『キング・アーサー』を弁護する (三)
『キング・アーサー』を鑑賞した感想文の最後に,聖剣エクスカリバーについて少し触れておこう.
レビュー《不親切 》の筆者は,文末でこんなことも書いている.
《また,肝心な場面で個人的に大嫌いな爬虫類が出て来たのも気に入らなかった。》
欧米の人々にもっともよく知られた魔術師は,アーサー王伝説に登場するマーリンと,トールキン作『指輪物語』の主役の一人,ガンダルフだろう.
《不親切》筆者氏が言う《肝心な場面》とは,女魔術師メイジ (青年期に達したアーサーを,簒奪された王位を奪還する者として覚醒させるために,大魔術師マーリンから遣わされた女性である.本作の脚本では,名前ではなく,ただ単にメイジ 〈=魔術師〉と呼ばれている) が,アーサーとヴォーティガンの戦闘でアーサーを援護するために,呪文を唱えて大蛇を召喚したことを指している.
なぜ大蛇が出てくるのか.実はこれはアーサー王伝説の知識があれば,ナルホドと納得するシーンなのである.
Wikipedia【エクスカリバー】に,アーサーの剣に関する記述がある.
《見よ、彼は立ち上がった。手にはアルスルの剣を持っていた。剣身には黄金で打ち出された二匹の蛇の姿があって、鞘ばしると、蛇の首から二筋の炎が立ち上るのが見え、それがあまりにも恐ろしいありさまだったので、だれ一人として目を向けて見る者もないほどだった。》 (当ブログ筆者註;アルスルとはアーサー王のこと)
私自身は聖剣エクスカリバー伝説について Wikipedia【エクスカリバー】程度の知識しか持ち合わせていないが,『キング・アーサー』のラストシーンに近いところで女魔術師メイジの召喚した大蛇がエクスカリバーの象徴であることは明らかだ.であるからして《大嫌いな爬虫類》が出てきても,ラストシーンに繋がる大切な伏線なんだから文句を言っても仕方ないのである.《不親切》筆者氏は,アーサー王伝説の基礎知識として,エクスカリバーと蛇の関係について調べておくべきであった.
さて,日本ではトールキン作『指輪物語』の知名度はかなり高い.トールキンが独力で構築した世界観の首尾一貫さは大したもので,サイドストーリーを含めて綻びがない.
映画『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』の興行的ヒットは,原作とした『指輪物語』の読者層に歓迎されたからであったろう.
これに比較するとアーサー王の物語は日本では不人気である.『指輪物語』の知名度を100とすれば1くらいなもんだろう.
その理由として,アーサー王の物語は過去の色々な人たちが夫々勝手に創作したストーリーが混乱して流布したために,統一された世界観がないことが大きいだろう.
例えばA君とB君がアーサー王の物語について語ろうとしても,A君の知っているアーサー王伝説とB君の知っているそれが異なっているのでは,盛り上がろうはずがない.
アーサー王伝説の重要アイテムである聖剣エクスカリバーだって,その出自からしてわけがわからぬ有様なのである.
(続く)
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