ベルは黄色のドレスを脱ぎ捨てて
『美女と野獣』,よかったですね.エマ・ワトソン,よかったですね.もう「これがデイズニーだよ!」というスクリーンでありました.
私が映画を観に行く辻堂の109シネマズはシネコンだから,広いロビーには同時上映される何本もの作品の観客が混じっている.昨日の主な観客層は,黄金週間を楽しむためにやってきた子供連れのお母さん,若いカップル,十代から二十代の女性二人連れだったろうか.
『美女と野獣』上映館に入ると,若い女性たちで満席のようだったが,中には私と同年代と思しき爺さんと年輩の御婦人がちらりほらり.
きっと彼らは私と同様に,幼年時代にデイズニーアニメの洗礼を受け,少年時代は日本テレビで隔週放送だった『ディズニーランド』(Wikipedia【ディズニーランド(テレビ番組)】;プロレス中継と交互に放送された) に夢中になった人たちでありましょう.
団塊世代と呼ばれた私たちはやがて社会に出て,家庭を持って子育てをした.昭和五十八年 (1983年) の春,東京ディズニーランドが開園し,それから平成に至る長いあいだ,夢と魔法の国は団塊世代の家族であふれたのだった.
エレクトリカル・パレードのベル (1990年撮影)
いわゆるディズニー・プリンセスは,当時はまだ多くなかったから,東京ディズニーランドのパレードでメインキャラを張ったのは,元祖プリンセスにして特別扱いの白雪姫,シンデレラ,そしてベルだった.オーロラ姫は記憶にないしパレードの写真にも写っていない.今はパレードにいるのだろうか.
別に資料を持っているわけではないが,若い女性に人気ナンバーワンのディズニー・プリンセスは,ベルだと思われる.
白雪姫は,ボケーっと待っているうちに幸せになりましたというお姫様であるし,服がダサダサである.あの服を着て結婚披露宴をしたいと思う女性は我が国に一人もいないと私は断言する.コスプレには最適だが.
シンデレラはどうかというと,へこたれずにイジメに耐えていたら魔女が幸せにしてくれたという受け身の人生.脚本は橋田壽賀子でお願いします.
これらと比較すると,明らかにベルは能動的に王子樣を愛するのであり,これが女性たちの共感を呼んでいるのではなかろうかと爺さんは愚考するのである.
さて昨日の記事《ベルの黄色いドレス 》に
《一説によると,ヨーロッパでは「花嫁は青いものを身に着けると幸せになれる」という.シンデレラのドレスが青いのは,これを踏まえているらしい.
とすると,ベルのドレスが黄色い理由が知りたい.調べてみたが,今のところ不明だ.》
と書いたが,『美女と野獣』を観て一つ思ったことがある.
物語の後半,悪漢ガストンがベルの父を精神病院送りにしようとした寸前,野獣に開放されて呪われた城から戻ったベルはガストンに抗議するが,ガストンに精神病院行の馬車に閉じ込められてしまう.
ベル父娘を村に置き去りにしてガストンと煽動された村人たちは城を襲撃に向かうが,ベルと父は馬車の錠前を開けて逃げ出す (ここはアニメ版と少し異なっている).
そしてベルは愛馬に乗って城へと疾駆するのであるが,その時に城での舞踏会で着ていた黄色のドレスを脱ぎ捨て,カメラはそのドレスに焦点をあてた.
このシーンは,やはり黄色のドレスには意味があることを示唆しているだろう.(このシーンがアニメ版でどのような演出だったかは未確認)
そうこうして物語はハッピーエンドを迎え,ラストシーンの舞踏会で,ベルは花柄の白いドレスで踊る.これはベルの次のドレスが純白であるだろうことを想像させる回収されない伏線だろう.
こうしてみると黄色いドレスは,ベルの愛が成就するために脱ぎ捨てられねばならないものだったと考えられる.
ところがディズニー映画の公式サイト (日本) で『美女と野獣』のコンテンツには次のように書かれている.
《『美女と野獣』でベルが身に纏う印象的なイエローのドレス。このイエローには、”知性“や”自分らしさ“という意味が込められているとも言われています。》
これはちょっと違うんじゃないか.《”知性“や”自分らしさ“ 》を脱ぎ捨ててはいけない.
そこで黄色という色の持つイメージについてウェブを検索してみると,英語の "yellow" には「臆病」という意味があるようだ.
だとすると,野獣に対する愛を確信したベルが,黄色のドレスを敢然と脱ぎ捨てて愛馬に打ち跨り,勇敢にも城へと疾駆するという伏線が,クライマックスで,息絶えた野獣にベルが呼びかける "I" love you で見事に回収されたのだと観客は納得できる.ベルは「愛されるのを待つプリンセス」ではなく,「自ら愛するヒロイン」であることを明らかにしたのだ.王道の映画作法といっていいだろう.
ここに至って観客は,ヒロインのベルを,女優エマ・ワトソンの生き方に投影することができる.エマ・ワトソンの起用は,長年にわたり女性差別の象徴であるとの烙印を押されてきたディズニー・プリンセスに関するディズニー映画からの回答であろう.
来週まで銀座三越では,エマ・ワトソンが映画で着た黄色の豪華ドレスが展示されている.作品中の黄色のドレスの意味云々はさておいて,実に華やかだ.実写版『美女と野獣』は,オールド・ディズニー・ファンたちにお勧めである.
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