『キング・アーサー』を弁護する (四)
前回の記事《『キング・アーサー』を弁護する (三) 》の末尾を再掲する.
《その理由として,アーサー王の物語は過去の色々な人たちが夫々勝手に創作したストーリーが混乱して流布したために,統一された世界観がないことが大きいだろう.
例えばA君とB君がアーサー王の物語について語ろうとしても,A君の知っているアーサー王伝説とB君の知っているそれが異なっているのでは,盛り上がろうはずがない.
アーサー王伝説の重要アイテムである聖剣エクスカリバーだって,その出自からしてわけがわからぬ有様なのである.》
アーサー王の物語が日本では不人気な理由は,自然発生した色々な民間伝承を材料にして創作された作品であるがために首尾一貫性に欠けるからであろう.
その混乱の最たるものが聖剣エクスカリバーである.
Wikipedia【エクスカリバー】の冒頭にこう書かれている.
《エクスカリバー (英語: Excalibur) は、アーサー王伝説に登場する、アーサー王が持つとされる剣。魔法の力が宿るとされ、ブリテン島の正当な統治者の象徴とされることもある。同じくアーサー王伝説に登場し、アーサーの血筋を証明する石に刺さった剣と同じものとされることがあるが、別物とされることもある。》
ここに《象徴とされることもある》《別物とされることもある》とあるのが,その混乱を示している.
中でも問題は《アーサーの血筋を証明する石に刺さった剣》が,一体何者で,それはどこからやってきたものなのかが明確でないことである.
これに対して,トールキンの創作者としての才能は,壮大なファンタジーの舞台「中つ国」の歴史に登場する伝説の武具や刀剣の説明をおろそかしなかった.
中つ国第一紀に鍛えられ,後にガンダルフの持ち物になったグラムドリング,同じく太古の昔に作られてホビットのビルボの護身剣となった無銘のダガー (ビルボによってスティングと命名されたエルフのナイフ),そしてやはり中つ国第一紀にドワーフ族の王トーリン・オーケンシールドが所持していた名剣オルクリスト (最終的に人間の王の持ち物となった).
これらの剣は物語の展開に重要な役割があるので,『指輪物語』の中で出自由来が説明されており,映画『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』でもガンダルフたちの一行が剣を発見,手に入れる場面がきちんと描かれていたのは,『指輪物語』ファンの記憶に残るところだ.
一方,アーサー王物語の《アーサーの血筋を証明する石に刺さった剣》だが,大体において普通の剣が石に刺さるわけがない.しかし刺さっているからには,何かしらの理由があるわけで,それがアーサーの血筋を証明する理由ともなるのだが,その理由が実ははっきりしないのだ.
前に紹介した自称歴史研究家で,この剣は石を鋳型にして作られたものであり,そのため石に刺さっているように見えるのだとブログに書いている 馬鹿 知ったかぶり 人がいる.石を鋳型にして鋳造する方法があるなら教えて欲しいぞ.石から飛び出ている柄はどうやって作ったんだ?
それに,鋳造で作った剣は模造刀であって剣としては使えないじゃないか.
こういう人は横に置いといて,私は,エクスカリバーの出自由来を観客に知らしめる上で,『キング・アーサー』の脚本はよくできていると思う.
ところが,レビュー《不親切 》が掲載されているのと同じ映画レビューサイト《映画.com》では,作文を投稿している何十人もの子どもたち (知識がないことの婉曲表現) が皆揃ってアーサー王の物語を知らないせいか,誰もこの脚本のアイデアに触れていない.
そこで次に,『キング・アーサー』で描かれた聖剣エクスカリバーの物語の概略を示そう.
(続く)
| 固定リンク
「 続・晴耕雨読」カテゴリの記事
- エンドロール(2022.05.04)
- ミステリの誤訳は動画を観て確かめるといいかも(2022.03.22)
- マンガ作者と読者の交流(2022.03.14)
コメント