髑髏島の巨神 (四)
前稿《髑髏島の巨神 (三)》の末尾に《しかし凡庸な脚本家と映画監督は,パッカード大佐を道化師にしてしまった.この一点だけでも,『キングコング:髑髏島の巨神』は凡作怪獣映画と呼ばれて然るべきなのである》と書いた.
このようにパッカード大佐の描き方という点において『キングコング:髑髏島の巨神』は凡作であると私は断ずるが,文章作法とか小説作法という言葉に倣っていえば映画作法としても納得し難いことがある.
一つは特務研究機関モナークに所属するウィリアム・ランダ (ジョン・グッドマン) の描き方だ.
作品の導入部における登場の仕方からして,観客は,この男が物語に重要な役割を演じると思うに違いないが,ランダは調査団を髑髏島に連れて行っただけで,あとは何もしないで死んでしまうのだ.おいおい,と言うしかない.
女性カメラマンのメイソン・ウィーバー (ブリー・ラーソン) は,ただもうカメラのシャッターを切っているだけで,ストーリーの進行を左右する働きはしない.「キングコングとヒロイン」という「コング映画のお約束」のためにだけいるのである.
女性ではもう一人,やはりモナーク所属ののサン・リンという女が出てくるのだが,これが最後まで生き残る割に存在感がゼロで,台詞もなくて,いてもいなくても一緒という体たらくなのである.むしろいないほうが (その分,ウィーバーが目立つから) いいとほとんどの観客は思うはずだ.
あとの登場人物も大同小異で,髑髏島の案内人として雇われたジェームズ・コンラッド (トム・ヒドルストン) が,位置付けからして脇役なのに,これが地味に生き残ってしまう.
その一方で,死んだパッカード大佐もランダも間抜けな退場の仕方で,全くヒロイックでない.
要するにこの映画には,キャラの立った主役がいないのである.だから観客は,見終わって狐につままれたような欲求不満にならざるを得ない.
最近のファンタジー作品では『ローグ・ワン』と『シン・ゴジラ』が傑作であると高く評価されているが,それらと比較するとえらい違いだ.
とはいうものの,もしかすると無名の映画監督ジョーダン・ヴォート=ロバーツは単なる怪獣オタクであって,映画で人間を描くことなど眼中になかったのかも知れない.キングコングとヘリ部隊のアクションを撮影するだけに関心があったのではなかろうか.
納得し難いことの二つ目.
Wikipedia【キングコング: 髑髏島の巨神】に次のようにある.
《レジェンダリー・ピクチャーズ製作の怪獣映画を同一世界観のクロスオーバー作品として扱うモンスターバースシリーズとしては第2作目の映画である。》
《撮影前に脚本は複数の脚本家たちの関与を受けた。キングコングとゴジラの連続した世界観が求められたため、『GODZILLA ゴジラ』のマックス・ボレンスタインが初稿を書き、次いでジョン・ゲイティンズが第2稿執筆のため雇われた。》
つまり『キングコング:髑髏島の巨神』と『GODZILLA ゴジラ』は同一の世界の物語だというのである.
では『GODZILLA ゴジラ』がどんな作品だったかというと,Wikipedia【GODZILLA ゴジラ】にこう書かれている.
《ガーディアン誌は「日本のゴジラに込められていた反核の風刺が、この映画では滑稽なほど弱まっている腹立たしいリブートだ」と批判している。》
このように酷評されたのは,『GODZILLA ゴジラ』では「第二次大戦後に米国が太平洋で行った核実験は,実はゴジラを倒すために行われたのであった」という設定になっていたからである.これをガーディアン誌は《日本のゴジラに込められていた反核の風刺が、この映画では滑稽なほど弱まっている》と批判したのである.
ゴジラを倒すために核兵器を使用したというが,米国が一体何発の核兵器を太平洋で爆発させたか知ってるのか.ゴジラが何千匹も出てきたというのかお前ら.
『シン・ゴジラ』では,米国の圧力によって東京で核兵器が使われようとする.これを回避するために日本政府側は死力を尽くす.このことが『シン・ゴジラ』のメッセージの一つであり,リアルの日本人の胸を打つのであるが,『GODZILLA ゴジラ』においては米軍は無思慮に核兵器の使用を強行し,しかも失敗する.日本人からすれば,あほかお前ら,という愚かなシナリオである.
同じ怪獣ゴジラを登場させておきながら,日米の映画人を比較すると核兵器に対する感覚がこれくらい異なるのだ.
この,初代ゴジラに対する一切のリスペクトを払うことなく作られた恥ずべき超駄作『GODZILLA ゴジラ』と同じ世界観の上に作られた『キングコング:髑髏島の巨神』もまた駄作となるのは必然であったと言えよう.
(《髑髏島の巨神 (五)》続く)
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