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2017年4月 6日 (木)

美しい飯 (一)

 先月の記事 (3/25) 《飯の粒が立っている 》に次のように書いた.

一昨日 (3/23) 放送のテレビ東京『カンブリア宮殿』は …… 例によって例の如きいつものビジネス成功譚であって,とくにどうということはないが ……》

 『カンブリア宮殿』など日経がスポンサードしているビジネス情報番組は,現役の会社員が観れば「ふむふむなるほどねー」と一応思いはするだろうが,まあいつもはそれだけの,右の耳から入って左の耳に抜けても構わぬ軽い番組ではある.
 ところがこのあいだの放送 (3/30) は,いつものビジネス成功譚ではなかった.

 その回の紹介文をテレビ東京同番組のウェブページから引用する.

人や地域のつながりが希薄化する中で、2つの"食堂"が、小さな奇跡を起こそうとしている。都心のオフィス街に2年前にオープンした風変わりな食堂が注目を集めている。「未来食堂」は、客が店を手伝う「まかない」、それによって手に入れる「ただめし」など、客と店が"つながる"不思議なシステムが盛りだくさん。徹底した"効率経営"と、"客と一体化した店作り"で、食堂の新たな可能性を模索している。一方、「子ども食堂」は経済的困窮や孤食に陥る子どもたちに向けて、低料金で温かい食事を提供する取り組み。地域のボランティアが中心となって、いまや全国で300カ所以上開設されている。子どもたちの新たな"居場所"としてその役割に期待が寄せられている。独自の発想と信念で、失われた社会の"絆"を取り戻そうとする、2つの"感動食堂"を紹介する!

 この惹句に書かれている未来食堂 (トップページ左上にあるタイトルバナーをクリックして欲しい.小さな定食屋で公式ウェブサイトを持ち,事業計画書を公開し,プレスリリースを掲載するという驚くべき店だ.これは店主の経歴によるものだろうが,それについては後述),東京は神田神保町の教育会館地下にある個人営業の大衆食堂である.まだ三十二歳の若い店主,小林せかいさんは,この食堂をビジネスとしてきちんと意識しているようだが,しかし日経のビジネス番組が取り上げるほど営利の飲食ビジネスとして大きな成功をしているとは言い難い.毎月の粗利で八十万円程度の黒字経営ではあるが,そこら辺の料理店やラーメン屋で,もっと利益を上げている店はザラにあるだろう.
 だがこの未来食堂の意義,価値は,毎月の利益がどうのということにあるのではない.この食堂は,大抵の人があっと驚く仕組みを持っているのだ.

 まず,この食堂は狭い店内に十人ほど客が腰掛けられるコの字型ウンターがあって,中で小林さんが忙しく立ち働いているのだが,未来食堂がユニークなのは,誰でも小林さんの手伝いを買って出ることができるということ.
 皿洗いでも調理でもいいが,手伝いをすると,その人は一食分の「ただめし券」をもらえるのである.
 これは以前から類似のシステムがある.一番有名なのは,暴力団などの反社会勢力との関係を疑われた大東隆行元社長が射殺された事件で知られる中華料理チェーン「餃子の王将」の一部店舗がやっている「皿洗いキャンペーン」である.(参照《「王将フードサービス」特集 なぜ、皿洗いをすれば定食をタダにするのか 》)  
 この王将 (京都の出町店) の「皿洗いキャンペーン」は美談のように言われることがあるが,実は皿洗いをすれば一食の飯がただになるという,ただそれだけのことである.王将側は皿洗いの人件費を計算にいれると別段の損があるわけではないから,美談とは少し違うだろう.
 上に紹介したウェブ雑誌記事《「王将フードサービス」特集 なぜ、皿洗いをすれば定食をタダにするのか》では

また、皿洗いをやった客は王将に親しみを感じるでしょう。今はお金を持っていなくとも、将来はリピーターになる客なんです。だから、顧客の囲い込みにもなる

と損得づくのように言われてしまって,まあそこまで言われると,善意でやっているに違いない王将出町店の店長がお気の毒ではあるが.(笑)

 閑話休題.未来食堂の小林さんの発想のすごいところは,「皿洗いや調理を手伝うと飯がただになる」のではなく,「皿洗いや調理を手伝うと見知らぬ誰かに一食分の飯をプレゼントできる」という点にある.
 具体的には,手伝いをした人は,縦横五センチほどのメモ用紙に日付と自分の名前と例えば「この券を使ってください」などと書いて,店の入口にあるホワイトボードに貼り付ける.
 そのボードにはこんなことが書いてある.

ただめし券
誰でも使えます。はがしてもってくると一食無料になります。困った時は使ってください。会計時にみせてください。未来食堂では50分のお手伝いで一食もらえる"まかない"制度があります。ただめし券は"まかない"でもらった食券をどなたかが置いていったものです。

 給料日直前とか何かの事情で切羽詰まって飯を食う金に困った人は,入口のボードに貼り付けてある「ただめし券」を一枚取って席に着けば,ただちに定食が目の前に提供される.これが未来食堂の「ただめし券」システムである.
(続く)

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