ物的証拠である.

 このように法律用語の範疇においても,それ以外の場合においても,弁護士三浦義隆氏の主張は誤りである.
 三浦氏がなぜ間違った主張をしているかというと,《人的証拠と物的証拠》の対比と《供述証拠と非供述証拠》の対比を同じものだと,混同,誤解しているからである.
 どうしてこんな馬鹿な誤解をしたかというと,頭の構造が中学生並だからとしか考えられ
 こんな知力の人物がよくぞまあ司法試験に合格したもんだと呆れたが,考えてみたら年甲斐もなく網タイツと伊達メガネをして世間に恥をさらした防衛大臣も弁護士であった.

 結論.私の「状況証拠」の用法は正しいので,訂正を要しない.よかったよかった.

 話は横に逸れるが,ただの思い付きの三浦つながりで Wikipedia【三浦和義】を読んでみたら,次の記述があった.

アメリカ捜査当局は、1979年に腐乱死体で発見された三浦の交際相手であったD子の殺人容疑(ジェーン・ドゥ・88事件)で訴追、再逮捕する方針を固めていたことを現地日時2009年1月10日に元捜査官が明らかにした。
元捜査担当者によると、死因や殺害の状況の詳細は不明だが、被害者の銀行口座から426万円が引き出された状況証拠に基づき、三浦による単独犯行と断定。三浦が死亡する直前の段階で死刑求刑が可能な第1級殺人と窃盗容疑で近く逮捕状を請求する方針を固めており、捜査トップにも報告していた。三浦の弁護側はロサンゼルス・タイムズ紙に「死人に鞭打つとは滅多にない話だ」とコメントしている。

 おお,偶然にもこんなところに「状況証拠」の用例があるではないか.
 だから何なんだと言われると,何でもないです.ではまた.

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