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2017年5月21日 (日)

金八先生

 昨日,録画しておいたテレビ番組を観終えて,地上波放送に戻したら,クイズ番組をやっていた.日本テレビ『究極の○×クイズ!!超問!真実か?ウソか?』の再放送のようだった.(4/7放送分)
 私が観たときのクイズは,武田鉄矢が「間違えやすい日本語50」に全問正解できるか否かを,ゲスト回答者が○×で答えるというもの.
 武田鉄矢は結局,全問正解したのであるが,最後の問題は《「やぶさかではない」の正しい意味は?》で,武田鉄矢は《努力を惜しまず喜んでする》意味だと答え,番組が用意した正答はこれと全く同じであった.

 よかったよかったと言いたいところであるが,実はこれ,間違いなんである.
 一部のネット辞書が現在そのような誤った語義を載せているが,そうなったのは平成二十五年度の文化庁「国語に関する世論調査」において,「協力を求められればやぶさかでない」の意味を問う設問の答えを「喜んで協力する」としたことが影響していると思われる.武田鉄矢の知識も,おそらくこの時の「国語に関する世論調査」に基づいているのであろう.

 ところが,である.
 この「協力を求められればやぶさかでない」という例文自体が日本語になっていないのである.(笑)
 というのは,この「やぶさかでない」には定型があって,この例でいえば「求められれば協力するにやぶさかでない」としなければいけないのだ.
 しなければいけない,というのは少々強い言い方かも知れないが,慣用表現というものは,定型から外れると聞く者に違和感を覚えさせるので,特に文芸表現上の必要性がなければ,定型に従っておくべきである.
「やぶさかでない」の定型とはすなわち「○○するにやぶさかでない」という形である.
 では,問題の「やぶさか (吝か)」とはどのような意味か.
 ネット辞書の「実用日本語表現辞典」に行き届いた解説があるので,それを下に引用する.

吝かではない
読み方:やぶさかではない
形容動詞「吝か(である)」の否定形で、多くの場合「やりたい」というおおむね積極的な意思を示す表現。
「吝か」は、それ自体「気が進まない」「気乗りしない」「あまりやりたくない」といった後ろ向きな気持ちを示す。これを「吝かではない」と、否定形によって表すことで、「やりたくないわけではない」、「やってもよい」、あるいは、「どちらかと言えばやりたい」、「むしろ喜んでする」といった肯定的・積極的な姿勢を婉曲的に表す。
「吝かではない」のように否定的表現を否定する修辞法は「緩叙法」とも呼ばれる。例えば「嫌いではない」(わりと好きだ)、「悪くない」(けっこう良いと思う)などのような表現でも緩叙法が用いられている。

 さて「やぶさかでない」には一筋縄でゆかぬところがある.
 まず一つには,普通は上の解説にあるように《おおむね積極的な意思を示す》時に用いる表現なのであるが,実は心中で「喜んで○○する」と思っていても,口に出す時にはもったいぶって「○○しないわけではない」と言う時にも用いるのである.
 二つ目には,緩叙法表現の意味には,上の解説の例でいうと「嫌いではない」には,「嫌いではないが,取り立てて好きというわけでもない」から「わりと好きだ」まで,ニュアンスに幅があるのだ.そして「嫌いではないが好きでもない」であるのか「わりと好きだ」なのかのニュアンスは,文脈から読み取る必要がある.

「やぶさかでない」の定型表現を知らぬことといい,必要な文脈を示さずに,しかも不適切な例文「協力を求められればやぶさかでない」の意味を質問したことといい,ほんとに文化庁の三流役人は頭が悪いと言うにやぶさかでない.もっと本を読め.

 ネット辞書の「goo辞書」は文化庁の大間違いに基づいた語義を載せている三流辞書であるが,用例はなぜか適切な例文を載せているので紹介する.

賢明なる三菱当事者のために夫人の便宜を考慮するに吝かならざらんことを切望するものなり。》 (出典は青空文庫の芥川龍之介「馬の脚」である;ところが goo辞書は何をトチ狂ったか「龍之介」を「竜之介」と誤記しており,いかにも三流辞書であるなあと呆れる)

この点では志賀直哉の功を認めるに吝かではない。》 (出典は青空文庫の織田作之助「可能性の文学」である)

その局部に対しては大に賛成の意を表するに吝かならざるつもりである。》 (出典は青空文庫の夏目漱石「文芸委員は何をするか」である)

 私は武田鉄矢と義務教育同学年の者として,武田鉄矢の日本語知識はかなりのものであると以前から感心しているが,ただ,試験勉強的に知識を得るのではなく,小説を読むなどの読書によって日本語の力を蓄積して頂きたいと思うのである.

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