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2017年4月16日 (日)

昭和の時代考証 (三)

 NHKの新朝ドラ『ひよっこ』の第二週が終った.
NHKの時代考証力を見るのも一興であろうから,暫く朝ドラを視聴してみようか》と私は前々稿に書いた.
 第一週の放送に関しては時代考証が変だと文句をつけたが,第二週の内容については,時代考証の誤りではなく,矢田部家の飯についての疑問を述べたい.

 まず下の画像を御覧頂きたい.(録画データから静止画を切り出すのはたぶん許可を要するので,面倒くさいからテレビ画面を撮影してそれをトリミングした.これなら正当な引用の範囲で使用できる)
 茨城県の北部で農業をしているヒロインの家庭では,麦飯が常食であると第一回の放送で説明がなされた.
 その時の食事風景では家族が食べている麦飯を録画して観察できなかったのだが,第二週の放送で,皆揃ってカレーライスを食べる場面があり,下の画像はそのカレーライスである.

20170416a

20170416b

 さて私たちが麦飯と呼んでいるものは,通常は米と押麦を炊いたものである.これについては Wikipedia【麦飯】の記述が正確妥当なので下に引用する.

精麦
麦を精白したものを精麦という。麦粒は米に比べて煮えにくいので、先に丸麦を煮ておき水分を捨てて粘り気を取り、米と混ぜて一緒に炊いた。湯取り法の一種である。また麦をあらかじめ煮る手間を省くため、唐臼や石臼で挽き割って粒を小さくした麦は、米と混ぜて炊くことができた。これを挽割麦という。これは主に農家の自家消費用であったが、明治十年頃からは一般にも販売されるようになった。
現在多く流通しているのはいわゆる「押し麦」であるが、これは麦を砕く代わりにローラーで平たく押しつぶし、煮えやすくしたものである。明治35年に押し麦が発明されたが、当初は麦を石臼にかけ、手押しのローラーで押して天日で干す手作業で製造していた。大正二年、発明家の鈴木忠次郎が麦の精殻・圧延機を開発し、精麦過程が機械化された。更に鈴木は精麦機械の改良に取り組み、この「鈴木式」精麦機を備えた工場が各地に設立されて、精麦の大量生産体制が整った。
昨今ではさまざまな精麦が開発されている。
丸麦   大麦の外皮を取り除き、精白した状態そのままのもの。
押麦   精白した大麦に水と熱を加えて2つのローラーで押したもの。粒の真ん中に黒条が残る。麦とろに良く用いられる。
切断麦  黒条(中央の線)を縦に半分に切り、水と熱を加えて2つのローラーで押したもの。
米粒麦  黒条から縦に半分に切り、米粒状に剥いたもの。押麦や切断麦は水洗いの際に浮きやすいのに対し、米粒麦は米と混ざりやすくなっている。

 上の記述にあるように,戦後の一般家庭で食べられていた麦は押麦である.
 押麦が発明される以前は丸麦が食べられていたのだが,これは米と一緒に炊いたのでは堅くて食べにくい.そのため丸麦を食べるには,米とは別にあらかじめ炊いておき,軟化したもの (えまし麦という) を米に混ぜて炊くという二度手間が必要であった.
 そのため,炊事に火を用いてよいのが一日一度に限られていた江戸時代の都市部一般町人 (お上から火災予防のためにきついお達しがあった) は,麦飯ではなく米の飯を食わざるをえなかった.
 体によいとかの理由で玄米や丸麦を食べていた人は昔からいたであろうが,一般国民に麦飯が広く普及したのは昭和の戦後である.
 で,『ひよっこ』のヒロインの家庭は農家であるが,これまでの放送内容からすると,米の単作 (一毛作) である.
 これは特に無理のない設定であるが,その場合は,麦飯を日常食とするとしてもその麦は押麦以外ではあり得ない.なぜなら,自給できない故にわざわざ購入する麦を,押麦ではなく炊飯コストの高い丸麦にする理由がないからである.

 そこで上の画像だが,押麦と丸麦は実物を一目見れば瞭然であるが,残念ながら上の画像は解像度が低くてよくわからない.
 次の問題は色である.カレーソースと共に映っている炊かれた米も麦も非常に濃い黄褐色をしている.これは,カレーソースの色に色調が影響されているのではなく,カメラを少し引いたシーンでも同じ色調であった.
 私は今も時折麦飯を食うが,こんな色の麦飯は見たことがない.普通の麦飯はやや灰色を帯びてはいるが黄褐色ではない.これほど黄褐色なのは玄米御飯に違いないと思われる.
 だとすると,使われている麦は押麦ではなく,搗精度の高くない丸麦だと思われる.(玄米と押麦を一緒に炊くのは無理だ)
 だがしかし,そうすると,ヒロインの矢田部家ではわざわざ丸麦を買って食べていることになり,それはおかしい.
 ドラマでは詳しい説明がなされていないが,矢田部家の飯は一体どのようなものであるのか.若い人は「あれが麦飯なのねー」と思うだけだろうが,私のような年寄りは疑問に思う.爺さん婆さん視聴者が納得できるような説明して欲しいと思う.

 あと,もう一つ.失踪した夫の消息を訊ねにヒロインの母が東京に行く日の朝,炊事をするシーンで,研いだ米を電気炊飯器に入れて蓋をしたが,このとき麦を入れなかった.
 えまし麦も押麦も,研いだ米を炊飯器に入れる時に混ぜなければいけない.
 米と押麦を一緒に研いで,それを同時に炊飯器に入れたとドラマの演出家は言い訳するかも知れないが,昔から押麦は研がずに用いる.研いだ米を羽釜とか鍋,あるいは電器炊飯器に入れ,それに押麦を加え,それから水加減をして炊くものなのである.
(参考;全国精麦工業協同組合連合会のサイトのQ&Aから引用.
Q. 麦は洗わずに使えるって本当?
 A. 精麦製品の原料となる麦は、外皮が硬いため、製造工程で麦粒の40~50%は、削り取られていきます。したがって、その過程で糠も除去されますので、特にお米のようにとぎ洗いする必要はありません。

 言い忘れたが,有村架純ちゃんはかわいいが,ヒロインの母の木村佳乃さんもいいなあ.美人は麦飯の炊き方なんか知らなくても全く構いません.よかったよかった.

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